Posted on 2017.11.15 by MUSICA編集部

エレファントカシマシのニューシングル
『RESTART/今を歌え』に込めた並々ならぬ想いを
宮本浩次が清々しくも雄弁に語り尽くす

今の僕にとって、毎日の中で曲を作る時間というのは、
限られた時間の中にある夢の時間じゃないけど、
希望を感じられる瞬間になってるんですよねぇ。
当たり前のように音楽の中に身を置いてるっていう状況が今はある。
だからある種、非常にクールだし、非常に素直なんです

『MUSICA 12月号 Vol.128』P.30より掲載

(冒頭略)

■まず宮本さんは普段、ツアー中にそんなに曲を作ったりはされないですよね? たしか前に、SWEET LOVE SHOWERで山中湖のホテルに泊まった時に1曲できたっていう話を聞いた覚えがあるんだけど。

「ああ、“moonlight magic”はそうでしたね」

■ただこの2曲はツアー中に作ったと。そうなったことで宮本さんの中で違うモードや違うテンションみたいなものがあったんですか?

「どっちもドラマが決まってたんですよ。それも結構嬉しくて。ドラマみたいなものって何回も流れますから聴いてもらえるチャンスが増えるので、非常にいいなと思って。しかも“今を歌え”はNHKのBSのドラマなんですけど、純粋なバラードっていうリクエストだったので、それもよかったし。最近はどれも割としっとりした、メロディ中心の曲が多かったですけど、その中にあってもミディアムバラードというか王道で作れたのが嬉しかったんですよねぇ。これ、コードも3コードなんですよ。で、歌っていることに関しては“RAINBOW”、“TEKUMAKUMAYAKON”以降の私の追ってるテーマそのものというか。となると当然、“夢を追う旅人”とも“風と共に”とも被るところもあるんですけど、でも曲調が違うこととドラマ主題歌っていうところでかえって整理された部分があって、よりソリッドに淡々と、素直な歌詞を歌えたなと思うんです。無理やり前向きな言葉も入ってないし、非常にそのまま、ありのままっていう……そういうところで自分で満足感高かったですね。で、“RESTART”のほうは時代劇だっていうことは聞いてたんで、それも凄くいいなと思って。これはエレファントカシマシのこぶしの利いた部分にピッタリだし、そこを素直に歌えるチャンスなんじゃないかと。あとね、やっぱり凄くデカいのが、ソールドアウトがいっぱいあるんですよ。今のツアーが全部売り切れちゃったの!」

■今まさに終盤へと差し掛かってる47都道府県ツアーが。

「そう。やっぱりそういうのは自信になるんですよ。こないだの野音もそうだったんだけど、お客さんがもう、『私達、どんなエレファントカシマシでも大丈夫!』みたいな感じがあってさ」

■無敵感ってやつですね。

「そうそう。で、我々もそういうお客さんとの相乗効果もあって、ちゃんとエレファントカシマシというものを届けられている実感があるんです。だから自信を持って、変に寄り道しないで歌詞を作ることができたっていうか……もちろん苦労はしたんだけど、でも本当に素直に歌うことができました。僕は自分が素直に生きれりゃいいんだってよく歌ってるけど、そういう意味での素直な気持ちをこのシングルの中にだいぶ出せたんじゃないかって思ってます」

■“RESTART”というタイトルは、デビュー30周年、そして50枚目のシングルという非常にメモリアルなタイミングに対して自覚的な言葉でもあると思うんですけど。歌詞はどういうふうに考えたんですか。

「うーん、もがかなくなったっていうか…………たぶん充実してるってことなんですけど。ツアーもまだ継続中なんでなんとも言えないんですけど、なんか辛ければ辛いほど充実してる、みたいなことってあるじゃない? 要は、何事も真剣にやればやるほど辛いこともあるわけで。楽しいことも辛いことも、喜びも悲しみも全部が同時進行なんだよね、僕らの人生は。まぁでもとにかく、この数ヵ月は絶対に毎週末コンサートがあるっていうサイクルの中で僕は生きてまして。つまり、コンサートも曲作りもレコーディングも、あるいはプロモーションも、すべてが同時進行の中で生きてるわけなんですよね。それってしんどいけど、非常に音楽的な環境の中で生きているし、充実してるんです。そういう毎日の中で曲を作る時間というのは、僕にとって限られた時間の中にある夢の時間じゃないけど、希望を感じられる瞬間になってるんですよねぇ。それこそ昔、中学校や高校の時に中間試験や期末試験が嫌で“デーデ”を作ったりとかさ。大学入ってからもそうだったけど、とにかく嫌で嫌でしょうがなくて、その息抜きとして“ファイティングマン”とかを作ったりしてたわけですよ。で、今僕が曲を作ってる感覚っていうのはそれに近いっていうか。もう本当に時間がないからさ、襟を正して曲を作るみたいな、そういう感じじゃないわけよ。いつもみたいに、歌詞を書くために毎朝8時から2時間論語を読むとか、昔の小説を読むとか、そういうことができない。だって『8月30日が締め切りってお前ふざけんなよ! そんなもんできるわけないだろ!』って言いながら徹夜して作るみたいな、ほんとそういう感じだからさ。でも、だからこそむしろ集中力が高いっていうか、ここに希望を見てるっていうか………言ってること、わかります?」

■凄くわかりますよ。

「まぁだから、非常に充実してるってことだと思います。当たり前のように音楽の中に身を置いてるっていう状況が今はある。だからある種、非常にクールだし、非常に素直なんですよね」

■“風と共に”は夢や自由というものをイメージして歌詞を作ったというお話をされてましたけど、今回のシングルに対してはもっとありのままに、ただただ今の自分を歌にしたという、その感覚は凄くわかるんです。そこにはきっと、ハードなツアー中だからこそ、そこで転がってる自分をそのまま音楽にすればいいんだっていう気持ちもあったと思うんですが。

「あー………“風と共に”の時は希望とか夢とか、ここじゃないどこかも歌ってたもんね。でも、(“RESTART”と“今を歌え”の)この人は、もうちょっと現状というものを認めてるというか……それも引っ括めての本当の俺だって思ってる感じはしますよね。僕はね、バカなのかもしれないけど、勝手に物事を先延ばしにすることが多くて困っちゃうんですよ」

■というのは?

「勉強したら凄く頭がよくなるんじゃないかとか、バンドももっと練習したらもっとよくなるんじゃないかとか。もちろん練習したらよくなるんだけどさ、でもやっぱり難しいこともあってさ。たとえば“RESTART”の主人公はロックスターに憧れてるわけだけど、人によっていろんな憧れってものがあって、でも実際は、それを実現している実感を持って生きてる人ってそんなにいない。もちろん金メダルなんか獲ったりね、何かで優勝した瞬間とか試験に合格した瞬間とか、そういう瞬間的に達成感みたいなものを感じることはあると思うんだけど、でも普段はそんなこと思ってないわけじゃない。むしろ僕の場合は、夢の中に入り込んで現実がさっぱりわからなくなってることのほうが多かったわけで。それがようやく、そういう自分っていうものを認められるようになったというか……いや、そんなこともないか。変わんねえっちゃ変わんねえな」

■………………(笑)。

「でも、音楽活動が充実してるっていうのは一番デカいです。ツアーで実感している、こんなにみんな俺達のことを待ち望んでてくれたっていう嬉しさ……30周年というか、40年近いバンドの歩みで自分達を肯定してもらってる感じが凄くして。それは凄く大きなことですね。こうやって言葉にしちゃうと相当空々しいんだけどさ、でもやっぱり嬉しいんだよね。この年齢になって全国のホールが全部ソールドアウトするっていう、そんな状況に身を置いてるっていうのは、自分がヘロヘロで中年であればあるほど愛おしい時間というか大事な時間なんですね。だからこそ、非常に素直な気持ちで歌に向かえてるんじゃないかって思いますね」

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text by鹿野 淳

『MUSICA12月号 Vol.128』