Posted on 2013.02.17 by MUSICA編集部

ACIDMAN、遂に辿り着いた『新世界』の全貌に迫る

ただひとつのことを歌い続け9枚目のアルバムに辿り着き、
「今ラストソングをここで歌おう」と放ちながら、
「今日、世界は生まれ変わる」と覚醒する。
太陽の高揚、風の音、光の速さで新たなキャリアと衝動と確信を響かせる
アルバム『新世界』。
アシッドマン、さらに「たったひとつの音」に近づく――

『MUSICA 3月号 Vol.71』P76に掲載

■おめでとう。

「ん? いや、ありがとうございます(笑)。何がおめでとうなんですか?」

■このアルバム。これは近年の中で突出した名作だと思うし、ここからの5年、10年への確かな一歩を踏み出したコンセプチュアルな作品にもなっている意欲作だよね。手応えあったでしょ?

「手応えは凄くありますね。だからそう言っていただけるのはとても嬉しいし、自分の感覚が間違ってなかったんだな、と。まあでも、いいものができてるなっていう実感は最後、曲順を決めるまでは持てなかったですね。今回印象的だったのは、いつもマスタリングが終わって決着がつくと、ちょっと満足いかない部分がポロポロ出てくるんですけど、今回はそういうことがなくて。スタッフも含め全員がちゃんと満足感が得られたんですよね。中でも何がいいって、濃いものができたことがよかったと思う。それは重過ぎるとか粘っこい濃さじゃなく、濃密なんだけど、1曲聴き終わると次の旅に出ちゃう感じというか。その旅は長いし、なかなか帰ってこられない旅だとわかりながらも、また出かけていくような………だから自分でも1個1個、世界がどんどん入れ替わっていくのが楽しかった。そういうアルバムですね」

■近年、バンドが大人になったからなのか、アルバム制作でテンパってる雰囲気がなくなっている気がするんだけど。今回も割とリズミカルに淡々と作れた感じなの?

「いや、そうでもないですよ。いろいろ大変でしたね(苦笑)。でも、煮詰まってスランプになってみたいなことは1個もなかったですね。1曲ずつ明確に世界は見えていたので。あと、今回は佐藤(雅俊:B)くんが作曲にまで踏み込んできてくれたので、それが自分の心の余裕というか拠り所になって、凄く心強かった」

■2年3ヵ月ぶりのアルバムだということも含め、かなり前から作ってた曲も入ってきたんだと思うんだけど。つまり2011年の3月11日以降の自分の中での衝動を音楽としてしたためていったものの総集編という意味合いもこの作品には込められていると思うんです。その辺はどうですか?

「それもありますけど、3月11日以前に作った曲達もあるんですよね。なので、いろんなものが詰まってると思います」

■『新世界』というタイトルは、自分達の結成15年/デビュー10年からの「新世界」でもあるし、今の日本が「新世界」を描かなくちゃいけないというふたつの意志を込めていると思うんだけど。

「そうですね。実は他の候補も考えてたんですけどね。でも、まさに今は時代が変わる瞬間だと思うし、時代が変わるということは、人の価値観が変わるっていうことでもあるし……この『新世界』ってタイトルが自分自身ストンと腑に落ちたのは、マスタリングが終わった時だったんですよ。このアルバムの曲って、どれも同じ瞬間にそれぞれ違う世界で起きていることを歌ってる――住んでる星も空間も次元も違う、ただ同じ時間軸の上にあるパラレルワールドに生きる10人の住人が経験していることを歌ってるんだなということに気づいて。つまり、それぞれの新世界を描いてるんですよね。で、最後の“to gen”ていうのは桃源郷のことを指していて。最後、この歌の主人公である10人が天国というか、桃源郷に集まって満たされるっていう、ハッピーエンドのイメージなんです。“to gen”は、1曲目の“gen to”と対になってるんですけど、これは現当(げんとう)っていう仏教の言葉から取っていて。その言葉には世界の生と死とか、終わりと始まりという意味もあるんです。つまり、そこから始まり、最後は桃源郷で終わるっていう意味を込めていて」

■音を聴いている感触として今回特徴的なのは、バンドで音を鳴らしてるっていう感覚が非常に強いんですよね。その印象は、自分の中で腑に落ちる部分はあるんですか?

「目標とするところまではまだ行けてないですけどね(笑)。でも、その手がかりみたいなものは鳴っていると思います。俺、作曲クレジットをACIDMANとしている以上、本当の意味でそうなりたいってずっと思っていて。だからそれこそ結成した頃から、佐藤くんや一悟くん(D)に楽曲制作にもっと力を入れて欲しいって言ってたんですけど、なかなか上手くいかなくて何年も何年も経って(笑)。でも今回、佐藤くんが作曲に関わり始めてくれたのを含めて、凄くバンドという手応えは生まれてると思う」

(続きは本誌をチェック!)

text by 鹿野 淳

『MUSICA 3月号 Vol.71』のご購入はこちら