Posted on 2013.05.15 by MUSICA編集部

五十嵐隆、4年ぶりの「生還」ライヴ、緊急最速レポート

五十嵐隆は、
syrup16gを従え戻ってきた五十嵐隆は、
本当に生還したのか?

『MUSICA 6月号 Vol.74』P14に掲載

 所謂メインストリームに一度も足を運んだことがないアーティストだし、音源も一度もオリコンのトップ10に入ったことがないが、Syrup16gの解散ライヴだった武道館は即完だったし、その後何年も眠っているにもかかわらず、今も行方を追い続けるリスナーは一向に減らないという、巨大なカルト層を抱えている五十嵐隆である。しかも彼に魅力感じている人は、そのネガティヴな思想性のみならず、曲のよさだったり、儚くも美しい世界観だったり、シューゲイズな音の暴力性だったり様々で、五十嵐が担っているロックの魅力の多さと大きさを改めて感じる。
 今回の何の前触れもなければ予感もない一夜限りの復活ライヴも、言うまでもなくチケットを買えなかった人が買えた人の何倍もいるという、プレミアム・ライヴとなった。
 会場へ入ると、お客さんの気合いや緊張感は相当張りつめているはずなのに、場内は淡々と静かだった。それはこのホールの雄大さと、あとはファンがそんなに若い人が多いわけじゃないことが含まれていると思ったが、個人的な感触では現役でシロップを聴いてなかったんじゃないか?という人もそれなりに多く混じっていた。既に日本のロックの伝説の中に五十嵐はいて、その情報に期待を膨らませて来た人もいたのかもしれない。
 僕の後ろの人達はずっと「メンヘラ」について話していて、「メンヘラが一番嫌いなのは何かわかる?」「わからない」「それは、『現実』だよ」という、妄想リアルと歌い叫ぶアーティストのライヴらしい会話が聞こえてくる。
 そんな中、19時8分に会場が暗くなった。その瞬間に今までの静かな空気がガラッと変わり、一気に凄まじい緊張感が張りつめた。そしてステージに光が灯されるが、そのステージにはスクリーンのような幕がかかっていて、まだ僕らは五十嵐とはフィルター1枚の世界で遮断されていた。しかし、そのフィルターは1曲目のイントロによって見事に払拭される。
 いきなり“Reborn”から始まったからだ。
「生還」と名付けられたライヴのどアタマに「再生」の歌にして彼の圧倒的な代表曲を響かせる。見事なオープニングのその瞬間、異様な「声にならない叫び」がホール全体を包んだ。動物の歓喜の叫びのような大きな声が客席からステージに音を消すほど浴びせ掛けられ、五十嵐を迎える。そんな特別な空間の中、ベールの奥でシルエットとして光る五十嵐は、とても冷静に歌い出した。
 その声は久しぶりだからなのか、とても綺麗な声で。こんなに歌が上手いと彼に思ったのは初めてだった。今になって冷静に考えても、今までよりも明らかにこの日の五十嵐は「歌えていた」。“Reborn”が終わると、今度はステージ全体に光が投射される。するとベールの奥で光ってるのは、五十嵐含め3人。この時点でほとんどのオーディエンスは、そこに誰がいるのかを察知した。見回すと、多くの人達が顔をくしゃくしゃにして泣きながら喜びに震えている。低いドラムセットを動物のように叩く、あの姿は中畑大樹しかいない。そしてシルエットまでがポーカーフェイスな、寡黙な姿勢で雄弁なベースを奏でていくあの姿はキタダマキしかいない。その確信に震える客席の予感は、歌が始まりベールが落とされステージが露になった瞬間に、現実となった。
 そこにいたのはSyrup16gだったのだ。

(続きは本誌をチェック!)

text by 鹿野 淳

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