Posted on 2013.07.18 by MUSICA編集部

plenty、殻を破り覚醒を迎えたワンマンツアー密着レポート

「人生でこんなにも声が出なかった日はなかった」と
悔しさに肩を震わせた夜を越え、
覚悟をもって感情を曝け出し、その生き様を歌と音に映し出し、
大切なモノを掴み取った、覚醒へのドキュメント。
分厚い殻を破り、大きな頂きを越えたplenty、
そのターニングポイントの瞬間に完全密着

『MUSICA 8月号 Vol.76』P.60より掲載

「………大事なことがわかった気がする。……………こうやって人を巻き込んでいくんですね。こうやって歌っていくんですね。………忘れないな、今日のライヴは。絶対に忘れない…………」

 6月15日(土)、仙台Rensaでの公演が終わった後、江沼郁弥は楽屋のソファに深く身を沈めながら、とても満ち足りた笑顔を浮かべ、何度も噛み締めるようにその言葉を繰り返した。これから綴るのは、彼がその言葉に辿り着くまでの2日間のドキュメントだ。5月にリリースしたセカンドアルバム『this』は音楽性/メッセージ性双方においてplentyが大きな飛躍を遂げた大傑作だったが、この2日間は、「生きること」をテーマに音楽を歌い鳴らすバンドがライヴという現場でそれをいかに表現するかという意味において、とても大きなターニングポイントを越えた瞬間だった。

 6月14日(金)、「plenty 2013年 梅雨 ワンマンツアー」6本目となる新潟LOTS公演当日。15時40分に会場に到着し、そのままフロアへ向かうとステージ上ではリズム隊がサウンドチェック中。新田紀彰とサポートドラムの中畑大樹のコンビが音を鳴らしている。楽屋にて、ちょうどお弁当を食べ終えた郁弥に遭遇。挨拶がてらツアーの調子を問うと、少しも迷うことなく「よいです」という返答が返ってきた。実はこれって珍しい。郁弥は自己評価がとても厳しくて、こっちが凄くよかったと思うライヴでも、終演後の楽屋で「もう終わりだー! こんなんじゃダメだ、解散だー!」と叫ぶような人である。ツアーが始まる少し前に話した際、「今度のツアーでは『this』の肉体ヴァージョンを魅せますよ!」と意気込んでいたのだけど、どうやら自分でもはっきりとした手応えを感じるライヴができているようだ。

 16時10分、リハ開始。plentyは今年の4月のライヴからサポートギターにヒラマミキオを迎え、4人体制でライヴを行うようになった。これは3rd EP以降、『this』に向かう道程で格段に緻密かつ多彩なアレンジが行われるようになった音像をステージ上でも表現するための策で。もちろん功を奏し、ヒラマが入って以降、ライヴにおいても楽曲が持つ繊細かつ雄弁なサウンドスケープをより表情豊かに表すことができるようになり、音楽体験のレヴェルがはっきりと上がっている。

 リハは特に問題もなく、淡々と進んでいった。1曲丸ごと演奏することはほとんどなくて、モニターの調整と確認をメインに進んでいく。ステージ上からは時折笑い声も聞こえてきたりして、4人の間に通う空気はとても穏やかだ。バンドの状態がいいことの何よりの証である。

(続きは本誌をチェック!)

text by 有泉 智子

『MUSICA 8月号 Vol.76』より