Posted on 2013.11.16 by MUSICA編集部

長澤知之、辿り着いた圧倒的最高傑作。
彼だけの音が解き放たれた、今作の所以に迫る

 

どういうふうに人間関係を築けばいいのか、
以前の自分は本当に疎かったと思う。
そういうコミュニケーション能力が
自分にもあるっていうのは、発見だった

 

『MUSICA 12月号 Vol.80』P.92より掲載

 

 

■「ここから新たな長澤知之が始まる!」という新しい息吹きが詰まった、とんでもなく素晴らしいアルバムが完成しましたね。

 

「ありがとうございます(笑)」

 

■中には相変わらず辛辣な歌詞も多かったりするんだけど、作品全体から伝わってくる感覚がとても肯定的で前向きで。長年長澤くんの音楽を聴いてきて、こうして取材をしている人間としては、そこにとても心を打たれました。

 

「そういうふうに感じてもらえて嬉しいですし、実際にこの作品を聴いて、『なんだか開けたねぇ』みたいなことを言ってくれる人がたくさんいて。自分としてはこれまでただ作品を作り続けてきただけで、そこにはほとんど主観しかなかったから、ちょっとまだ作品の全体像を把握できてないかもしれないけど。自分自身としては、ここで何かが変わったという自覚はあまりないんですよ。でも、そういう感想を聞くと、そうなのかもしれないなって思います」

 

■2年前の『JUNKLIFE』のリリースの時は、「ファーストフルアルバムまで長かったね」っていう話から始まりましたけど、あれから非常に充実したミニアルバム『SEVEN』を挟んで、こうしていいペースで作品を生み出してきたことも、このアルバムのいいムードに繋がっているのかなって思ったんですけど。

「そうですね。僕にとってミニアルバムというのはとても重要なもので、6曲とか7曲とか入った作品を作るのも凄く好きなんですけど、アルバムというのはまた別の意味があって」

 

■『SEVEN』の時のインタビューでも、「フルアルバムの覚悟っていうのは、別のものとしてある」って言ってましたよね。

 

「はい。だから、ライヴはもうちょっと数をやりたいとはいつも思ってるんですけど、制作に関してはある程度リズムよく刻めてるのかなって思ってます。欲を言えばきりがないですけど、こうしていい環境でアルバムを作ることもできたし」

 

■今回のアルバム『黄金の在処』は、多くの優れたミュージシャンとの共演が収められた作品になったわけですけど、これは自然とこういうアルバムの作り方になっていった感じだったんですか?

 

「この前の『JUNKLIFE』というアルバムは、相手に対してグッと寄っていって、その耳元で無理矢理こちらから語りかけるような、そういうつもりで作った作品だったので。その火照った身体を一旦冷まして、ちょっと気持ちを落ち着けて、相手とじっくり話し合えるような距離を保つというか。いわゆる、普通の人間関係でいるっていうのかな、そういう今のフラットな気持ちがこういう作品に繋がっていったのかなって思うんですよね。自分自身も、今までよりも人との話し方を覚えたというか、人間関係においてこうしたらいいのかなというようなことをわかってきた感じが最近していて。世渡りと言うんですかね(笑)、そういうものをなんとなく自分なりに覚えてきたような気がしてます」

 

■それって、何気なく言ってますけど、10代の頃ずっと部屋に引きこもっていた長澤くんにとってはとても大きいことですよね。「世渡り」の意味が、他の人が言うよりもずっと重みがある(笑)。

 

「自立への第一歩とでも言うんでしょうか(笑)。ずっと部屋にこもって音楽を作っていて、バンドを組もうとも思ったけど全然上手くいかなくて、バイトはいっぱいしてきたけれど社会経験と言えるような経験はほとんどなくて。そこから今の事務所に入ってここに至るっていう。だから、どういうふうに他の人間とつき合えばいいのか、どういうふうに人間関係を築いていけばいいのか、そういうことについて以前の自分は本当に疎かったんだと思います。それが、少しずつ変わってこれたのかなって」

  

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text by 宇野 維正

『MUSICA12月号 Vol.80』