音楽へのロマンが美しく結実した3枚目のソロアルバム、完成。
闇を光へと変える石毛輝の音楽の核心に迫る。
今回は水の音から作ったりもしたんだよね。
「こういうものを作ろう」っていう作り方はできないけど、
そういう作り方はつまんないし、情熱がない気がして。
純粋に自分が興味がある音、ときめく音を大事にして、
そこから曲を作ろうみたいな感じはあった
『MUSICA 2月号 Vol.83』P.80より掲載
■ソロアルバムも順調に毎年1枚出してきて、今回3枚目なんですけど。格段によくなりましたね。
「ありがとうございます!」
■自分の中にあるイメージや世界を、ちゃんと音楽的に整理して音に落とし込むことができてると思うし、サウンドの配置の仕方やセンスも洗練されたと思う。この向上はどこから来たの?
「単純に技術が上がった(笑)。あとは作ることに照れがなくなったんじゃないかなと思いますね、こういうものを作ることに」
■最初は衒いがあったんだ?
「あるよ、そこはやっぱり。だってファースト出した頃は日本語もやったことなかったし。だから最初は日本語っていう照れと自分の名前で出すっていう照れがあって――」
■あ、自分の名前で出すことへの照れもあるんだ? それはつまり、本名だと必然的に自分自身を表現するものってことになるから?
「そうそう。で、ファーストはそれで終わって、セカンドはやりたかったけどやったことない音楽をやってみるっていうところで、そもそも作り方がわからない、試行錯誤みたいな感じがあって。それを経て、今回は作り方もちょっとわかってきたし、プラス、30にもなるから歌とかも照れがなくなってきたっていう、いい熟れ具合だったんじゃないですかね」
■石毛くんのソロはtelephonesに比べて自分の心象風景だったり、心の奥底で感じていることを音楽にしていくものだと思うんですよ。そういう意味で言うと、その照れというのは、日頃普通に話していてもなかなか他人に見せない根本の部分を見せていくことに対する衒いだと思うんだけど。
「そうだね。まぁ言葉にすると凄い恥ずかしいことばっかり考えてるから(笑)、やっぱりそういう照れはあるよね。あと、さっき言ってくれた音の置き方とかは凄い気をつけましたね。本当はもうちょっと音数少なくするつもりもあったんだけど、結局増えちゃったのが反省点で。でも、やっといいものができた気は自分でもする」
■今回はどういうイメージでいつぐらいから作っていったの?
「年に1枚出したいと思ってるから、最近はtelephonesのアルバム録り終わった後にソロ曲作って、またtelephones作ってっていうのがルーティーンになってて。で、今回のテーマは歌モノにしようってことだった。音楽的には基本的にエレクトロニカとかの流れなんだけど、もうちょっとそこに温かみを入れたいなって思って」
■なんで歌モノにしたかったの?
「歌が歌えるようになってきたんだよね、昔に比べて。昔はバンドでも叫んでるだけのヴォーカルだったから。歌を歌うことの楽しさっていうと月並みだけど、そういうのがやっとわかってきた」
■声の出し方からして全然違うよね。いい声なんですよ。
「ありがとう(笑)。だからハイトーンじゃなくて普通に歌を歌ってみたくて。青臭い感じで作りたかったんですよ」
■エレクトロニカもそうだけど、こういうタイプの音楽ってその人の人間性とか癖みたいなものが凄く出る音楽だと思うんだよね。そこで凄い狂気が前面に出てくるタイプの人もいるし、凄い悲しみの濃いものが生まれる人もいるし。そういう意味で言うと、石毛くんの音楽って凄いロマンチックなんですよ。
「そうなんだよね。ロマンチストだから、基本的にどの曲もちゃんとドラマがある感じになっちゃうんだよね。まぁ今回はそういうテーマだったからだとも思うんだけど」
■『Dark Becomes Light』っていうタイトル、つまり闇が光になるというのがこのアルバムのテーマで。これは最初にあったの?
「それは後づけ。だんだん曲が出揃ってきた時に一貫したものを曲達から感じて。今回は暗い導入部から明るくなっていく曲が多いと思うんだけど、ということは今はそういうモードなんだろうなって思ったし、かつ、それが一番得意なんだろうなっていうのも感じて。だからそこで出し惜しみをしないで作ってみようって感じ。それと同時に『Dark Becomes Light』っていい言葉だなと思って。光に憧れるんですよね、それは子供の頃からずっとそうで。小学校の時からロックスターに憧れてたのもそうだと思うんだけど」
■telephonesも根っから能天気なわけでもないもんね。
「そうそう、ウチのメンバーみんなそうだし。ノブですら根っから能天気ではないからね。でもたぶん、音楽って基本的にそういうもんだと思う。根っから能天気な人があんまりいない世界。で、自分は今回、光に憧れるっていうのを凄い人に伝えたがってるなと思った。普通、アンビエントとかって自分の世界だけで完結して、聴く人について来いなんてまったく思わないじゃん? リスナーもリスナーで別に共感しようと思わない、自分の好きなように聴くから、だからそういう音楽でもいいんだけど。なんか僕の場合はまだメッセージ性があるみたいですね」
(続きは本誌をチェック!)
text by 有泉 智子
『MUSICA3月号 Vol.83』