スガ シカオ、メジャー完全復帰
2年半のDIYな日々から得た確信と、その果てに生まれた大名曲を語る
ひと昔前は、ポップスってライフスタイルの提案でもあったと思うんですよ。
でも、今の時代に提案すべきなのはライフスタイルじゃなくて、
精神的なスタイルなんじゃないかって思うようになって。
それは大きなテーマになっていくと思う
『MUSICA 6月号 Vol.86』P.122-127より掲載
■メジャー完全復帰作となる『アストライド/LIFE』という両A面シングル、これがどちらも本当に素晴らしい楽曲で。これはいつくらいにできた曲なんですか?
「“LIFE”は去年の終わりくらいかな。映画のラフみたいなものを見せてもらって、監督とお話したりしたら、なんか急にスルスルスルッてできたんです。で、“アストライド”は結構昔に断片があって。いつか自分の勝負の時が来た時に、これを広げて曲にしようって思ってたんですよ。で、今回、『大きい仕事があるよ』ってタイアップの仕事が来たんで、『これを使うしかない!』みたいな感じで。そっからバーッと広げて作ってったんですけど」
■その断片って、サビがあったとかそういう話なんですか?
「コードと取っ掛かりのメロが頭の中にあったんです。そこからコードをもう1回広げて、一から曲にしていったっていう感じです」
■スガさんは独立後もコンスタントに配信シングルも切っていたし、“アイタイ”はSPEEDSTARからのリリースだったりしましたけど、今回のシングルはやはり、ポップスに対する気概が違うなという感じがして。基本的にこれまで独立後に出してきた曲は、どちらかと言うと、歌詞も含めたスガさん独特の歌唱のドラマチックさと音楽自体の面白さで引っ張る曲が多かったと思うんです。でも今回の曲は、とにもかくにも、まず純粋にメロディが素晴らしい。これは誰が歌っても素晴らしいっていうレベルのメロディで。これは、やはり今回のタイミングだからこその何かが働いたのか、それとも割と自然に辿り着いたのか、そこはどう思います?
「やっぱりどっちの曲も大きいタイアップがあるっていう前提があって作ってたので、そういう『たくさんの人が聴くんだろうな』みたいなところは無意識にあったと思います。そうすると、選ぶものが変わるんですよ。自分の中で何個か候補があってどれにしようかなって考える時に、『たくさんの人に聴かれるから秘蔵っ子だな』って感じになる(笑)。他にもエグい曲も作ってはいたんですけど、そっちには手を伸ばさなかったという。ただ、“LIFE”に関しては、自分でも『俺っぽくない新しい感じだな』とは思いました。本当に一瞬で作っちゃったから、あまりどうやって作ったかとかないんですけど。降ってきたっていうわけじゃないけど、メロディができて、弾き語りみたいな感じでバーッて作っちゃって、もうそのまま小林さん(小林武史/この曲のプロデューサーを務めた)に投げちゃったんで。俺、アレンジを他の人に出す時も、いつもはほぼ共作でやるんですけど。小林さんに関しては、小林さんの考えるスガ シカオがどういうものなのかを知りたかったのもあって、自分からはほぼ何も言わなかったんです。だから、ますます自分でコツコツ作った記憶がない感じだな。歌詞もササッと書けちゃったし」
■でもこの曲、ご自分でも手応えは大きかったんじゃないですか?
「うん、凄い不思議で。自分っぽくないけど、面白いしいい曲だなと思った。だから俺の中では、もうちょっとベタなアレンジがいいなって思ってたんですよ。そしたら凄いハイブリッドなアレンジが来てびっくりしちゃって(笑)。『こんなハードなアレンジで大丈夫かな?』って思ったんだけど、たぶん小林さんは僕のメジャーデビュー一発目だっていうのもあって、そこに賭ける想いをちゃんと考えてくれたんでしょうね。今になってようやくそれがわかってきました(笑)。これがベタなバラードでメジャー復帰一発目だったら、ちょっとなんかショボイなっていうか――」
■既視感があったかもしれないですよね。
「そうそう、『ヒヨったな、スガ』みたいに見られちゃったかもしれない。小林さんはそこをわかってやったんだなって後から気づいて、ヒーッてなりました(笑)」
■この曲って、確かに古きよき王道のバラード・アレンジでも成立すると思うんですけど、実際は攻めたアレンジで。エレクトロ以降のアプローチも巧くミックスされた、2014年の形になってますよね。これは最近のスガさんのモードにも近いのかなと思うんですが。
「それはそうですね。ダンスビートとして体が動くから――メロディがあって体が動くって、一番ライヴでもやりやすいし、そこは凄く嬉しかった。……でも、最初はちょっとショックだったんです」
■ショック? 何が?
「どバラードにしたほうがウケるんじゃないかって思ってたから」
■はははははは。でも、これめちゃくちゃいいですよ。ちゃんとこの2年半の活動で培ってきた音楽の質感も通底音として入ってるし。
「そうそう、今となってはそう思うんですけどね。やっぱね、『メジャー再デビューします』とか言うと、いやらしい心が働くんですよねぇ。『前にできなかったことをやってやる!』みたいな気負いがあったり、ちょっとやましい心が纏わりついてくるもんなんですよ!」
■(笑)。
「だから今回は“アストライド”もアレンジを他の人に丸投げしたんだけど、よかったと思う。俺が本当に自分でやったら、結構いやらしい心が満載のアレンジをしでかしそうな勢いだった。すっごいベタかすっごい振り切るか、どちらにしても『そんなこと誰も望んでないし』みたいなほうに行っちゃってたかもしれない(笑)」
(続きは本誌をチェック!)
text by 有泉 智子
『MUSICA6月号 Vol.86』