Posted on 2014.07.17 by MUSICA編集部

高橋優、光と影を露骨に暴く
シンガーソングライター、その深い業

人間って、敵を作るってことが一番簡単で。
誰かの意思で報道されたものを受け取って、
『あいつが悪者だ』って言うのはもう飽きた。
だから今作には、できるだけ愛を入れたかった。
明滅の明は、愛だと思って歌ってるんです

『MUSICA 8月号 Vol.88』P.88より掲載

 

■インディーズの頃から作品ごとにこうやって話をさせていただいて。僕は高橋優っていうのは、進むに化けると書いて「進化」を願っていたし、その階段を上り続けてきたし、そういう作品を作り続けてきたアーティストだなって思ってたんです。でも今回は、深いという字に化けると書いての「深化」――それを凄く自覚的に目指して、具現化したんだなと印象を持ちました。まずそう言われて、どうですか?

「毎回言葉にすると、同じようなことを言ってることになっちゃうんですけど……この4枚目のアルバムは、本当に今までで一番やりたいことをやったし、『やりたい!』って思ったことを明確にしながら、それを具現化する作業が本当に楽しかったし、妥協を許さずにやったアルバムなんです。作詞の段階から、本当に寝ないでずっとやってて(笑)。だから、今鹿野さんが思い描いたものをしっかり具現化したっていう話があって――それができたと思ったから、おっしゃるとおりだと思いました」

■まずは表面的な話から。今作の『今、そこにある明滅と群生』というタイトルに関して訊かせてください。これは高橋優の今までの作品として最もわかりにくいタイトルだと思います。でも僕は敢えてこのタイトルをつけたことに、何かの意味があると思うんですけど、どうなんですか?

「タイトルだけで完結しちゃってたら、『あ、こういうアルバムなのね』ってパッケージ化されちゃうじゃないですか。それをできるだけ拒みたかったんです、今回。入り口を敢えて、『ん? それってどういうこと?』っていうふうに入ってもらって――最後の11曲目を聴いた時に、明滅/群生っていうのはこういうところにあるのかって、何かしらの想いを持ってもらえばいいと思ってて。そう思えたのも、今までのどのアルバムより、楽曲の中に自信があったからだと思います」

■それは自分の今までのキャリアがある程度一周したなっていう感覚から生まれてきたのか、それともこの作品を作りながら生まれていった楽曲という子供を見てそういう感覚になったのか、どっちなんですか?

「うーん、一周したっていう感覚はないんで、どっちかって言ったら後者なのかもしれないです。完成するまでは、本当に1曲1曲がどういうふうに成就していくのかまったくわかんなかったんですね。でもどれもイントロからアウトロ、あとは詞の世界観まで、納得するまではマスタリングに持っていかないようにしたいっていうのを自分の中でコンセプトに置いてたんですよ。鹿野さん、途中の音を聴いてくれた後、『前はメッセージが攻めてたけど、今回は音楽として攻めてる』ってメールくれたじゃないですか。あれ、さすが的を得ているというか、嬉しかったんですよ。だから、どの曲も欽ちゃんの仮装大賞で言えば、プルルルタッタッタッタってならないと、絶対に外に出さないと行けないって思って作ったんです」

■ははははは。のど自慢で言うキンコーンカンコンっていうね。

「そうです、ちゃんとクリアしたもの――ただクリアしただけというよりも、『よし、行ってこい!』っていうもので構成されたアルバム。今までもそうだったとも思うんですけど、自分の中でいろんなハードルが上がっている今、それができたのが凄い嬉しかったんですよね」

■高橋優の歌の中で歌われてる世界って、たとえば言葉の刺激、もしくはその言葉の裏にある重い感情が本質というか、アピールポイントだと思うんです。そういうことに代表されるメディア性の強さ、ドキュメンタリー性の強さこそがセールスポイントにもなっていると思うんですよね。ただ、このアルバムに関しては何を歌うのかっていうよりも、どういう音楽にするのかっていうことに、焦点が絞られた音やアレンジが鳴ってるアルバムだなって思ったんです。どうしてそういう気持ちになったんですか?

「音楽を……僕がもっと音楽を楽しみたかったんだと思います」

(続きは本誌をチェック!

text by 鹿野 淳

『MUSICA8月号 Vol.88』