Posted on 2014.08.22 by MUSICA編集部

スピッツ、至福の夏祭り“FESTIVARENA”
名古屋・日本ガイシホール&東京・日本武道館レポート

久しぶりの希少なアリーナツアー、
そのセットリストはシングルたった6曲!?
だけど実態はスピッツ史上最高のセットリストとライヴセット。
今なおポップと音楽感動の一番奥にあるものが何かを体感させる、
スピッツの世界を綴る

『MUSICA 9月号 Vol.89』P.72より掲載

 

 ライヴというのは言うまでもなく立体的な魅力があって。「どんな曲をやるんだろ?」、「どんなこと言うんだろ?」、「どんな演出があるんだろ?」、「どんな一体感があるんだろ?」など、たくさんの「どんな?」が秘めている。その第一歩はステージ演出――。

 チケットをもぎってもらい、自分の席やエリアが何処なのか?を探しながら扉を開けてライヴエリアに入ると、最初に目に飛び込んでくるのがステージセット。ここで、「うわぁー」というふうに目も心も一気に躍り上がる瞬間がスピッツのライヴでは表されていることがよくある。最近では、去年の夏の横浜赤レンガ倉庫横でのメモリアルなライヴのステージが見事だったな。スパンコールのようなキラキラ光る背景が何枚ものタペストリー状になっていて、あんなステージ観たことなかったが、見事なまでにスピッツ的だったし、何よりも野外という「風」を最大限に活かした演出だった。

 こういう数々のステージ装飾は、彼らが「今ある中でどんな選択をするのか?」ではなく、「どんなことをやりたいから、それを今ある選択肢のどれを使って実現させるのか?」という発想でライヴに臨んでいるからできることなんだと思う。

 今回のアリーナツアー「SPITZ THE GREAT JAMBOREE 2014“FESTIVARENA”」のセットはまさにそんな彼らの真骨頂で、ステージの上部には14個の円状のオブジェが左右非対称に設置されていた。これ、なんなんだろう? これが動くのかな? 光るのかな? 怒るのかな?(なわけはない)という空想に夢を膨らませながら、僕はまずツアーが始まった場所である名古屋ガイシホールでのライヴを観させてもらった。

 実際の円状オブジェは、線状になっているLEDライトによって構成されているもので、メンバーはそれを名古屋のMCでは「おっぱい」とか「ヌーブラ」とか言っていて、もうそう言われるとそれにしか見えなくなるのが楽しかったが、だからといって、というか、“おっぱい”という名曲を持っているからといってステージを14個の乳房がゆっさゆっさと揺さぶっているわけはない。

 きっとこの記事の中でも見事に輝いているであろうこのオブジェが、梅雨の真っ最中であり、実際にこの日もライヴ前はお湿りがあった名古屋では「綺麗な電飾の傘」に見えたのに、梅雨が明けて猛暑が続いていたツアーファイナルの東京の武道館では「花火」に見えた(実際にはやはり花火をイメージしたそうです)、そんなツアーをレポートしようと思う。というかもう、随分としてしまっているのだが。

 

  最初に“夜を駈ける”で始まった瞬間は、その曲の表情故にシリアスさが伝わってきたが、その後一気に5曲、軽快かつリズミカルな曲が続いた辺りで、これはアリーナツアーなんだなと。さらに言えば、「FESTIVARENA」というタイトルの意味が伝わってきた。

 デビュー時から一貫して作り笑いを排除してきたし、通常のフェスに出演した時もそんなに高揚したりアッパーなテンションを見せたことがないスピッツだからして、タイトルにフェスという言葉が入ってきても、今のフェスにあるクライマックス感や一体感や裏や影のない陽性は見えても響いてもこないが、ただ4人のマイペースの中からも伺える楽しんでいる様子や、オープニングからMCなしで一気に6曲畳み掛ける部分からも、このライヴが「自分らがまずはライヴを楽しみ、そしてファンにも祝祭感を味わって欲しい」という心情が伺える。

(続きは本誌をチェック!

text by 鹿野 淳

『MUSICA9月号 Vol.89』