Posted on 2014.10.15 by MUSICA編集部

サカナクション、苦悩の果ての名シングル
完成最速インタヴュー!

期待されているものを作れないし、作りたくない。
だけど、それに代わるものを生み出したいっていう感覚――
そのために何を失って、何を手放していくのか、
そして何を得ていくのかっていうのをずっと考え続けている

『MUSICA 11月号 Vol.91』P.38より掲載

 

「なんか久々だね」

■ちゃんとしたインタヴューは今年になって初めてです。

「そっか。前は大晦日だ。っていうか、紅白の時だ(笑)」

■そう。ぶっちゃけた話、間が空くと思わなかったんだけど(笑)、何よりも“さよならはエモーション”が本当に素晴らしい1曲で。

「イェーイ! よかった?」

■もの凄くよかった。客観的に聴いて、この曲は僕は“アイデンティティ”以来のイケメンソングだなと思う。

「イケメンってどういう意味ですか?」

■ヒットしそう。

「ウソ!? 本当に? どういう点でですか?」

■気持ちがもの凄く人に伝わる音と言葉になっている、今の状況に対して凄く的を得ている、そして楽曲自体もしっかりしているっていういろんな意味で。今“アイデンティティ”って言ったのを誤解されないように言うと、決してああいう快楽的な部分がある曲じゃないし、非常にセンチメンタルな曲なんだけど、素晴らしい大衆的な名曲だと思う。

「あぁ、よかったぁ。この曲、曲として今までみたいに派手な部分がないオケだったんですよ。だから言葉をちゃんと筋書き通りに書けないと曲として地味な曲で終わっちゃうだろうなと思ったし、メロディと曲構成が尻上がりなんで、言葉もちゃんと今の自分として尻上がりに書き切らないと伝わらないだろうなっていうのがあって、凄い迷ったんですよね。でも、作り上げてみて……まぁ、もっと時間あればもっと書きたかったけど」

■はははははははははは、これだけ時間かけておいて、それを言うか!

「(笑)。でも、瞬発的に書いたっていう部分では、後半にかけての部分はやり切ったなと思いましたけどね。1番の<レシートは捨てた>まででこの曲は決まるなって思って。ここが生まれるまでにギリギリまで時間かかった。ここから先はほぼ1日半で書いた」

■そこに至るまでのいろんな話を聞いていきたいんですけど。まず、“さよならはエモーション”の原型は去年、東進のCM曲として作ったもので。あの時にすでにAメロとCMで流れてる30秒のサビと両方あったと思うんですけど。でも、シングルにしなかったよね。僕の記憶だと、シングルにしなかったのは別にこの曲に対してネガティヴを持っていたからではなく、“グッドバイ”っていう曲への想いが強かったが故にこの曲を完成まで仕上げることができなくなって、1回制作を止めた。これは合ってる?

「合ってます」

■結果、“グッドバイ”がシングルとしてリリースされ、アルバムへの長い旅が始まったと。その時点では、この曲はどうしようと思ってたの?

「その時点で“蓮の花”のタイアップの話はもう動き始めていて、次にもう1回シングルを出すっていうのは決まってたんです。そこに“さよならはエモーション”が入るか入んないかっていうのは、実はまだ確定してなかったんですね。でも、“蓮の花”の制作が長引いた結果、もう1曲作る時間がなくなって。それで“さよならはエモーション”を成就させるっていうところに完全にシフトして、アレンジに入っていったんですよ」

■アレンジというか、ほとんど作り直すに近い感覚だと思うんだけど。そこに至るまでの“さよならはエモーション”ってどういうものだったの?

「本当にCMのために作ったメロディだったんですよ。CMに提出した時はサビだけだったから、曲の全体像はなかったんですよ」

■Aメロはあったよ。

「まぁあったけどね。一応AメロもBメロもサビもあった。だけど、提出した時には、サビの前の部分は詰めてなくて。つまり曲全体は完成させずに、サビの部分だけを完成させた状態で提出したの。そういうことを今までやったことがなかったから、そこから改めて曲を完成させていくことが凄く難しくなっちゃったんですよ」

■一郎は、本来的にそういう職業作家的な作り方ができない不器用の果てにいるアーティストだからね。

「そう。でも、だからと言って、あのままナシにはできないことだし、絶対曲にしなきゃいけないなっていうところもあったし、かと言って『これを楽曲にするにはどうしたらいいんだろう?』っていうのもあったし……正直億劫っていうか、忘れたかった。でも、メンバーでリハ入ってセッションした時にいろいろ見えてきて、そのうちに方向性も決まってきて……最初はAメロはメロディだけじゃなくて、ラップみたいな形だったんですよ。そういう形で曲として逃げるじゃないけど、ちょっとアンダーグラウンドなほう、飛び道具的なほうに持っていくっていうところに逃げようとしたこともあって」

(続きは本誌をチェック!

text by 鹿野 淳

『MUSICA11月号 Vol.91』