Posted on 2014.11.16 by MUSICA編集部

ACIDMAN、追い求めた世界の究極を
ニューアルバム『有と無』に描く

この世界って、あることとないこと、
たったふたつの0と1で組み合わさっているのに、
言葉では表せない物事、いろんな感情、
非常に複雑な現象が生まれていて、凄く不思議で。
自分はやっぱりその本質を突きたいんですよね

『MUSICA 12月号 Vol.92』P.64より掲載

 

■10枚目のアルバムなんだね。

「そうなんですよ」

■おめでとう、素晴らしい。イチローが首位打者とか打率3割何分とか言われた時に必ず言ってたのが「大事なのは、毎年200本ずつヒット打つことを何年間続けられるのかだ」っていう話で。アルバムを10枚作るっていうのは、そういうなかなか辿り着けない普遍とか偉業を達成するっていうことと同じ、貴重な勲章だと思うんだよね。

「そうですね。でも、やっぱり意識はしてないですね。『10枚目だぞ』って言われてやっと気づくぐらいで、実感としてはいまだに自分達は新人の気持ちなんですよ。10枚も作ったっていう認識もないし、デビューしたばっかりだっていう想いもまだあるし――」

■一悟(浦山一悟/Dr)のあの対応力の悪さを見てると、そこに新人感を感じるけど(笑)。

「はははははははははははは、間違いないです!」

■でも自分達ではまだそんな感じなんだ?

「全然新人です。だからフェスとかで20代の若手バンドの奴らに『コピーしてました!』って恐縮して挨拶に来られると、『あれ? どうやら世間は俺らのことをベテランと見てるのか』みたいな(笑)。なんでだろう?ってよく考えたら、そりゃそうかっていう感じで」

■そういう領域に達したことを、大木はどう感じてるの?

「もう想像もしてなかったですね。10枚もアルバム作ると思ってなかったし、この歳で音楽やってるとも思ってなかったし。でも、全然出し切った感もなければ、マンネリ感もなければ、飽きが1ミリもない。掘れば掘るほど、もっともっと世界の広さに圧倒されていくというか、描けてない世界に絶望するって感じですね」

■でも、そうやって挨拶しに来られたりして、自分達に影響を受けたバンドが第一線に来てるシーンを客観的に見てみると、確実に10枚作って、デビューして12年経ってるわけじゃない? その自分達のポジションっていうのは、なんとなくムズ痒かったりするのか、ある種の達成感みたいなものも感じるのか。どういう感じなんですか?

「全然満ち足りないなって思うと同時に、本当に去年、一昨年ぐらいからいろんな素晴らしいバンドが出てきてるじゃないですか。でも自分達はそのシーンにいないし、あの流れを1歩引いて見てるので、そういうところでちょっとおじさんになってしまってるのかなっていう感じがあります。でも、全然まだまだ欲深いですよ。達成した感じがないですからね」

■作品聴けばわかるよね。何が素晴らしいって、9枚目のアルバム『新世界』は、ここ最近の作品の中では一番いい作品だなと思ったのね。でも、今回の作品はさらにここ何作かと比べてもとても聴きやすいし、音楽的にほぼ全曲がシングルになれる曲だと思っていて。それって、ただいい曲っていうだけじゃなくて、やっぱり展開がちゃんとしていて、ドラマティックで、ダイナミックで、そして攻めてるっていう。そういう曲にほぼすべての曲がなってると思うんですよ。

「あぁ、ありがとうございます。俺もね、自信があります。最後に曲順考えてる時に、自分も本当に全部引き立ってるなって思いましたね。……でも、最初はそうなるつもりはなかったんですよね、このアルバムのスタートとしては。そろそろマニアックに潜ってもいいのかなっていう気持ちがあったんですよね」

■それはどういう理由で?

「表現の幅というか、自分の好きだった世界を追求して――テーマは変わらないんですけど、もう少し言葉を複雑にしてもいいのかな?っていうおぼろげなものがあったんです。でも、蓋を開けてみると、削っていく作業のほうが今の自分には合っていて……本質を歌っていくほうが今の自分に合ってたんです。やっぱりサビもあったほうが気持ちよくて。結果、気づけば凄くキャッチーになっていったって感じですね」

■たとえば前作でデビュー10周年というタイミングがあったし、その後には自分達ですべてのマネージメントをしていくことになったよね? そういうことも含めて、ある意味、深く潜り込んでいったりとか、もっと自分達の世界をそのまま見せて突き抜けたものを作ろうだとか、そういう気持ちになっていったわけではなかったんだ?

「そのままって言えば、これもそのままなんですけど……上手く言えないんですけど、欲望のひとつですよね。アンダーグラウンドな音楽も元々好きなので、そういうのもやってみようって最初は思ってて。だけど、どうもそうはならなくて……だから、やっぱり自分の気持ちよさとか本質がここにあるのかなっていう気がするんですけど」

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text by 鹿野 淳

『MUSICA12月号 Vol.92』