Posted on 2014.12.15 by MUSICA編集部

年間総括特集:THE YEAR 2014
鹿野 淳×有泉智子による恒例対談、
2014年の音楽シーン大検証!

四つ打ちロック全盛期の裏でまさに今起こっている新しい波――
確かなる音楽的多様化と多層化を見せた2014年を放談!

『MUSICA 1月号 Vol.93』P.64より掲載

 

有泉「ここではこの1年の邦楽シーンというものを総括していきたいと思っています。まずは、鹿野さんは2014年という1年をどういうふうに捉えていますか」

鹿野「僕は、今年はどんな1年だったかっていうふうに括れませんでした。去年、2013年のシーンっていうのは、震災以前と震災以降の流れも含めて、本当の意味で2010年代のシーンが始まった年じゃないかって位置づけたんだよね。実際にロックシーンでもKANA-BOONやキュウソネコカミ、ゲスの極み乙女。とかが出てきてそういう兆しを感じたし。でも今年はそういうふうに大きく括って言えるようなことがなくて。だから僕は今年を凄く難しい1年だったと位置づけてるんだよね。『難しい』っていうのは、絶望的な意味とかではなくて、位置づけるのが難しい1年だったっていう」

有泉「位置づけるのが難しい1年だったというのは、私も同意ですね。それはつまり、音楽っていうものがより多様化しているっていうことが、今まで以上にはっきりと表れた1年だったと思っていて。たとえば今の邦楽ロックシーンを語るトピックとして、いわゆる『高速四つ打ちのダンスロック』というものがあって。実際、さっき鹿野さんが挙げた3バンドもその時流に上手く乗りながら大きく飛躍したバンドだと思うし。でも実際には、若い世代の中からも本当に多彩な音楽性を持ったアーティストがこの1年で急速に増えているし、一方で、くるりや銀杏BOYZが自分達の音楽性をラジカルに更新する音楽的な意欲に溢れた素晴らしいアルバムをリリースしたり、THE NOVEMBERSやOGRE YOU ASSHOLEなどの00年代後期のギターロック・シーンから出てきたバンドが独自のエッジを磨いたオルタナティヴを鳴らしていたり、いろんな場所でいろんな音楽がたくさん生まれていて」

鹿野「女性アーティストの活動も活発だったよね。椎名林檎とYUKIとaikoという、2000年代のディーヴァ3人が軒並み新作を出して、しかも最高傑作だと思える作品を作っていったっていうのもそうだし、その次の世代であるyuiがFLOWER FLOWERとして素晴らしい脱皮を果たす作品を作ったり、あるいは後藤まりこがライヴハウスシーンからロックというものの新しい形を作り、大森靖子がメジャーのポップに挑んでいっていたりと、女性シンガーのリアリティポップは素晴らしい形で生み出していったのは印象的だった」

有泉「そうですね。だから非常に多層的な中で豊かな音楽がたくさん生まれていった1年だったと思うんですね」

鹿野「それは今回のベスト50を見ても明らかだよね。実は今回の編集部のランキングは四つ打ちロックというものが多い訳ではなく、もっと様々な形の素晴らしい音楽が生まれていることも表していて」

有泉「はい。たとえばフェスの状況だけに気を取られていると見落としてしまうかもしれないけど、こういう状況に目を向けるということはとても重要なことだと思います」

 

 

2014年の勝者は「四つ打ちダンスロック」だったのか?

 

 

鹿野「とはいえ、やっぱり2014年も四つ打ちロック全盛期ではあったと思うから、そこから行きましょう。思ってることがひとつあって。僕は四つ打ちって、そもそも音楽を売らないジャンルだと思ってるんですよ」

有泉「それは、現場で体感する音楽だからっていうことですか?」

鹿野「ざっくり言えばそうだね。たとえば90年代のトランスって、クラブには何万人も集まったんだけど、その人達は基本的にCDを買わなかったんだよね。実際、日本における四つ打ちって90年代、80年代のアイドルや歌謡曲シーンでも使われていて、みんなを楽しませる音楽というか、お茶の間向きのものとして重宝されていたんだけど、そういう歌謡曲が特別にセールスを上げていたかっていうとそうでもなくて。そういうものが現場一体感主義のフェスの時代だから蘇ってきたっていうのはあるけど、そもそも売れない音楽なんじゃないかって根本的に思ってる。だから、サカナクションをひとつの例に出すと、彼らがセールス的にも素晴らしかったのは、デビュー時から『ダンスミュージックとフォークを融合させる』っていう明確な50/50の構造を持っていたからで。サカナクションが成功したのは、その『フォーク』っていう歌謡性によるところが大きいよね。やっぱり歌っていうのは『歌国・日本』って言われている中で人に認知されていくし、記録/保存していきたい音楽として、セールスパワーを持っているものだったりして。そこにクラブミュージックを上手く合わせていったからこそ、セールス的にもブレイクを果たすことができた。でも、そういう戦略性のない四つ打ちロックが売れないっていうのは、凄く必然的なことだと思う」

(続きは本誌をチェック!

text by 鹿野 淳×有泉智子

『MUSICA1月号 Vol.93』