Posted on 2014.12.17 by MUSICA編集部

ドレスコーズ、再びひとりになった志磨遼平、
表現者としての深い業と性が白日の下に

信頼し合うとか、期待し合うとか、喧嘩するとか。
そういうのはもう自分には望まない。
だから諦めます。「もうお前、ずっとひとりでやれ」って感じです

『MUSICA 1月号 Vol.93』P.118より掲載

 

■このインタヴューが載る号は12月15日の発売なんで、アルバムが出た後なんですよね。

「あぁ、そうか。でも、めっちゃすぐっすよね」

■うん。だから、もうアルバム聴いてる読者もいるだろうし、いろんなメディアでひと通りの流れみたいなものを知ってる人もいるだろう、と。そんなわけで、あんまり回りくどい表現とかはナシで、ダイレクトに深く切り込んでいきたいと思ってるんですけど。

「わはははははは! 怖いなぁ(笑)。ラスボスじゃないですか」

■(笑)なんで、早速アルバムの話をすると、音楽的にはもの凄くよくて。志磨さんのメロディ、ソングライターとしての才能が凄く発揮されてるし、割り切れない感情の生々しさとか、衝動みたいなもの――ひとりになってから2週間で一気に曲を作って、1ヵ月後にはレコーディングを終えてた、とにかく早く作り上げようとしたっていうのをドキュメンタリーの映像でも見たんですけど、そういうスピード感の中で志磨さんの手癖みたいなものもたくさん入ってると思うし。

「うん、そうですね」

■純粋に音楽として素晴らしい作品になったと思うんです。ただ、ファンとしてバンドのストーリーみたいなものを含めると、なんとも割り切れないし、ポジティヴに捉えるのも難しい位置づけの作品で。

「そうですね(笑)。僕も初めて全部ひとりでやりましたので、今までの中で一番こそばゆい作品ではあるなって。『カッコいいでしょ、うちのバンド』ってわけじゃないから……照れますけど、ご好評いただいてますしね。こういう取材の場とか、友達に聴かせた時もみんな割と『よかったじゃん!』っていう感じで」

■ちなみに、元メンバーのみなさんからも反応は返ってきたんですか?

「ベースの(山中)治雄には会えたんで、渡したんですよ。まだ菅(大智)さんと丸(丸山康太)には会えてなくて、聴かせてないんですけど。治雄からは返事来ましたよ。えーと……(と、携帯を取り出して)『“スーパー、スーパーサッド”、ヤバいね。全部のメロがサビみたいに聴こえる感じ、久々に味わいました。これは志磨くんの葬式でファンが合唱するよ。ウケる(笑)』と来ましたね」

■(笑)。葬式っていうのは別にしても、とてもパーソナルな音楽ですよね。サウンド的にも、ギター、ベース、ドラムの音は鳴ってるけど、いわゆるバンドのダイナミズム的なものはないし、それよりも志磨さんの歌とメロディっていうものが際立っていて。

「確かに。バンドしかやってこなかった人が作る、ひとりのアルバムではありますよね。あのね、バンド的なダイナミズムを排除したかったんですよ、録音の時に。大体自分でアレンジが頭の中になんとなくあったし、スタジオに入って早速録りましょうっていう時に――大体どんなアルバム作る時も最初に、どういうふうに録ろうか?的なサウンドプロダクションを簡単に話すんですね。今回も馴染みのエンジニアさんとやることにしたんですけど、なんとなく宅録というか、ひとりで多重録音していくのがわかるように録りたいって言って」

■それは、バンドじゃなくてソロプロジェクトなんだってことを音像的にも明確にしたかったってこと?

「そうですね。バンドって、バンドのグルーヴ感とかダイナミズムとか一体感みたいなものを無意識に再現しようとするじゃないですか。一発録りとか、ね? ロックバンドがレコーディングの時に望むのは、まるで自分達のライヴがスピーカーから聴こえるように録りたいっていうのが、たぶん刷り込みで無意識にあって。でも、今回は『嘘じゃん!』って思っちゃって。だってバンドいないんだし(笑)。だから、バンドのダイナミズム、ダダダダッバーンッ!みたいなロックのカタルシスみたいなものは全部排除しましたね。逆に、昔の録音ってトラック数が少ないから――たとえばドラム録って、その上にベース録って、ギター、ピアノって録って、最後に歌入れてってやっていくから、最初のほうに録った音がどんどん劣化していくんですよね。ドラムとかすっげぇ小っちゃくなっちゃって。で、一番最後にオマケで手拍子とか入れるもんだから、結果、手拍子が一番デカく入ってるってことってよくあるじゃないですか」

■ありますね(笑)。

「そういうのって、普通の空間、僕らが生きているこの環境の中ではあり得ない響きなんですよね。ドラムよりも手拍子のほうが大きく聴こえることなんて、絶対起こり得ないわけで。架空の世界みたいな。でも、レコードの中だけではそういうことが成立するっていう、レコードの中だけの空間みたいなものが確かにあって。そういう、この世に存在しない、もう1個の架空の世界みたいなものが音楽の世界っていうイメージがあって。今回はそういうふうに聴こえるように録りましたね」

■わざと虚像の世界を作ったんだ?

「そうです。“妄想でバンドをやる(Band in my own head)”って曲が入ってますが、まさしくこれが今回のアルバムのひとつのテーマで。『僕の妄想のバンド』っていう(笑)。だから、まるですぐそこで演奏してるかのような音像は、さっきおっしゃっていただいたようにバンドのヒストリーとか今の僕の状況を知ってる人からすれば、ちょっと考えれば嘘ってわかるじゃないですか。でも、レコーディングって別に嘘をつくことじゃないし。なので、自分が全部の楽器を演奏して重ねていったように、それが敢えて明確にわかるように作りましたね」

■当然、そういう虚像や妄想の中で描かれるバンドって、ご自分にとっては理想形のバンドなわけですよね。つまり、嘘でも虚像でもなんでもいいから、一番最高なバンドの理想形をこのタイミングで志磨さんは求めてたっていうことだと思うんですけど。

「というより、たぶん僕は常々それを求めてて、イレギュラーとしてこの2年半があるって言ったほうが、なんか正確な気がする」

■この2年間半のほうが逆にイレギュラーだったんだ?

「うん、たぶん……」

(続きは本誌をチェック!

text by 寺田宏幸

『MUSICA1月号 Vol.93』