Posted on 2015.03.19 by MUSICA編集部

吉井和哉、『STARLIGHT』で遂に辿り着いた
「吉井和哉のスタンダード」

やっぱり相当苦しかったんですよ、今回の世界を作るのは。
自分がずっと幻想として抱いていたロック観と
そろそろ決別しなきゃって気持ちはあったし、
何を歌えばリアリティがあるのかとか、
何を歌えばポップソングになるのかは凄く考えた

『MUSICA 4月号 Vol.96』P.62より掲載

 

■4年ぶりという待望のアルバムなんですけど、その待望感以上に本当に素晴らしい、THE YELLOW MONKEY時代含めて吉井和哉という表現の真ん中に見え隠れしてたものが最高の形で音楽として結実した作品であり、同時に清々しいまでに新しい始まりを鳴らしたアルバムだなと思いました。吉井さん自身はどうですか?

「非常に名作ができたと思っております。よくできたなと思ってます」

■非常に難産だったと聞きましたけど(笑)。

「ははははは、難産だったねぇ(笑)。けど、難産の甲斐はありましたね」

■年末に『クリア』のインタヴューをした時は、1月にもう1回アメリカに渡って作業をするという話だったんですけど、結果的に作詞を最後まで詰めることになり、日本で作業をしていたという話も聞いたんですが。

「そうですね。いろいろスケジュールが重なってきてしまったところもあったし、やっぱり歌詞に関しては最後まで自分のスタジオで作りたいと思った部分もあったりして。でも、それが結果凄くよかったんだよね。今回はミックスを全部自分のスタジオとLAのジョー・バレシのスタジオでやったんだけど、オンラインで全曲ちゃんとやり取りできて。……やっぱりミックスって出産の瞬間だから、立ち会いたいんだよ。でも、立ち会うと結局『ここの音をもうちょっと上げてくれ』とか言っちゃうんだよね」

■というか、そのために行くわけですよね。

「そうなんだけど。でも、家を建てる時に、素人が余計なこと言ってめちゃくちゃになるパターンもたまにあるわけですよ(笑)。でも今回は1回向こうに任せて上がってきたものを聴いてチェックするっていうやり方でやって……もちろん今回も信頼してる、吉井和哉のことを凄いわかってるエンジニアにやってもらったから、失敗するわけはないなって思ってたからこそなんだけどね。でも、これは非常に効率がいいね(笑)。与えられた音をプロの耳でバランス取ってくれたものを、本当に新鮮なまま完成させることができたから。おかげでもの凄いサウンドが生まれたからね」

■本当に、凄くいい音が鳴ってますよね。曲調としてはカラフルだし、骨太なロックサウンドからキャッチーなものや哀愁系までいろいろありますけど、総じて抜けのいい、非常に気持ちがいい音が鳴っていて。

「そうなんだよね。自分でも感動したもん。実は今回は、サウンドに関しては結構人に頼ったんですよ。自分自身はとにかく歌詞の世界に夢中というか、『どういう世界観を書くか』っていうことに夢中で取り組んで、サウンドに関してはかなり人に任せたの。もちろん気にはするんだけどさ。でも、曲によっては元Queens of the Stone Ageのジョーイ・カステロとアラン・ヨハネスにドラムとギターをやってもらったり、Wilcoのパトリック・サンソンにシンセ、キーボード類はお願いしたり、あと、ウチのツアーメンバーのバーニー(日下部正則)にギター弾いてもらったり……もちろん僕がギター弾いてる曲もあるけど、僕が世界で信頼してるプレーヤーにお願いすることができたので。で、もう僕のことわかってる人達ばかりだからね。そういう意味ではある意味バンドでもあったし。エンジニアのジョーも、最早バンドメンバーみたいなところもあるしね」

■盟友と言っていいドラマー:ジョシュ・フリーズも参加してますけど、“ボンボヤージ”に続きR&B/ファンクの神様のようなドラマー:ジェームス・ギャドソンも2曲参加してたり――。

「そう、“ボンボヤージ”でこの人はやっぱり凄い!と思って、アルバムでもお願いして。ハーマン・ジャクソンもそうだね。スティーヴィー・ワンダーのツアーでキーボード弾いてる人なんだけど、ギャドソンとハーマンは一緒にやってもらいたいなと思って」

■他にもマット・チェンバレンという名ドラマーも今回初参加したり。

「うん、マットとはようやくできた。なんでできたかって言うと、マットがシアトルからLAに引っ越してきたからなんだけど(笑)。で、そういう感じで、気づいたら世界の吉井和哉バンドが形になってたっていう(笑)。だから本当に、安心して委ねられたっていうのはあるかな」

■なるほど。ただ、吉井さんはソロになってから、自分がどういうサウンドを鳴らすのかっていうことに関しては執着してたというか――。

「そうだね。むしろサウンドのせいでいろいろ壊したものもあるし(笑)」

■そこを人に委ねることもできたっていうのは何故なんでしょうね。

「そこはねぇ……こういう若いバンドも読んでいるであろう雑誌だからこそ言いたいんだけど、サウンドはどうでもいいんだよ」

■えっ!? ちなみに吉井さん、『クリア』のインタヴューで「今とコネクトするのはサウンドだ」っておっしゃってましたよ。

「そうなんだけど。つまり、『サウンドじゃねぇんだ、俺の声なんだ』っていうのが自分でちゃんと理解できてないと、自分のサウンドっていうのは一生得られないんだっていうことが、今回よくわかったんです」

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text by 有泉智子

『MUSICA4月号 Vol.96』