Posted on 2015.08.17 by MUSICA編集部

凛として時雨、初のベルリンレコーディングを行った
ミニアルバム『es or s』で新章の幕を切る!
新たな衝動と音像、不変の哲学すべてをTKが語る

自分自身の音楽人生において凄く大事な扉を開けられたなって思います。
「まだこんなのがあったんだ」って
自分が見たことないものに欲求が生まれたことが、凄く嬉しかった

『MUSICA 9月号 Vol.101』P.12より掲載

 

■これまでマスタリングをイギリスで行ったりもしていましたし、TK自身はよく海外に行って、そこで見た景色が歌詞に繋がっていったこともあるという話も前に聞きました。でも、凛として時雨として海外でレコーディングをしたのは、今回が初めてですよね?

「そうですね」

■このタイミングで時雨として作品を作ろうとなった際に、まず海外でレコーディングしようという明確な目的があったんですか?

「前にソロの曲作りをするためにベルリンに行ったことがあって、その時は知人のアパートメントに泊まったりしてたんですけど、せっかくだからピアノを弾きたいなと思って、あらかじめピアノが弾ける場所を探しておいたんです。で、そこでピアノを弾いたり写真を撮ってたりして過ごしてたんですけど」

■それは新しいインプットを求めてのことだったの?

「そうですね。日本でも同じ作業はできるんですけど、見ている景色によってどういった違いが生まれるのかっていうことを試したいなと思って。その時、いろんなタイミングだったり自分の感情みたいなものが上手く重なって、スッと1曲できたんです。それで急遽現地で調べたレコーディングスタジオに行って、『弾き語りで録るから、レコーディングボタンだけ押して出て行ってくれ』ってお願いして(笑)、向こうで録ったんです」

■それは時期としてはいつ頃のこと?

「ソロで『Fantastic Magic』というアルバムを作る時ですね。日本に帰ってきてアルバムを仕上げていく中で、ベルリンで録ってきたその曲と日本で録ったものと並べて聴いたら、やっぱりどこか空気が違っていて。もちろん曲の質感もあるんですけど、向こうで録ってきたものはちょっと空気がシーンとしているというか……電圧とかそういう問題もあると思うんですけど、でもやっぱり、その場で見ている景色だったり空気だったりが音に入り込むんだなっていうことを、初めて自分の実感として感じられたんです。なので、小さな夢として、いつかバンドで海外のスタジオに行けたらなっていうのは漠然とあったんですよね」

■その違いっていうのは、たとえば環境が変わって自分が解放されるみたいな、ある種の解放感を覚えたっていうのに近いんですか?

「そういう感覚とはちょっと違うんですけど……海外だと『自分を見つけられる』っていう感覚を割と強く感じられるんですよね。幽体離脱じゃないですけど、いつも閉鎖された中にいる自分を解き放つというか、自分自身というものからスッと自分が離れて、より客観的に自分を見つめ直せるというか……それこそ『自分ってちっぽけだな』って思ったりとか(笑)。そうやってどこか冷静に自分を見つめることができる状況で音を作るっていうのが凄く新鮮だったんですよ。それで、自分がどういうモチベーションになるかということも含めて、バンドで海外レコーディングできたら面白いんじゃないかっていうふうには感じていたんですよね」

■これは僕の想像なんですけど、凛として時雨の世界って非常にクローズされている世界だし、どれだけ圧迫した世界観の中で音を仕上げていくかということに賭けている部分もあるバンドだと思うんですよ。そういう意味でいくと、自分達の手の内とは違うところに行ってレコーディングするっていうのは、結構大きな決断だったんじゃないかと思うんです。そういう決断をした背景として、1月に初めてのベスト盤を出した後、バンドとして再び新章に向かうタイミングであったということも強く関係しているんですか?

「僕としてはベストアルバムのインタビュー時『時雨として次に何がやりたいのか』っていう話が出た時に、ひとつ海外レコーディングは挙げていたんですよね。その時はいつ実現できるか全然わからない上で話してたんですけど(笑)。ただ……僕としてはベスト以降に初めて3人の作品を作る上で海外レコーディングを選んだっていうのは、ある意味、自分への甘えだったかなっていう想いもあって」

■それはどういう意味で?

「自分が凛として時雨で新しい音を作る上で、一番簡単な場所を選んだなっていう(笑)。今まで閉鎖された中でやってきて、その上でベストっていうひとつの区切りを作って。その後で何をやるかって言った時に、外へ飛び出して音を作ってみようっていうのは、3人で一番フレッシュな気持ちで音に向き合えるっていう意味合いで一番簡単な手段ですから」

■物理的な環境を変えてしまうっていうのは確かに手っ取り早いかもね。

「そうなんです(笑)。もちろん、先ほど話したように海外レコーディングは自分がやりたかったことではあるんですけどね。海外に行って録るっていうのは予算だったりいろいろ難しい面もあるんですけど、そこは周りのスタッフも含めてクリアにしていただいて、スムーズに実現できたので……というか今回はいろんなことがスムーズだったんですよ。で、スムーズに行き過ぎると不安になってきて(笑)」

■ははははは。

「音源も締め切り前に納品して、レコード会社のスタッフに『まだ締め切り当日じゃないですけど、大丈夫ですか?』って確認されましたし(笑)」

■いつもは当日ギリギリまで作業するのに、今回は巻いたと。

「はい。それくらいスムーズだったんで、なんだか自分に甘えちゃってるような気がして(笑)。……でも、メンバーもリラックスした状態でレコーディングができたのでよかったと思います。そこだけ引っかかってたんですよね。自分は海外に行くことも好きですし、向こうで生活することも好きだから、その中で自分が録ったりミックスしたりできるっていうのは、日本とは違うストレスはありつつもそれを超えるインスピレーションが同時に作用するので、凄く過ごしやすいんです。ただ――345はヨーロッパが好きだから大丈夫かなと思いつつ、中野くんはあまり海外旅行とかもしない、どちらかと言うとずっと地元を愛してる感じなので(笑)、環境的にストレスを感じたりしないかなって心配だったんです。でも中野くんも初日から凄く楽しそうにしていたので『あ、これは大丈夫そうだな』と。ビールも環境も上手く合ったみたいなので(笑)」

■まぁドイツはビールが水みたいなもんですから、そういう意味ではピエール的にはばっちりでしょ。

「そうですね(笑)。もちろんスタジオもちゃんとしたところで、楽器も含めて変なストレスはあまりない状態でレコーディングできましたし、バンドとしてとてもよかったなと思いますね」

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text by鹿野 淳

『MUSICA9月号 Vol.101』