Posted on 2015.08.18 by MUSICA編集部

米津玄師、進化=変化し続ける
彼の新たなる宣言たる名曲『アンビリーバーズ』

誰かに向けて言葉を書いて、
誰かに向けて音を構築するっていう作り方をしたい。
別に人間がみんな100%正しいわけないじゃないですか。
でも、その人の中にある悪い部分も踏まえた上で、
100%肯定してやりたいって思う。
「俺には何ができるのか」ってことをより強く考えるようになったんですよね

『MUSICA 9月号 Vol.101』P.48より掲載

 

■『Flowerwall』以来のシングルですが、その間にツアーがありました。で、そのツアーでは、ハチ時代のボカロ曲(セルフカヴァー)→『diorama』の曲→『YANKEE』の曲と、今に至る流れを時間軸を追ってセットリストを組んでいたわけですけど。どうしてあの形でやろうと思ったんですか。

「簡単に言うと自己紹介っていうか――その前にライヴやった時は3ヵ所くらいだったから、全国回ったのは今回が初めてで。そういうタイミングで何をするべきなんだろう?と考えた時に、自分が今まで何をやってきたかおさらいしてみようと思ったんです。この機会に過去から今現在までをライヴという場で1個にまとめてみたら一体どうなるんだろう?って」

■実際に自分の歴史を辿るライヴをやってみてどうでした?

「昔の曲は暗いですよね」

■ははははは。音楽の形としては暗くないけど、歌詞は暗いよね(笑)。

「今思うと『俺は何を考えてこんな歌詞書いてたんだろう?』って不思議になるんですよ。全然別人の曲みたいに感じることが凄くあって。詞もナンセンスっていうか、一見すると支離滅裂だし。今の自分は――ちょっと前からですけど――ちゃんと伝わるような歌詞を書こうと思いながらやってるんですけど、いざ振り返ってみると『こんな歌詞書いてたんだ』と思って。これはわかんねぇよなって(笑)。もちろんわかってくれる人もいると思うんですけどね。改めて振り返って、不思議な感じがしました」

■初期から順を追うライヴって時々あるけれど、米津くんの場合はほとんどのアーティストとは性質が異なる――要するに初めはVOCALOIDだったし、名義も違ったわけで。で、その時代の曲も含めて今回「米津玄師」のライヴとして体現することができたのは、『YANKEE』を作り終えて何かしら区切りがついたというか、ハチから今までをひとつにしてもいいと思えるようになった部分もあったのかなと思ったんですけど。

「でも、区切りのタイミングはやっぱり“サンタマリア”だったと思います。『diorama』はボカロで培った方法論を全部出して、その時点で考えられる自分の最高のものを作ったアルバムなので、充足感と満足感が凄くあったんですよ。で、やっぱりそういうものを作ると、必然的に同じことはできないわけじゃないですか。だから『diorama』の後はテンションが下がるっていうか、出がらしみたいになった状態の自分を客観的に見て、自分にとって今何が必要なのかっていうのを1年間ぐらいずっと考えて……それが結果的に“サンタマリア”という形になって。あそこは今振り返っても区切りだったと思うんですけど」

■そうですよね。で、実は私は今回の“アンビリーバーズ”を聴いた時、“サンタマリア”の時以来のターニングポイントを感じさせる、ポップミュージックの担い手として新しいフェーズへ飛び出した手応えがある名曲だなと思ったんですよ。ご自分ではどうですか。

「変わっていかなければならないという意識の下に作ったものなので、そう感じてもらえるのは嬉しいです。この曲自体は“Flowerwall”以前にあったんですよね。それこそ一番最初の原型は『YANKEE』を作ってる時にできたんですよ。その時にもうメロディとコードは明確にあって」

(中略)

■初期の頃から祭り囃子のようなビートを取り入れていたダンサブルな楽曲もたくさんあるし、アッパーでカオティックな狂騒感は米津くんのひとつの武器でもあったと思うんですけど。でも“アンビリーバーズ”の音像が描き出す昂揚感とダンスミュージック性というのは、今までの攻め立てるような昂揚感とは違う、もっと開放感と包容力が真ん中にあるスケールの大きなタイプのもので。それが凄く新鮮だなと思ったし、同時に、この1年で始めたライヴだったり、より多くのリスナーを巻き込むようになった最近の米津くんの立ち位置にとても合った音楽性だと思ったんですよ。そういう意識が働いているところもあるんですかね?

「なるほど。……開放したいし、されたいっていうのはあります。開放感っていうのは、今自分の中で凄く重要なキーワードなんですよね。自分が今住んでるところが結構開放的なところで、部屋の窓から見る景色とかが凄い開けてるんですよ。前に川があって、川を挟んで奥のほうにちらほらと建物があって。……今住んでいる街は凄い不思議な街で。ちょうどいろんな建物が新しく作られていっている街なんですよ」

■今まさに変わっていってる街なんだ。

「そうなんです。だから建てかけのビルとか駐車場が凄いいっぱいあって。建てかけなんで鉄鋼剥き出しとか、骨組みだけみたいな感じなんですよね。それって、いわゆる生まれる前の状態だから、言ってみればこの先に希望が望まれる建物っていうことじゃないですか。でも実際に今の状態のそれを目にすると、死体にしか見えないんですよね」

■まだ生気はどこにもないっていう。

「そう。これから生まれていくものなのに、今はまだ死の匂いしかしない。だから、それを見る度に『生まれる前の状態って死んでるのと同じなんだな』とか考えてて。その街で暮らしてると不思議な気分になってくるんですよ。開放感はあるんだけど、人もあんまりいなくて、ちょっとした後ろ暗い気分みたいなのが内包されていて……何かが生まれていくことには希望があるけれども、その先にはやっぱり不安もあるし。生まれゆくものの中に死の匂いがすることもそうだけど、そういう相反するふたつがひとつのものに同居してるっていうのが凄く不思議だし、美しいなと思うんですよね。……だからそれを音楽にしたいなって自然と思いましたね」

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text by有泉智子

『MUSICA9月号 Vol.101』