Posted on 2015.09.17 by MUSICA編集部

くるり、シングル『ふたつの世界』に見える
作曲家・岸田繁の新たな挑戦期

今まで自分が避けてきたこと、
「これは自分っぽくないな」という思い込みで避けてきたことに
音楽で取り組んだことで、日常生活においても
今まで完全に蓋をしてた扉が開く感じがあるんですよ。だから今は、
ダーマ神殿に行ってレベル1になってやり直し、みたいな感覚(笑)

『MUSICA 10月号 Vol.102』P.84より掲載

 

■今年の頭にペンタトニック(くるりのプライベートスタジオ)に伺った時以来のインタヴューになるんですけど。

「ああ、そっか。あれ2月くらいでしたっけ?」

■はい。あの時、その後「NOW AND THEN」のアンコールで披露された“その線は水平線”も含め、3曲ぐらいのプリプロを聴かせてもらってたんですが、それとはまた全然別の、まっさらな素晴らしい曲が生まれましたね。これはいつ頃に生まれた曲なんですか?

「アニメのタイアップの話をいただいてから作りましたね。今回は書き下ろしなんで、ストーリーの世界観に沿うようにイメージを膨らませながら作ったんやけど。と言ってもまぁ、こういうことやるの初めてなんで、自分らがそこに沿えるかどうかはわからなかったんですけど(笑)」

■くるりって『ジョゼと虎と魚たち』や『奇跡』をはじめ映画の音楽や主題歌を手掛けたりはしてきましたけど、こうやってアニメのテーマを書き下ろすのは意外にも初めてですもんね。

「そうなんです、話がこないんですよ。なんでもやるんで話ください!」

■(笑)。具体的にアニメのストーリーを参照して作ったんですか?

「アニメはまだできていなかったんで、原作の漫画を読ませてもらって考えましたね。原作は高橋留美子さんの漫画なんですけど、高橋留美子さんの世界観って、基本的に好き同士の男女が上手く相手に気持ちを伝えられへんのやけど、それでもなんかでは伝わりつつ……みたいな奥ゆかしい恋愛の世界観と、妖怪変化とかが面白おかしく出てくるファンタジックな世界観と、凄くスピリチュアルなものが題材になってるっていう、そういう3つの要素があるやないですか。あとは割とキュートなキャラクターの感じかな。そういうのはできるだけフィーチャーしたいなって思いつつ、実際のエンディングの尺も意識しながら作っていったという感じかな。方向性とかアレンジとか、割と試行錯誤しながら作った感じやったんですけど。まぁでも、歌詞は難しかったですねぇ」

■<交わらないふたつの世界>っていう言葉が随所で印象的に出てくるんですけど。『THE PIER』という作品もそうだけど、そもそもくるりの音楽って、音楽性だったり時代性だったり、ふたつ以上の世界観を独自に融合させて真新しい音楽を生み出していくもので。そういうバンドの音楽性と、今の世の中にある多様な価値観を許容していくっていう近年のくるりのメッセージ性とが、上手く歌詞として結実してると思ったんですけど。

「そういう意味合いももちろんあるし、自分は普段からそういうことを考えたりもしてますけど、でもこの歌詞に関してはそういうことは凄い後づけで(笑)。この曲はあくまでラヴソングやし、そもそもこの曲で言いたいことっていうのは1行目の<君がきらい でも 愛してる/どうしようもない程に>っていうところだけやったんですよね」

■なるほど。何故そこを歌いたいと思ったんですか?

「それが一番ロマンチックな気持ちやと思うからですね。ロマンチックっていうか、面倒くさい心象と言いますか。たぶん、恋愛って面倒くさいことなんですよ。で、最近はバブル経済の頃と比べるとラヴソング的なものが減ったなと思うんですけど、それは要は、割と余裕のない時代になったからやと思っていて。みんな自分のことでいっぱいいっぱいやから、自然とそういう歌が増える。で、音楽聴く身からすると、それはやっぱり気持ち悪いんですよ。僕もそういう曲書いてるかもしれへんけど、リスナーからしたら『おまえの自分探しなんか聴きたくないわ』っていう(笑)。それよりはもうちょっとロマンチックなことを歌ってたり、余裕があるもののほうが俺は好きなんですけど。とは言いつつ、自分はリアルなラヴソングを書くタイプの作家ではないというか、得意じゃないし、やらないほうで」

■確かにくるりには愛を感じさせる曲はたくさんあると思いますけど、直接的なラヴソングっていうのはあんまりないですよね。

「そうね。俺の曲って、主人公だったり、二人称で出てくる人に対して期待をしてないんですよね。それはたぶん、自分の性格の中にあるなんらかの冷え切った部分っていうのが出てるからやと思うけど。どうやら対人の考え方として凄く冷酷な部分があるらしいんですよ(笑)。別にそれが悪いとも思わないんですけど。自分の創作で言うと、理想は人が出てこなかったり、なんか言うててもブワーッて風に吹かれてたり、そういう方向に行きがちやし、あとあんまりいい意味のほうに行かへんことが多いし」

■その主人公や二人称で出てくる人に対して期待してないっていうのはそうかもと思いつつ、でも冷たくはないと思いますけど。

「そうかな」

■だって景色とか時間の流れとか、そういうものに対する愛おしさみたいなものは凄く溢れてるじゃないですか。そういうものが心象とリンクしていくことで、深く温かな感動をもたらしてると思う。

「あ、そうそう、俺の場合は人やなくて、そういうものに何かを言わすんですよね。でも今回はちゃんと人がモノを言ってるラヴソングを書こうと――まぁ漫画自体が男女の話でもあるし、自分が普段思っててもどかしいことも含めて、絶対交わらへん平行線を辿ってるものについての歌詞を書いてみようっていう……そこにいろんな社会的なできごとをクローズアップして重ねることもできるけど、まずは男女やったり、近くにいる大切な人についての歌にしようっていう、そういう解釈で作りましたけどね」

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text by有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.102』