plenty、孤独と葛藤に膝を抱えた少年が
生命の歓びを歌うまで――
到達点にして新たな始まり、名作『いのちのかたち』を
メンバー全員ソロインタヴューでディープに紐解く
最初の頃は、怒りがツタみたいに自分に絡まってたんだと思う。
でも、そのツタが徐々になくなっていって、このアルバムが作れたんです
しがらみって言ったらおかしいけど、そういうものが全部解けた感じがある
Interview with 江沼郁弥
■本当に素晴らしいアルバムができたので、今回はバックカバーで特集を組みました。
「嬉しいなぁ。そう言ってもらえると本当に嬉しいですよね」
■これまでの2枚のアルバム、『plenty』も『this』も本当に素晴らしかった、つまりplentyは初期の頃から常に名曲・名作を作り続けながら進化していると思うんですけど、今回は心技体のすべてが優れている作品になりましたよね。メッセージも、楽曲も、バンドの演奏も、すべてがまたひとつ高い次元に到達したアルバムだと思う。
「おぉーっ、それいいですね。やっぱりバンドになってよかったんですよね。バンドになったからこそできることが増えたし、何より制作中も『ああ、楽しみながら音楽を作ってるなぁ』って感じることが多くて。俺個人としてはそれが大きな変化だった。ずっとひとりで根詰めてやるタイプだったから。ただでさえ痩せてるのにもっと痩せるみたいな感じで、ずーっと家にこもってやってたから」
■制作を始めると、何週間もコンビニの店員かデリバリーに来たお兄さんとしか喋らないことがあるってよく言ってたよね。
「そう。だからあの頃はお弁当に割り箸つけてくれただけで泣けて、それはそれで純粋だった気もするけど(笑)。今はもう違うかな」
■というか、ちゃんとバンドで一緒に楽しんで音楽を作ったのは、デビューの頃から考えても、おそらく初めての経験ですよね。
「そうですね。どこか心に余裕があるっていうか、誰かを思いながらやるみたいなことは今までなかったから。前はもっとオレオレな感じだったし。それがなくなってきてるな。一太を入れる前に願ってたこと、それがひとつここで叶ってる感じがするんです」
■バンドになりたいっていう気持ちは一太くんが入る前、『this』のツアーが終わった後から聞いてたけど、誰かを思いながら音楽を作りたいっていうことも思ってたんだ。
「そうですね。なんで音楽をやってるんだって言われたら、自己表現だから自分のためなんだけど、そこから人、人から自分みたいな感じというか……」
■ちゃんと気持ちの循環があるってこと?
「うん。誰かのためにってわけじゃないんだけど、ひとりきりでやっちゃわない感覚というか。……それこそ〝蒼き日々″を作った時なんかは『俺が正義だよ!』って言ってたから(笑)、ずっとそう思ってたかはわからないけど……いつからかそれを願ってましたね」
■一太くんが入って初めて作ったミニアルバム『空から降る一億の星』は、まずバンドという体を作りに行った作品だったと思うんです。だからこそ、初期衝動が迸ってるところも含め、フィジカルなバンド感やアグレッシヴなエネルギーが強かったんだけど。
「うん、そういうものを詰め込みたいなって思って作ったし、それができた作品だった」
■でも、今回の『いのちのかたち』はそれとはまた全然違う作品になったよね。あれからまだ1年しか経っていないのに、バンドが一気に成熟したし洗練していて、そこに驚いたんです。もちろんこのアルバムも、バンドのダイナミクスとグルーヴは今までのどの作品よりも強く感じられるものになっているし、それが音楽的なポイントにもなっているんだけど、ただ、同時に非常に緻密だし、非常に繊細なアレンジが施されていて。アプローチも多彩だしね。郁弥くんとしては、どういうものをめざしていたの?
「最初は『this』の緻密さみたいなものを3人でやるような感じのものを考えてた。あとは『plenty』っていうアルバムよりもplentyっぽいアルバムを作りたいっていうか……」
■『plenty』は、どちらかと言うと江沼郁弥っていう感じのアルバムだもんね。
「そうそう、そうだと思う。別に独裁的に何かをやってたわけではないけど、でも聴き返すとそうですよね。『this』もそうだと思うし。けどやっぱ、この『いのちのかたち』は違う。凄くバンドのアルバムだなぁって感じがするし、今までとは別の達成感があって」
■達成感としては何が違うの?
「前だったら『あー、終わったー!』って感じだったんだけど、今回は『やったー!』って感じかな。それはたぶん、ひとりで作ったものとみんなで作ったものの違いというか。もちろん歌詞はひとりで書いてるけど、どういう楽曲、どういうアルバムを作ろうとしてるかっていうことに関しては、バンドになったことでいちいち話すようになったんですよ。『こういうイメージだから、こういうグルーヴにしたい』、『こういうことを表したいから、こういうサウンドにしたい』っていうのをメンバーと話すようになった。それも凄く大きくて。……なんか勉強とかって、人に教えると覚えるっていうじゃないですか。それと一緒で、人に話すことで自分の中でも濃くなっていくところがあって。『これはただのラヴソングじゃなくて踊れるラヴソングにしたいんだよ』って言っていくうちに、言霊じゃないけど、本当にそういうものになっていくっていう。そういうことが起こった」
(続きは本誌をチェック!)
text by有泉智子