Posted on 2015.10.16 by MUSICA編集部

ゲスの極み乙女。、
その宇宙を辿る新作『オトナチック/無垢な季節』を機に、
川谷絵音に挑む禅問答

僕らっていわゆる「フェス出身バンド」では
なくなってきたのかなと思っていて。
ビートが速くて盛り上がれる曲がたくさんあることより、
みんなが知ってるヒット曲がたくさんあることのほうが
今は大切だと思っています

『MUSICA 11月号 Vol.103』P.52より掲載

 

■今年のラヴシャ(SWEET LOVE SHOWER)では初日のヘッドライナーを務めたわけですけど。割とフェスで大切な役割を任されることも多くなってきたよね。

「あぁ、確かに1年前の僕らって小さいステージに出て入場規制かかるみたいな感じでしたもんね」

■で、2年前はロクに呼ばれないみたいな。

「そうですそうです(笑)。……やっぱり今年になって状況は変わったんだなって実感しました」

■そういう状況の変化を感じて自分の胸にグッと来るものはあったりしたんですか?

「いや、あんまりなかったですね。だって8月はずっとレコーディングとフェスで『とりあえずやらなきゃ!』って感じで慌ただしく過ごしていたんで、感慨にふける時間がなくて(笑)」

■まあそれもすべては絵音くんの幸福な自業自得なんですが(笑)。僕は今回のラヴシャのステージを観て、フェスの中での新しいヘッドライナー感を感じたんです。ゲスの極み乙女。って「盛り上がれる」ってところで火がついた部分もあったけど、今は盛り上がり切らない音楽の中から生まれるポップ−−−−そういうクールな部分が今のこのバンドの音楽を支えているし、そもそも絵音くんの人としての本質もそこにあるんだよね。この前のアクトは、フェスに存在する独特の狂騒的感動を出すのではなく、自分達の今の気分を忠実にフェスの現場で表現している。それをヘッドライナーとして披露しているのは新鮮だったんだよね。

「正直、フェスもフェスのお客さん客もあんまり盛り上げる必要もないのかなって。ぶっちゃけて言うと、僕らっていわゆる『フェス出身バンド』ではなくなってきたのかなと思っていて。もう、あんまりそういう『盛り上がりたい』みたいなのは求めてないと思うんですよね。確かに昔はそれが求められてたし、それに応えてもいたと思うんですけど、今はそんなにそれが求められていないように感じていて。たぶん、ビートが速くて盛り上がれるってことより、お客さんが知っているヒット曲がたくさんあることのほうが今は大切だと思ってて」

■なるほど。憶えられる曲=ポップスをやっていくバンドなんだってことを、フェスの現場で受け止めて体現したステージだったんだね。

「そうですね、きっとそういうことだと思います」

■それは今回のシングル含めて今のゲスの姿勢であり、バンドとしても正論だと思います。今回の新曲達は言葉が非常に強いよね。特に“オトナチック”と“灰になるまで”はとても強い。コピーとしても裏にあるメッセージとしても何しろ強い。その流れって『ロマンスがありあまる』『私以外私じゃないの』からも感じていたんですけど、絵音くんの中でここまでのシングルの流れは3部作って意味合いがあるの?

「そうですね、それはあります。ゲスの極み乙女。流のポップス――『ゲスの極み乙女。はこういうものだ』っていうのを提示するための3曲っていう意味合いは自分の中では大きかったですね。本当は4月に『私以外私じゃないの』、6月に『ロマンスがありあまる』、8月に今回の作品を出して、3作連続・2ヵ月おきリリースって形で、より3部作っぽい見せ方にしようと思っていたんですけど、『私以外私じゃないの』が予想以上にロングヒットしてて、『ロマンスがありあまる』も凄い耳に残る感じだったので、ここで出しても、印象が弱くなってもったいないなと思ったんですよね。それでリリースの日を後ろにずらして、10月にしたんです。もうちょっとそのふたつのシングルを巷で流したほうがいいんじゃないかっていうのがあったんで」

■なるほど。過剰なアレンジや大袈裟な展開はないけど、滲み出てくるコピー性の強さが楽曲のキャッチーさになっているのがこの3部作の特徴なんじゃないかなと感じていたんですけど。

「そう、まさしくそうなんです。サビの言葉の強さ――ゲスの歌詞の黄金率がこの3部作には共通していますね。……その言葉の強さが人の頭に残ればいいなと思ったし、残るような音楽を作ろうと思っていたので。indigo(la End)の歌詞って完全に失恋に寄っているじゃないですか。だからindigoも歌詞が強いんだと思うんですけど、それとは違った歌詞の強さをゲスで出したいとずっと思っていたので、それがこの3枚のシングルで形になってよかったなと思いますね」

■indigoの歌詞って、紙の世界で言うと「書籍」とか「単行本」。方やゲスの歌詞は「雑誌」だなと思っていて。より「世相」や「今」、あとは「コピー性」っていうのが強く出ているのがそう思わせているんじゃないかなと思うんですけど。

「そうですね。雑誌っぽいし、広告のコピーでもおかしくないなと思います。ちょっとコピーライターっぽい感じで歌詞を書いているのかなって自分でも思いますし。僕、ゲスの場合はサビから歌詞を作るんですよね。indigoはストーリー性があるんで、メロから順番通りに作ったりするんですけど。そもそも作り方がふたつのバンドでまったく違うんです」

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text by鹿野 淳

『MUSICA11月号 Vol.103』