Posted on 2015.11.18 by MUSICA編集部

SHISHAMO、冬のアンセム“君とゲレンデ”と共に
宮崎が見据える今とこれから

私の好きなバンドは20年間変わらなかったけど、
SHISHAMOはそれじゃいけないんです。
だって、SHISHAMOは私の好きなバンドとは違うバンドだから

『MUSICA 12月号 Vol.104』P.62より掲載

 

■新しいシングルは“君とゲレンデ”というタイトルで。宮崎がスキーが好きだとは知りませんでした。

「いや、そんなに好きじゃないです」

■……だよな。

「はい(笑)。スノボは去年の冬に初めてやったんですけど、ま、それも今回の曲とは特に関係ない話なんですけど」

■今回のシングルは冬ヒットを狙いにいった曲だとも言えると思うんですけど。冬のヒットソングって、たとえば一昔前だったら「レコード大賞獲りたい!」とか「紅白に出たい!」とか、あるいは「クリスマスソングの名曲を作りたい!」とか、作り手側にはいろんな想いがあると思うんです。宮崎はこの曲をどういう気持ちで作ったの?

「もうちょっと多くの人にSHISHAMOを知ってもらいたいなと思って。“君と夏フェス”っていう前の曲がそのキッカケになった人は多いと思うんですけど、そういうキッカケになる曲をまた作れたらいいなという想いはありました。もちろん、今でもいろんな人がライヴに来るようになったとは思っているんですけど、別にここ(現在のSHISHAMOの状況)を目指してきたわけではないし、まだまだ……まだまだ先に進めると思っているので」

■タイトルを見ると“君と夏フェス”との連鎖もあるし、楽曲的にも「弾けてるんだけどセンチメンタル」な曲であるところも繋がっているし、歌詞の内容も景色が見えるというか、この曲から50分間のテレビドラマが生まれるような、そういう世界観になっているよね。

「……あんまりそれは考えてないかもしれないですね。実は他の曲を作る時と作り方はあんまり変わってなくて」

■“君と夏フェス”って現実的にヒットもしたわけで、そういう意味で「あの黄金率をまた作るんだ」っていう確信犯的な曲ではないんだ?

「あ、それはありますね。あったんですけど、でも、そういう作り方が特別にあるわけじゃなくて。気持ち的に……私は曲を作る時ってイメージを最初に作るんです。それは単純に『明るい曲』みたいな簡単なものでもいいんですけど、そういうイメージの中で、『今回はSHISHAMOの中のキラッとしたやつかな』ってくらいの心意気で最初は作りました」

■実際に作ってみて、“君とゲレンデ”と“君と夏フェス”との違いって自分ではなんだと思います?

「違い……考えたことないですねぇ。………季節とか?」

■(笑)。僕が感じた違いは、あの頃よりも音楽がお上手になってます。

「おぉ! あ、でも作っている時は難しかったです。いつもは頭からお尻までスラ~ッと作るんですけど、この曲は何回もメロディを変えたり、Aメロも3種類くらいあって、全然決まらなくて。……“君と夏フェス”よりもいい曲を作らないといけないと思っていたし、よりたくさんの人にこれから聴いてもらう曲になると思ったので。でも、別に『“君と夏フェス”よりもこの曲がいい』とは今は思ってないですね。……かといって『“君と夏フェス”のほうがこの曲よりもいい』とも思っていないんですけど(笑)」

■そうだね。“君と夏フェス”はパンチが効いていてロックバンド然としているけど、この“君とゲレンデ”はとても美しく、音楽的にスムースに聴こえる、つまりポップスとしての洗練度と完成度は今回のほうが遥かに高いんです。で、一番大事なのはここなんだけど、宮崎は“君と夏フェス”からの1年半弱の中で音楽的な成長としてそこを目指してきたし、ちゃんと自分の音楽の中で磨いてきたことなんじゃないのかなって思ったんです。

「まさにそうですね、確かにポップスとしての完成度っていうのはあるかもしれないです。私自身はロックは好きなんですけど……いや、ロックが好きなんですけど、でも、SHISHAMOはバンドを聴かない人に聴いて欲しいなと思っていて。そういう気持ちは、“君と夏フェス”からの1年半の中で凄く強くなってるんですよね。具体的に言うと、SHISHAMOはバンドを聴いたことがない人とか、シンガーソングライターとかが好きでライヴハウスに来たことがないような中学生とかが『初めてなんです』って言って来てくれたりしてて。そういう存在でいいと思うんです。私はそのほうが純粋に音楽を好きになってもらえたんだなって思うから。そういう本当だったら全然関わらないような人達の日常にSHISHAMOの音楽があるんだなって思うと凄く嬉しくて。……別にそれを望んでいたわけじゃないんですけど、そういう人がいたからこそ、『あ、私はそうなりたかったんだな』っていうことに気づいたりして。別にバンドシーンとかで名を上げていきたいわけじゃないなって」

■前作の『熱帯夜』は、敢えて言うなら「SHISHAMOっぽくないムードのある大人な曲」だったと思うし、自分達もそれをわかった上で新しいムードの曲を出すというある種の冒険だったと思うんです。そういう冒険をしたにもかかわらず、いい意味で状況は変わらずにここまで来れたよね。

「そうですね。なんか思っていたより大丈夫でしたね。……やっぱり“熱帯夜”はSHISHAMOの中でも曲としてのクオリティの高さが違うなって思ってて。演奏していて難しいって感じる部分もあるんですけど、凄くしっくりはくるんですよ。たぶんお客さんも同じで、そんなつもりじゃなかったけどしっくりきているのかなっていう感じはあります」

■たぶん宮崎は、“熱帯夜”が周りに受け入れられたことで、ソングライターとしての自信をつけることができたと思うんだよね。それがこの“君とゲレンデ”の音楽としての美しさに繋がっていると思っていて。

「たぶん、私がやりたいことって“熱帯夜”みたいなこと――それはああいう曲をやりたいっていうことじゃなくて、いわゆるSHISHAMOっぽくない曲とかも出したくて。限定したくないっていうか。でも、今回はわざわざ戻した感じは自分でも凄いあって。外から見ると『軌道修正』みたいになってるんですけど、でも、それは“熱帯夜”を出したことで『あ、こういうことやっても大丈夫なんだ』ってわかったからこそ、もっともっと好きにやっていきたい!って思ったところから繋がってるんですよね。で、なんというか、今回はこれから好きにやっていくために、敢えてSHISHAMOっぽい“君とゲレンデ”を出すっていう感じなのかなって。……『好きな音楽をやっていればいいんだ』って人もいると思うんですけど、私は聴く人がいないと意味がないと思っているので。自分がやりたい音楽をみんなに聴いてもらうために、“君とゲレンデ”でSHISHAMOを好きな人を増やしたいなと思ってました」

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text by鹿野 淳

『MUSICA12月号 Vol.104』