Posted on 2015.12.16 by MUSICA編集部

新たな航海を始めたサカナクション、
大阪城ホール&広島文化学園HBGホール公演に密着!

復帰した、ツアーも再開した、悩んでリセットして、
新しい時代との闘い方も見えたし、レーベルも生み出した。
新サカナクションによる新ツアー、そのアリーナとホールに密着。
そして新山口一郎が、2015年と新音楽島の在処を語った。

『MUSICA 1月号 Vol.105』P.66より掲載

 

 サカナクション、久々のツアーである。

 アルバム『sakanaction』をヒットさせ、圧巻の幕張メッセ2デイズを巨大な純粋音楽空間として機能させ、紅白にまで出場をし、その後年が明けてから再びチームサカナクションでホールツアーを回り――そんな2013年から2014年の夏前以来、1年半振りのツアーで感じたのは、彼らの「成熟」と「脱皮」だった。この成熟とはメンバーそれぞれの人間としての部分であり、脱皮とはシーンからの距離感を表すものと思ってもらいたい。

 

 まずはツアーの前半戦を担った「アリーナ編」を10月18日の大阪城ホールで目撃した。

 会場に着くと、15台以上の巨大トラックが会場後方に並んでいる。この時点で相当な演出力を想像しながらバックエリアへ入ると、やはりスタッフの数の多さに圧倒される。楽屋もメンバー5人のものと、それ以上のスペースにやたらサイケデリックかつオーガニックな洋服がたくさん置かれてる楽屋がある。――これは「GOCOO」という自家製和太鼓集団で、新レーベル「NF」主宰のリキッドルームでのパーティーの初回に開場と同時に迎えてくれたことでファンにも知られる、レイヴなどで人気の集団のものであった。なお今回はGoRoというデジュリドゥ奏者も加わっている。

 メンバーはその大きな人の輪の中で淡々と中心にいる感じ。久々のツアー、足並み揃った再出発という力みはどこからも感じられない。これが新しい彼らの雰囲気、さらにプロフェッショナルなバンドに進化したことによるものとわかったのは、もう少し後の話だ。

 リハーサルの時点でかなり演出を見せてもらった。今回のアリーナツアーは何しろ演出が今まで以上にドラマティックかつ創造的だった。ステージ全体360度を巨大なカーテンのような幕で囲み、それが左右、前後に開いたり閉じたり。まるで360度カーテンで囲まれた試着室にいるメンバーを鑑賞するような妙な感覚がステージ上で画期的に表されている。しかも彼ら独特の「5人横並びのラップトップ編成」の時に、幕が開くとメンバーが5メートルほど上空にいたり、とても奇妙な立体感に包まれていた。しかもその幕に囲われた中から姿を出したメンバーとステージに、プロジェクターからプロジェクションマッピングのような(つまり違うものなのだ)映像が投射され、トリッキーかつ奥の知れない世界が描かれていく。

 その演出と人気曲の多いセットリスト(今回はアルバムとかのツアーではないし、久々に体験する人が多いタイミングなので、比較的ベスト的な人気曲がストレートに盛り込まれるものになっていた)が合わさると、改めて彼らがこの5年間で愚直かつ真摯かつ誠実に積み上げてきたストーリーや「マジョリティの中のマイノリティ」という立ち位置、そしてポストロックスタイルとしてのロックバンド像を色濃く感じさせた。

 リハーサルの間も楽屋にいる時も、今までのように一郎が過敏に気配を感じながらムードメイカーとして話題を降ったり、奇行に走ったり、メンバーをいじったりする感じがなく、それぞれが淡々と役割を的確にこなし進めている感じがした。これは一郎からのメンバーへの新しい信頼によるものでもあり、同時に彼らがみんな大人になったことを草刈愛美の結婚→出産=母という喜ばしいトピックスの中から自覚したからだと思う。

 サカナクションは変わらないようで変わった。いや、変わらないということは変わり続けるということでもあり、それは音楽でも人間でも同じ本質中の本質的な概念である。僕らも僕らの日常も、進化や変化から逃げずに生きることこそが変わらない毎日そのものなのであり、今、サカナクションはライヴという現場に久々に戻って来て、そういう根源的なメッセージをさらに自然体で発するバンドになったと、ライヴ中のメンバーの強く優しい表情から何度も感じ取った。

 何しろめまぐるしいステージだった。1曲1曲にふさわしい演出をもって、息を呑むのもためらうようなショー。そう、まるでパリコレのファッションショーを見るような「一曲一絵」と呼ぶべき感覚に何度も襲われた。楽屋で一郎がめいいっぱいお茶目なフリをして「完全に持ち出しのツアーになっちゃって」と話してくれたが、そんなのは見れば誰でもわかるほど、音楽ライヴとしては今までにない角度の演出が施された、ポップアートの醍醐味を生身で味わえるものだった。

 終演後、草刈姉さんは足早に帰路につき、他のメンバーもスタッフと今後への課題を明確にした後はさっと打ち上げに向かった。

 が。

 一郎はここからまだまだエンドレス。グッズを買ってくれた人の袋の中に不特定に入っている当たり券の当選者に、目の前でサインをするというプレゼントを1時間以上行い、その後楽屋に戻ってくると、今後のNF含めた新しいグッズなどをどうするのか、原案含めてスタイリストやデザイナーなどと根を詰めて話し合っている。結果、会場から一番遅くに出て行ったのがステージ撤収チームではなく、一郎ということに相成った。

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text by鹿野 淳

『MUSICA1月号 Vol.105』