Posted on 2016.01.17 by MUSICA編集部

スガ シカオ、史上最もディープでラディカルな
『THE LAST』リリース。狂気の激作を語り尽くす

独立して嫌な想いもしてきたから、
とにかくこのアルバムを叩きつけてやりたくて。
で、俺が叩きつけられる武器はポップミュージックじゃないし、
ポップミュージックではあいつらを叩き切れないなって思ったんです

『MUSICA 2月号 Vol.106』P.44より掲載

 

■6年ぶりのアルバム。力作過ぎて訊きたいことがあり過ぎるんですけど。

「ははははは、嬉しいです。今日はトコトンいきましょう!」

■まず、このアルバムは独立後のインディーズとメジャーの曲も含めて1曲しか過去曲が入ってないですよね。しかも、みんな曲単位で音楽を買うようなこのご時世に、「アルバム」っていう世界観をトコトンまで考え抜いた非常に稀有でラジカルな作品でもある。50代前の代表作として、こういう作品を作ろうと思ったのはどういう理由からなんですか?

「独立する時に『集大成を作る』っていう啖呵をファンや自分に対しても切った手前、怖くてずっとアルバムに取りかかれなかったんですよ、実は。シングル配信とかで作品を積み重ねてはいくんだけど、じゃあ自分の集大成ってどういう骨格なのか?って考えたら全然わかんなくて。……で、そのままずっと時が過ぎていって。最悪の手段として、シングルはいっぱい切っていたから、その総集編みたいなものなら許されるのかな?っていう逃げの考え方もあったんですけどね」

■でも、現実的にそれは初回特典の『THE BEST』(という独立後のほとんどのリリース曲が入っているスペシャルCD)でやってますよね。

「そう! アルバムに取りかかる前は、これ(『THE BEST』)を出せれば形になるのかなって思っていたけど、それもなんか怖かったんですよね。で、小林(武史)さんと組むっていうのは、結構前からお願いをしてたんですけど、ようやく小林さんが本腰を入れた時に、どこにボールを投げていいかわからなくて、曲は既発曲も含めて40~50曲あるんだけど、それをどう組み立てたらいいかわからないし、どうしたら自分の集大成って呼べる作品になるのかもわからなくなってるっていう話を正直に小林さんにしたんです。そうしたら『じゃあ既発曲は1曲もなしで、全部新曲でいこうよ。まずはそこから始めよう』って言うんですよ」

■よかったじゃない、自分では決められない一番怖い一言を言ってくれて。

「ほんとそうだよね。だからね、既発曲を散りばめたアルバムを集大成として逃げようとしていたのを、軽く見破られたなって思いましたね。で、まずは持ってる曲を全部小林さん出したんだけど、シングルの曲やJ-POPの匂いがしたり、青春っぽい曲は全部外されていくわけ(笑)。で、4月の真ん中くらいの段階でこの曲順に決まったんです。でも“アストライド”だけはどうしても入れたいってお願いをして、11曲目に入れてもらって」

■その時にJ-POP的なもの、つまりはシーンの中で「スガシカオ」ってキャラクターを確立できた世界観の曲も外された時はどう思ったんですか? だって、この作品はスガシカオとしての覚悟の作品でもあり、人生半世紀の集大成でもあり、傑作を作らなくてはいけないっていう気持ちもあった時に、どうしてポップなキラーチューンを捨て去る決断にビビらなかったの?

「実は曲順が決まる前に、今、自分が聴いている曲や好きな曲を30~40曲集めて『こういう感じの曲を作りたいんです』ってプレゼンテーションをしていて。その時にいわゆるJ-POP的な曲や背中を押してあげるような曲が1曲もなかったんですよ。そういうことがあったから、小林さんの言うことと自分が本来求めていたことの辻褄が合っちゃったんですよね。なので、結構早い段階からJ-POPはもう、一切諦めていて」

■ほら、インディーズ時代MUSICAで初めて表紙を飾っていただいた時にこのアルバムの話をしていて。その時には「50歳までの代表作を作るんだ」と。あと、もうひとつ「それを、今まで一番売る作品を作る」っておっしゃっていてですね−−−−。

「えっ!? そんなこと言ったっけ!!??」

■はい、活字化されてますから。

「ヤベーー!!!!!!(苦笑)」

■あはは。「ヤバい」じゃないだろ、今更。

「『いいアルバムを作るとは言ったけど、売るアルバムを作るとは一言も言ってない』ってこの間、会議で公言しちゃったんだよ……」

■ははは、後でレーベルのスタッフにその記事全部コピペしてメールしときます(笑)。でも僕はこの作品で、「ヤバさ」と商業作としてのバランスが両立していると思っていて。簡単に言うと、50歳までの代表作っていうのは「夢」で、今まで一番売るっていうのは「現実」だと思うんですけど、その「夢」と「現実」をポップミュージックの中でどうバランスを取っていくのかっていうのを今までスガさんはやってきたし、ある意味それが音楽として一番優れたバランスになっているのが今作『THE LAST』だと思うんです。これは売れるべきアルバムだし、メディアとしては売りたいアルバムなんですけど、同時に相当ディープな作品になったわけで。そこに至るまでにスガさんの中でどういう道筋があったのかっていうのを、ここからみっちりお訊きします。

「はい、いきますね。結局、俺の一番の武器ってJ-POPじゃないんですよ。じゃあ、俺の武器ってなんだろう?って考えたら、誰もやらないところをガッと書いたりとか、書いちゃいけないものが感じ取れたりする歌詞の深い世界観だったり、曲のアレンジの斬新性だと思っていて。そういうところが一番スガシカオっぽいところだから、そこに特化して作ることが一番重要だっていうのが僕と小林さんの中ではあって。そこにJ-POPとかバラードとかが入ってくると、せっかく尖っていた部分が、ならされちゃうんじゃないかなって思って。『尖ってる曲もあるよね』っていうのは『スガシカオは尖ってるね』っていうのとはイコールではないんですよ。だから、そこに思いっきり特化しようっていうことになり、歌詞を書く時に、いわゆるトレンドを狙った『人のためになる歌詞』を意識せずに、誰も行ったことのないところに行くドキドキ感を最優先して作ってたんです」

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text by鹿野 淳

『MUSICA2月号 Vol.106』