Posted on 2016.03.16 by MUSICA編集部

BUMP OF CHICKEN、
結成20周年記念Special Live「20」に完全密着!
その奇跡の夜を記す徹底ライヴドキュメンタリー

メンバー自ら申し出て実現した、
「らしくない幸福な」結成20周年メモリアルライヴ「20」。
前日のゲネプロ、そして当日の入りから退出までの
すべてに完全密着した、満願のドキュメンタリー!

『MUSICA 4月号 Vol.108』P.36より掲載

 

 久しぶりのワンマンライヴだし、これだけの大規模なものなので、開催前々日にステージ設営が行われ、前日にはサウンドチェック、および実際のライヴ同様の擬似ライヴが行われる。その「当日と全く同じように、無人のフロアに向かってライヴをし、実際の照明や音響までを確認する」のを通称ゲネプロと呼ぶ。その模様を見に、開催前日の幕張へ向かった。

 館内に入ると、ゲネプロライヴ前のリハーサルがちょうど終わったところで、ステージ上のメンバーと、PAブースのところにいるスタッフがマイク越しにやり取りをしている。

 が。

 チャマが随分とヒソヒソ声でステージからスタッフに話をしている。このとき僕は、いつものようにギャグとしてふざけて発声してるんだろうと、笑いながら受け流した――。

 その後、メンバーそれぞれが戻った楽屋エリアへ行き、それぞれのメンバーに挨拶をした。そこで他の3人はいつもと同じだったが、大きな輪っかを両手で描きながらハグしてきたチャマが耳元で「鹿っぺ、どうしよう、こんな声で」と、例のヒソヒソ声を出してきた時に、ことの重さにようやく気づいた。

「風邪こじらせちゃってさ、ずっと声が出ないんだよ……」

 大変である。

 一体どうしたんだと訊くと「まあいろいろあるんだけど、でも最終的に自分の不注意でこんなことになってしまい、本当にごめんなさい。勝手にいろいろなプレッシャーも感じていたのかもしれないし、駄目だなあと自分で思うけど、でもまずは少しでも明日に向けて回復させないと」と透き通った眼差しを向けてきた。

 フジも楽屋に入るなり、「チャマのことは知ってる? 大変だけど、チャマの問題じゃなくバンドの問題だと思ってるからさ、自分も痛々しい思いになるよね。でもきっと大丈夫、だってチャマだからさ」と話してきた。

 増川が端っこにあるソファーに座りながら話す。

「今日、発売日だよね」

 そう、ゲネプロ日である本日2月10日は、アルバム『Butterflies』の発売日である。おめでとうと言うと――。

「ありがとう(笑)。実はさ、昨日フラゲ日にCDショップ行ってきたんだよ。したらさ、いろいろな店がいろいろなディスプレイしてくれたり、あーいうの本当に嬉しくて。写メして、その場でメンバーにLINEで送ったよ(笑)」と、いろいろなCDショップの『Butterflies』の愛あるディスプレイ写真を、自慢げに見せてくれた。

 その後、チャマが着ていたMA-1にBUMP OF CHICKENのロゴが入っていることに気づき、「これ、どうしたの?」と尋ねた。すると、メンバー同士で作ったものではなく、明日販売するグッズだという。こりゃまた、大胆なグッズを作ったねと話をすると、例のヒソヒソ声で「これはね、友達であるデザイナーと一緒に作ったんだけど、本当にいろいろ考えて、一から型を取って作ったんだ。ワッペンもね、マジックテープで外したり、いろいろつけ替えたりできるようにして。時にバンプのグッズだってわからないように着たい時もあるかもしれないでしょ。そういうことも考えてあげたくて。袖についているポケットも、普通のMA-1はペンポケットがついているじゃない。でもあれは軍服としては必要かもしれないけど、みんなの日常ではペン入れなんていらないでしょ? あ! 鹿っぺはいるか、仕事上(笑)。でもなくても大丈夫だよね? そういうのをなくしてスマートなデザインにしたり、いろいろ考えて作ったんだよ」と話してくれる。

 すると今度はメンバーみんなが試着を始め、「どう、似合う?」、「俺、カーキのほうが似合うかな」、「いや、黒のほうがいいんじゃね?」などと、お互いを品評しあう微笑ましい景色が広がった。きっと中学高校時代、4人は地元のショッピングモールのRight-onみたいな場所で、こうやってたんだろうなというフィルターをかけながら、じっくり眺めさせてもらった。

 ひとしきりMA-1会が済んだ後は、升と増川が、ヨガマットの上でストレッチを始める。それを少しばかり上から眺めながらフジが、「どう、ちゃんと(筋が)伸びてる?」と言いながら見つめる。そしてチャマは寝る。一生懸命に自分を休ませようと、火照ってる身体を必死になって休ませようとしている。

 その後、スタッフとゲネプロ前の最終打ち合わせ。そこで、何曲かは外音を出さずにやることを話し合った。

 何故か? 僅かな会場外への音漏れによって、明日のセットリストがわかってしまうからである。

 そういえば、何十回もこうやって密着をしている中でこういうことも過去にあった。でもそれは大抵の場合、レコーディング中のライヴで、リハが終わった後で外音を切って、ステージ内だけの音で、新曲のアンサンブルを見つめ直したり、確認したりする場合だった。仙台で“firefly”を必死になって練習していたのを、思い出す。

 しかし、今回はライヴ自体のリハーサルを外音で出さない。それほど、この20周年記念ライヴはプレシャスなものだし、実際に今もメッセの外では複数のファンが前日にもかかわらずアリーナを取り囲んでいるのだった。

「自分らにとっても、懐かしい曲が多いし、そういう久しぶりにやる曲とか、ライヴを観る前に知らせちゃうのって、可哀想じゃない。だから、わからないように、そういう感じの曲はなるべく外音を出さないでやろうと思って。それでも俺らはモニターの状態もわかるし、PAも照明も本番をシミュレーションできるしね」と、チャマが(もちろんのことヒソヒソ声で)説明してくれる。

「(ゲネが始る17時まで)まだあと20分間か、長いな」と、縄跳びしながらフジが話す。

「こんなにもやることなかったっけ?」と、久しぶりのワンマンの感覚を忘れている自分に対して軽い苦笑いを向けている。

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA4月号 Vol.108』