Posted on 2016.03.16 by MUSICA編集部

星野源、当日に誕生日を迎えた高松公演に密着。
飛躍のツアーの模様を徹底レポート!

今最も音楽を元気にし、音楽で人々を元気にし、
そして音楽に夢と自由を取り戻す男、星野源!
大ヒットを果たした金字塔『YELLOW DANCER』で
シーンの流れも自身の存在感も大きく変えた彼の、
飛躍のツアーにして根本的なターニングポイントとなる
「YELLOW VOYAGE」高松公演に密着!
(ちなみにこの日は35歳のお誕生日というオマケつき!)
変わらないまま「化わり」続ける星野源の今を読み解く!!

『MUSICA 4月号 Vol.108』P.56より掲載

 

 昨年12月にリリースしたアルバム『YELLOW DANCER』は、激賞に次ぐ激賞な勢いで高い音楽的評価を獲得したことはもちろん、この時代にすでに30万枚近いセールスを上げるというヒット作となり、星野ファンや音楽好きのみならず、より広い層の心を掴んだアルバムになった。ソウル/R&B、ファンク、ジャズといったブラックミュージックを再解釈&昇華してポップスの最先端を更新していくという流れは、数年前から海外の(アンダーグラウンドからメジャーまでを含めた)ポップミュージック・シーンの核にあり続けているものだが、日本人として、日本のポップスの継承者として、そして歌詞の世界も含めて他の誰でもない星野源のポップスとして、それを鮮やかに成し遂げて見せたこのアルバムが、この国のポップシーンに対してインパクトのみならずきっちりと結果を残したことの意味は、本当に大きい。アルバムリリース時から『YELLOW DANCER』以前と以降で音楽シーンの流れは変わるはずだと言い続けてきたが、それが確かに現実化し始めていることは、ここ最近様々なミュージシャンと話をしていても間違いないと感じることが多い。

 2016年の幕開けと共に、1月9日の札幌・ニトリ文化ホールからスタートした「星野源 LIVE TOUR 2016『YELLOW VOYAGE』」。全国11都市13公演、自身過去最大キャパでのアリーナライヴを含め、会場の大きさも動員数も前回までのツアーと比べて遥かにスケールアップした形での航海となった「YELLOW VOYAGE」は、本誌発売時点で残り1本、3月21日の大阪城ホールを残すのみとなった。結論めいたことを先に書いてしまうと、今回のツアーは、これまでも変わり続けることなく「化わり」続けてきた星野源の軌跡の中でも、最も大きなターニングポイントとなるツアーだったと言っていい。ここでは1月28日の高松公演での密着レポートをお届けする。なお、この記事はセットリストも演出も制限なく書いています。なので、大阪城ホールに参加する方でネタバレされたくない方は、ライヴが終わってから読んでください。

 

 1月28日(木)、小雨がパラつく中、高松空港から会場であるアルファあなぶきホール(香川県県民ホール)へと向かう。高松駅から徒歩8分のこの会場は、大小ふたつのホールに加え、リハーサル室や練習室、シンポジウムを行えるだけの広さを含む各種会議室、託児室やレストランが備わる二棟からなる大規模な芸術文化ホール。13時30分過ぎに場内に入ると、すでにバンドメンバーは会場入りしていて和やかにランチタイム中。舞台の立て込みも完了し、音響&照明スタッフが落ち着いた様子で着々と準備や調整を進めているステージを眺めながら客席をぐるりと一周し、ロビーエリアへと向かうと、ホール入り口の外ではすでに物販開始を待つファンの待機列ができていた。ちなみに、その手前ではひっそりとニセさんが待機中――って、もちろん等身大パネルですが。今回のツアーでは各会場にもはやファンにはすっかりおなじみなニセ明の等身大パネルが登場、たくさんの人々が代わる代わるニセさんとのツーショットを撮っていた。ちなみに、さいたまスーパーアリーナではなんと2時間を超えるニセ待ちが起こっていたという。星野源フィーバーに乗じてニセも全国区へ?

 14時32分、ニセ――ではなく、星野源ご本人が会場に到着。車から降りてきた星野に「お誕生日おめでとう!」と声をかけると、笑いながら「ありがとう!」と明るい声が返ってきた。そう、この日=1月28日は星野源35歳のバースデーなのである。すれ違うスタッフと笑顔で挨拶を交わながら、颯爽とした足取りで、「祝 星野源さんへ」という筆文字と「YELLOW VOYAGE」のツアーロゴが染め抜かれた大きなえんじ色の暖簾(スタッフみなさんからのプレゼントだそうです)がかけられた楽屋へと入っていく。大きなマスクでその顔が半分くらい覆われてはいるけれど、そこから覗く表情はとても元気そうだ。

 この日はツアー5本目。直前の1月23日&24日には星野の地元でもあるさいたまスーパーアリーナで2デイズライブをしたばかりだし、疲労が来ていてもおかしくはないのだが――。

「全然平気、凄く元気ですよ。前のツアーの時よりも元気なんだよね。なんでだろう? 会場は大きくなってるけど、日程的にはそんなにキツくないからなのかな。今回のツアーは大体1週間ごとの公演だからその都度ちゃんと家に帰れてるし。ライヴも今まで以上に楽しめてるんですよね」

 そういえば密着取材した前回(2年前)のツアー「復活アアアアア!」の時は初日の終演後に声が枯れてしまい、ステージで100%の歌を歌うために、リハで必要な場合などを除いて本番以外は徹底して声帯を使わない=声を出さないで過ごしていて、すべてのコミュニケーションを筆談で行っていたのを思い出す。もちろんあのツアーは本格的に活動再開をしてからすぐのツアーであり、すでに体は万全の状態だったとはいえ本人的には本当に完走できるのか不安も抱えながらのツアーでもあったから、念には念を入れての処置ではあったのだけど。そう考えても、やはり今は精神的にも体力的にも充実した日々を過ごせていることが大きいのではないかと思う。実際、さいたまスーパーアリーナの2デイズも、自分は2日目を観たのだけど声の調子がとてもよくて、それこそ2014年末の横浜アリーナ2デイズの時よりも最後の最後までしっかり歌声が伸びていく感触があった。

 ちなみに高松といえば、言わずと知れた讃岐うどん。前日夜に高松入りしていた星野はすでにうどんを3食も食べているらしく、この日も会場に来る前に食べた「釜玉バターうどん」がもの凄く美味しかったとそれはそれは幸せそうに話してくれた。「もうずっとうどん食べてたい。全然飽きないっていうか、食べ終わるとまたすぐに食べたくなるから不思議。屋台っぽい感じがあるからなのかな、ちょっと寄るって感覚で食べられるからあんまりごはん食べたぁ!って感じがしなくて。だからどんどん食べちゃう」。そんな星野の想いに応えるかのように、バックエリアの一角には昭和43年創業の元祖セルフうどんの店「竹清」が特別に出張開店。その場でうどんを茹で上げるのはもちろん、半熟卵と竹輪の天婦羅も揚げているという、なんとも嬉しいご当地ケータリング。

 14時45分からサウンドチェック開始。いつもそうなのだけど、まずは星野は入らない状態でバンド+ホーン隊でのサウンドチェックが入念に行われていく。この日のツアーメンバーは長岡亮介(G/ペトロールズ)、伊賀航(B)、伊藤大地(Dr/グッドラックヘイワ)、野村卓史(Key/グッドラックヘイワ)、石橋英子(Key&Mandolin)、武嶋聡(Sax&Clarinet)、東條あづさ(Trombone)、村上基(Trumpette)(なお、今回は公演によってDrが河村“カースケ”智康の時もあり、そしてKeyはこの高松公演以降は櫻田泰啓が務めている。また、アリーナ公演は星野のレコーディング&ライヴではおなじみ、岡村美央ストリングスが参加しております)。ガランとしたホールにタイトかつジューシーな、腰に来るグルーヴと品のある色気が滴るサウンドが響く。抜群に気持ちいい。巨大なアリーナに響き渡る音の海に身を溶かして踊るのも楽しいが、それぞれの演奏とグルーヴの細部の輪郭や熱感までもがダイレクトに感じられるホールライヴもやはりとてもいい。特に『YELLOW DANCER』の楽曲群はその音とリズム自体に無限の宇宙とソウルが宿っているわけで、それを手練のプレイヤー達の生演奏で体感することができるのは至福の時間だ。

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA4月号 Vol.108』