Posted on 2016.03.16 by MUSICA編集部

クリープハイプ、待ちに待ったキラーチューン“破花”完成!
尾崎世界観の心の移ろいを深く掘る

レコーディングスタジオの重たい扉を開ける時、その時の感覚を思い出したんです。
「あぁ“社会の窓”の時、こういうふうに自信を持ってこの扉を開けたなぁ」って。
それがすっごい嬉しくて、久しぶりにそういう歌を歌えたと思ってる

『MUSICA 4月号 Vol.108』P.64より掲載

 

(前半略)

■今回のシングル、名曲ですよ。

「…………あ、ありがとうございます……」

■ここ、疑うなよ(笑)。「おめでとう」って言いたい曲です。

「………いや、なんか本当嬉しくて。ありがとうございます」

■尾崎が今のシーンに対して、どういう音楽を投げかけるかに迷い出して、1年半くらい経ったと思うんだけど。その間に出てきたシングルって、“オレンジ”以降の自分達の持ち技で何を使うべきなのかってことを考えていたり、四つ打ちのシーンに対して自分達のどういう音楽で盛り上がれるのかってことを考えていたと思うし、そういうふうに後ろ側にシーンや戦略が仮想敵として見えている曲だったと思うんだよね。でも、この“破花”を聴いた時、久しぶりにクリープハイプとして「やってやろう」って曲が出てきたんじゃないかなって思ったんです。

「最初にタイアップ(代々木ゼミナール)の話をもらった時は『絶対断ろう』って思ったんですよ。次のシングルはそういうの関係なく作るって周りにも言ってたし。………でも、やっぱり話をもらえて嬉しかったんですよね。だから『やりたいです』って掌返して言って(笑)」

■ははは、それもらしいね。

「はい(笑)。最初は平べったい8ビートで刺すようなメロディの曲だったんですけど、『あ、これだ!』って思った時があって。でも、向こう(クライアント)からは今回も『“オレンジ”みたいな曲』って注文があって(笑)。でも、それを無視して提出したら、『こんな形の曲がくるとは思わなかったけど、凄くいい!』って言ってもらえて。……でも、自分ではまだ引っかかるものがあったんですよね。このビートじゃないなっていう……なんだろう、サーっと流れていって、引っかかりがない感じがして。その状態で、メンバーと久しぶりの合宿に入ったんですけど、そこでリズムを16ビートに思い切って変えて。イントロも今まで通り自分がバッキング弾いて、リードは小川(幸慈/G)が弾くっていうのが嫌になったんで、自分も(リードギターを)弾いてみようって思って。当てずっぽうでめちゃくちゃやってみて、そこから今のイントロに辿り着いて。その時になんか先が見えた気がしたんですよね。『今の自分はこういうことがしたかったんだ!』ってね」

■それは具体的に言うとどういうことなの?

「うーん……自分の中から出てきた素直なものを、なんとか粘って違うものをまたぶち込んで、無理矢理でもいいからそれを形にするんだっていう……このままでもいいんだけど、またCMのタイアップ決まって、シングル出してっていう中途半端な感じで終わる気がして、それは嫌だなって思って」

■そして、俺(尾崎)はまたスタッフのいろんな人達に愚痴るんだろうと。

「ははは、そうですね。前に、『クリープハイプって、シングル出せばある程度の数字は出るんだから、出さないとダメだよ』って言われたのが、凄いムカついたんですよ!」

■あははははははははははは!

「『めちゃくちゃ売れるわけじゃないけど、バンドの中では売れるほうだから』って言われたのが凄い悔しくて。その言葉も、そう言われる自分らも凄いダサいなぁって思ったし、実はそれが今回の粘りの原動力になったんですよね。かなり無茶のあることをリズムとかでやってるから、それをねじ込んでいる高揚感も出てきて。で、合宿終わって、東京戻ったらスカパラの加藤(隆志/G)さんにプロデュースしてもらうことになっていたので、加藤さんと一緒に悩みながらリズムを作って。そしたらだいぶ変わってきたんですよね。……今回、加藤さんの存在はデカかったなぁ。クリープハイプのファンで、単純に好きでいてくれたのもあって」

■クリープハイプのファンであり、半ばストーカーと化している加藤ちゃんを今回プロデューサーとして起用しようと思ったのは、どういう具体的な理由があったんですか?

「スカパラで歌わせてもらった時(『爆音ラヴソング/めくったオレンジ』)に、音楽的な知識が豊富だし、見えてるなぁって思って。……音楽って本当に見えないものだし、逆に見えないからやってるのかなとも思うし。自分はそれをにおいや音で表現することが多いんですけど、そんな音楽だからこそ見たい時もあって。それに凄いストレスを感じたりして……。でも加藤さんは音楽を見ている人だなぁって感じてたので、自分の作る曲もきっと見てくれるだろうっていうのがあって。……あとは単純に一緒にやりたいし、一緒にいたいなって人だったんですよね。そういう人が今、関わってくれたら心強いなっていう理由です。実際やってみても、的確に言ってくれたし。……でも、ダメな時は凄く不満そうにするんですよね。『この曲まだまだこんなもんじゃない』っていうのを、かなり顔に出してくれるので(笑)」

■あははは。凄い想像できる。

「実は、同じ時期にだいぶ先に出す予定の曲も詰めてたんですけど、その曲ばっかり『これは、本当にいい曲だなぁ~』とか言うんですよ(笑)。もう、それが悔しくて悔しくて。『この曲はどうでもいいんですよ! こっちですよ、加藤さん!』って言ったら、『うん、こっちもいい感じになると思うけど』って言うんですけど、全然気持ち入ってなくて……。去年の最後にも、『年明けレコーディング楽しみだね。俺も頑張るから、絶対いいものにしよう』って言ってくれたんですけど、絶対に加藤さんは満足してないなってわかってて。だから自分もこのままじゃ絶対に納得できないって思ったし、そのテンションの加藤さんとレコーディングを一緒にしてもつまらないって思ったので、正月なのに実家にも帰らず家に篭ってサビを粘ったんですよ。なんか、そういう気持ちで曲を作ったのが久しぶりで。最近はずっとゴールを見定めながら作ってたんですよね。メジャーのリリースのスパンにも慣れて、『こういうCMなんで、こういう曲が欲しい』って言われて、そこに向けて書いているうちに流れみたいなものができてしまって。期間内に曲を書けるって喜びだけで満足してしまっていたんだなって」

■でも、今回は違ったんだ?

「そう、今回はその先に行ったというか。ソングライターとしての欲のためだけに曲を作って。エンドロールが流れた直後に、まだ物語を作る感じ−−−−誰かに見せるわけでもないし、得するわけでもないんですけどね。でも、そんな気持ちで曲を作ったのは久しぶりで」

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text by鹿野 淳

『MUSICA4月号 Vol.108』