Posted on 2016.04.19 by MUSICA編集部

My Hair is Bad、心の奥にある本音のすべてを音楽に曝け出す
メジャーデビュー作『時代をあつめて』リリースを機に、
その核と深部に迫る

俺が「女々しい部分も、愛されたいっていう想いも、こんなに持ってるんだよ」
って並べることで、「それは私も持ってます」って相手にも出してもらえた時、
「ほら見ろ!」っていう気持ちになるんです。……そこに安心があるっていうか

『MUSICA 5月号 Vol.109』P.68より掲載

 

■インタヴュー、楽しみにしてました。

「よろしくお願いします!」

■自分の弱いところ、情けないところ、イタい本音などなどを自分から曝していくような歌を歌われる方だなと思って聴かせてもらってるんですが、椎木さん自身は、このバンドの歌と音楽をどう捉えられてるんですか。

「うーん………それが、自分で本当に答えられないんですよ。特に近頃、スペシャ列伝ツアーを回りながら、自分達が知ってるライヴハウスじゃない場所で1ヵ月間3バンドと一緒にやって、そこから元々やっていたライヴハウスに戻ってみた時、『あれ、俺らってどんなライヴしてたっけ?』って、元々いたライヴハウスとのズレが出てきちゃったんですよ。列伝ツアーを回っている時とかは特にですけど、何か大きいものとか強いものに対して立ち向かって噛みついていくのがMy Hair is Badだと思ってたんです。だけど、噛みつくだけが武器じゃないバンドだったよな?っていうことを自分達に対して思ったし、曲でも歌でも、もっと丁寧に伝えることを大切にしてきた部分もあったのがMy Hair is Badだったよなって。だから、奇を衒うよりも、もっといいところを思い出さなきゃなって最近はよく考えるんですよね。……ただ、よくも悪くも日によって違うもんになっちゃうっていうブレが特に強いバンドだなっていうのは自分でも思うので、なおさらこういう歌です、っていうのが上手く言えなくて(苦笑)」

■日によって違うというか、予定調和がまったくないライヴをしますよね。その日の自分を正直に遺す日記みたいなライヴをするし、それが、ライヴバンドとして状況が過熱してきた要因だと思うんですけど。

「ああ、なるほど。……でも、こうやって訊かれてみると、自分達がどういうバンドかっていうのはここまで全然考えてこなかったなって。バンドっていうもので表現してることに対して自覚的なものがないんですよね」

■じゃあ、椎木さんは自分の何を外に出したくて歌ってる人なんですか?

「……今まで、『narimi』っていうアルバムや『一目惚れe.p.』でも、赤裸々な表現をしてきたとは思うんですよ。だけどそれは、自分の中では役者な部分もあるんです。だから、自分にとって歌を歌うっていうのは、もっとカッコいい自分になりたい、もっと調子に乗りたい、褒められたい、っていうところばっかりなんじゃないかなって思いますね。そもそもバンドを始めた時も、モテたい、目立ちたい、それまでやってた野球を辞めて坊主を避けたい、っていう動機だけだったんですよ。だから、それがそのまま続いてるだけな気がしていて。当時も音楽は好きでしたけど、音楽をやりたい!っていうよりは、モテたい!みたいな気持ちで高校2年の時に組んだのがMy Hair is Badなんですけど」

■ちなみに、当時はどんな音楽が好きだったんですか?

「やっぱり核にあるのは、ELLEGARDENなんですけど。今でも、そこに還れば大丈夫だ、っていう存在がELLEGARDENなんですよね。何かに迷った時でも、『これがカッコいいよな!』って思える存在だし、あのカッコよさは自分の中でずっと変わらなくて」

■音楽的な面でもELLEGARDENの影響は強く窺えますけど、椎木さんにとっては、エルレの何が一番グッときたんですか?

「もちろん、入りはメロのよさとか曲のよさだったんですけど、歌詞の和訳の素晴らしさに感動したんですよ。英語の歌が多かったですけど、それを和訳で読んだ時に、凄く綺麗に描写されてるなと思ったんです。ELLEGARDENって、英語の訳の文章も細美さんが書かれてますけど、それが他の方とはまったく違う書き回しだったんですよね。なんか、細美さんの歌詞って……やたら、『彼女がいなくなる』んですよね。<She’s gone>な歌詞なんですよ。いなくなった彼女を思いながら、残された歯ブラシを見つめてたりとか。そういう情景描写が好きだったんですよね。そこに凄く影響を受けたと思います」

■なんで、<She’s gone>な歌詞がグッときたんだと思います?

「なんでなんですかね………たとえば、その歌詞の核にある意味を知るまで、みんな好きにモッシュして、ダイヴして、暴れるわけじゃないですか。だけど、そうやって人が好きに騒いでいる曲は、凄く個人的な女性の歌だったりするっていう。そこに力を感じたんです。だからそれに影響されて、高校の時に自分が書いた曲を見直すと女の人の歌とか、恋の歌ばっかりなんですよね。そういうきっかけで音楽を聴き始めたから、インディーズの頃のback numberを聴いた時に『こういう歌なら、自分の中にあるものでわかりやすくできる気がする』って思って、日本語の歌を大事にするようになっていったんですけど」

■それはつまり、モテたいと思って始まったバンドではあるけど、ただギター背負ってるだけで満足するんじゃなくて、自分のこととか自分の人生を乗っけた歌を書きたいっていう願望が最初から強かったということ?

「ああ、そうですね。やっぱり、モテたい!っていう気持ちがずっと核にあったからこそ、自分がカッコいいと思う人の真似をして、自分にしかできない表現をしている人間になりたかったんです。で、僕の場合は、やっぱり情景描写が鋭い人や、美しい言葉を書く人に憧れたんですよ。だから、バンドを一生懸命やってる!っていうよりは、ブログとか、歌詞を書くことのほうが一生懸命やってたかもしれないです」

■そこではどんなことを書いてたんですか? たとえば、今こうして歌っているように「誰か」への恋心を綴ったりしてたんですか?

「そこで書くことについては、恋だけじゃなくてまちまちだったんですけど――だけど、それを赤裸々に日記みたいに書けた時、恥ずかしさがありつつ、それを見てもらいたい気持ちもあったんです。で、自分でも『こんなこと書いちゃうのか俺は』って思ったり、思っていてもなかなか言えない、自分だけの秘密を外に出していくのが快感だったというか……高校の頃って、特にひとりで音楽を聴いて、ライヴハウスに行って、人と違うことをしていたくて。だけど、夜バイクに乗って、タバコを吸って、悪いことをする――みたいな勇気はなく。そういうものの中で、何か変わっている自分でいたかったから、普段はあんまり言えないこととか、言っちゃいけないことを赤裸々に書くのが魅力的だったんですよ」

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text by矢島大地

『MUSICA5月号 Vol.109』