Posted on 2016.05.18 by MUSICA編集部

復活を果たしたHEY-SMITH、
渾身の傑作『STOP THE WAR』リリース!
そのタフなポジティヴィティを猪狩に問う

みんなで楽しむだけやったらSMAPのコンサート行きますよ。
絶対楽しいですもん。
でも、バンドはそういうことではないっていうことです。
生き様が音になってる様を見てると感動するし興奮する。
楽しいの向こう側なんです

『MUSICA 6月号 Vol.110』P.72より掲載

 

■本当に素晴らしいアルバムです。メンバーの脱退と活動休止、オーディションから始めた新メンバーでの復活と、前作から3年の間に困難もたくさんあったと思うんですが、そのすべての変化がプラスのベクトルになってこのアルバムに結実していて。時代も世代も越えて響くべき強くて大きなロックアルバムだなと思うんですけど。

「あ、そのロックアルバムだっていうところは意識しました。だからそう言ってもらえるのは嬉しい。まさにそれをメインテーマにしてたんで」

■猪狩さん的には手応えはどうですか?

「めっちゃええのできたと思ってますよ。毎回アルバムの時は思うんですけど、それにしても今回はいいんちゃうかなって思ってます。みんなで合宿してる時も、『この1枚がこの後10年くらいの人生をずっと引っ張っていくものになるから』みたいな話はずっとしてたんですけど、それくらい我々にとってめちゃくちゃ大事なアルバムができたと思ってるし」

■メッセージがより明確かつ強い形でサウンドにまで結実していることもそうだし、今までよりも幅と厚みが広がった音楽的な進化もそうなんですけど、飛躍と深化の両方を果たしてるアルバムですよね。なんでこんな作品ができちゃったんでしょうね?

「なんでですかね? そこはやっぱり、才能なんでしょうね(笑)」

■(笑)。やはりメンバーチェンジも大きかったんですか。

「でも、結構いろんな時期の曲があるんですよ。1年間バンドをお休みしてて、その時にひとりで作っていたものもあるし、新しいメンバーに出会って、そのメンバーの色を感じてから作った曲もあるんで。……とにかく今回は曲数をめっちゃ作ったんですよ。曲だけでいったら30曲ぐらいあって、その中からテーマに当てはまるもの――今の時代に対してだったり、今自分が言いたいことに一番当てはまるものを選んでいったので。だからどの方向のアルバムも作れたと言えば作れたんですけど、こういう方向にしたかったっていうのが大きかったと思います」

■ということはつまり、今回の音楽性がその幅もスケールも以前のHEY-SMITHより増大させるものになったのは、このメンバーになる前からめざしていたことだったんですか。

「ひとりで作ってる時から思ってましたね。で、みんなが集まってから余計にそう思ったっていう感じで。前のHEYの延長上だけのものにはしたくなかったんですよ。それはもう休んでる時から、次は別のメンバーだから全然違う作品でいいやって思ってたし、その上で、誰が聴いても共有できるロック感っていうのがメインテーマとして考えてたんで。大きい意味でのロック観というか………もちろん精神的には今も変わらずパンクなんですけど、でもパンクだけじゃない、EDMとか演歌が好きな人が聴いても『いいやん!』って思えるロック感みたいなものってあると思うんです。たとえば俺だって、ロックとかパンク好きですけど、逆に演歌とかEDMとか全然違うのを聴いても『これはカッコええ』って思えるものもあるし。ライヴにしてもそうですけど、自分が普段は全然聴かないようなものでも感動できることもある。で、そういうところに行けるようなアルバムにしたいな、みたいな気持ちは凄くありましたね。俺らのこと好きなヤツにはもっと好きになって欲しいし、関係ないヤツにも響くような大きいものにしたかった」

■それはメンバーが切り替わるっていうこと以外にも、たとえば前作までの活動でHEY-SMITHとして一旦行けるところまで行ったような、ある種の達成を感じたからこそ、次の段階としてもっと大きな場所に打って出るべく音楽性を広げていったところもあるんですか?

「いや、達成感みたいなもんは全然ないです。……俺はあんまり変わりたくはないんですよ。根底には昔も今もずっとパンクがあるし。ただ、パンクを突き通すために、変わらないために変わらないといけない時が来ているような気がしてて。自分の持ってるパンクというものをしっかり伝えるために、いい意味で変わって、このパンクをしっかり伝えることが必要やと感じたっていうことだと思います」

■「パンクを貫き通すために変わらなきゃいけない時が来てる」っていうのは非常によくわかるんです。それは特にここ数年多くのパンクバンドが肌で感じていると思うし、実際Ken YokoyamaやBRAHMANの最近の作品はそれを実践していってると思うんですけど。猪狩さん自身は、周りの状況だったり世の中のことを見ていてそう考えるようになったのか、それとも、ご自分が表すべきもの、表したいものを考えた時に、こういう音楽的な変化を必要としたのか、その辺はどうだったと思いますか。

「両方あるんじゃないかと思いますね。周りにパンクバンドが減ってるように感じてるのは間違いなくあるし、自分の気持ちとしても、たとえば『STOP THE WAR!』って気持ちがバコーンって強くなってる中で、それを白黒のMVでギャーッみたいにやってても、それだけでは伝わらない感じがするし。だから、そういう精神的なメッセージを伝えるためにも、変わらないといけないっていうのは考えたんで。……まぁでもやっぱり、今ってこういうメッセージをはっきり言うパンクバンドがいないなっていのはどうしても思いますよね。みんな肩組んで『イェーイ! 四つ打ちやっとけ!』みたいな感じで、なんか気持ち悪い。そういうのが嫌やったです」

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text by有泉智子

『MUSICA6月号 Vol.110』