Posted on 2016.07.16 by MUSICA編集部

THE ORAL CIGARETTES、
反骨心と本能剥き出しのシングル『DIP-BAP』発表。
山中拓也の哲学と本質を改めて掘る

シーンに対してとか、お客さんの今のフロアでの感じに対して
「違うな」って思う部分があって……
それを言葉で伝えるカッコよさもあるけど、
俺は楽曲でちゃんと伝えないとなって思った。
ポリープから復活したタイミングで、
「自分」っていうものをちゃんと出したいと思ったから

『MUSICA 8月号 Vol.112』P.58より掲載

 

■最近取材に限らず、いろんな人から「今ノッてますね。キテますね」って言われるでしょ。

「あ、言われますね」

■夢に見たその景色はどういうものだったんですか?

「でも、その『ノッてますね!』っていうのに、そこまでピンと来てないんですよ(笑)。もちろんステージに立った時にビックリするぐらいの数の人がいたりして時々実感したりはするんですけど、ずっとトータルで『俺、ノッてるぜ!』っていうのはなくて。自分でもずっと怖いし(笑)、そんなイケイケモードにはなってない」

■ただ、『FIXION』のリアクションもそうだし、今年に入ってから各地のライヴでの景色は明らかに変わったと思うんだよね。どういう起点とかきっかけがあってそういうふうになったと思いますか?

「最初は、『(喉のポリープの)手術を乗り越えた』っていう自分の中での変化と、お客さんのオーラルに対しての見方が変わったっていうのがデカいのかなって思ってました。でも、去年ポリープで手術してる間に自分達の動き方を見直すタイミングがあって。その時に、ポリープ手術でどうこうなったとかじゃなくて、4月に『エイミー』を出して、夏フェスの期間に『カンタンナコト』を会場限定で出して新しいことをやって、休んでる時に初めてのタイアップで“狂乱 Hey Kids!!”っていう曲を書けて、その積み重ねがあったからこうなったんだなって思ったんですよね。それができたことに対する僕らの自信もあからさまに違うから、お客さんがわかりやすく増え始めてるのかなって思って。だから、どこがどうだったかじゃなく、今に至るまででずっと繋がってる気がするんです」

■僕はね、オーラルはノッてないからこそ、今が上手くいってるんじゃないかなって思ってるんです(笑)。

「はははははは。きっとそうだと思います」

■去年の夏に『カンタンナコト』というシングルを出したよね。あの曲って、全然サマーアンセム感がない曲で、そういう曲を敢えて夏フェスの会場限定で売っていった。これは「俺達は今来ている波には乗らないぞ」って言ってるようなもんじゃないかなと思ったんです。

「そうですね」

■で、その後ポリープの手術をして、いろんなものが回復していって、“狂乱~”というアンセム度が高いシングルも作って、素晴らしいリベンジ公演もやった。この一連の流れって世の中の期待に応えているっていうよりは、自分達の失地回復を遮二無二やっていった結果だったと思うんだよね。で今回の『DIP-BAP』っていうシングルも、「波に乗ってる俺達!」っていう曲ではまったくないし、歌の内容に関しては真逆だったりしていて。そういうところが結果的にこのバンドの独自の道に繋がっているし、信頼感にも繋がっているような気がするんですよ。

「その通りだと思います。オーラル組み始めの時は、いろんなアーティストを見て『自分達はこうしたらいいのかな?』とか頭で考えて真似してたんですけど、『オレンジの抜け殻、私が生きたアイの証』を出すタイミングで『全国に流通するものだから、簡単な想いでは出せないよね』っていう話をして、その時に自分を見直すきっかけがあって。そこで自分は暗い人間なんだとか、捻くれてる人間なんだってことにちゃんと気づいたんで、もう無理に明るくするのはやめようとか、自分のペースでやろうって思った。それが自分達の強みだって気づいたし、『これが山中拓也だな』『これがオーラルだな』って胸張って言えるんですよね。だから、わざわざスタイルを変える気もないし、何処にもノらない。なんならちょっとアンチというか、『世間に対して俺はこう思う』とか『俺はそうじゃないんだ』みたいな反骨精神がオーラルを上げていってる気がして」

■拓也はもの凄く状況を読むじゃない? 今みんなが何を求めてるのかっていうところも読むし、マーケティングをリサーチしてるなとも思うし。昨今、いろんなアーティストから拓也の名前が出てくるんだけど、みんな「いやー、あいつにいろいろ吸われてます」って言うんだよ(笑)。

「はははははははははははははははははは!」

■「『ワンマンをこういうところでこういうふうにやるにはどうしたらいいんですか?』って話してくるんだけど、いろんな話をすると全部吸い取ってるんですよね」みたいな(笑)。拓也はそういう話を聞いた上で、自分達のやり方に繋げてると思うんだよ。つまりあなたはとても批評的なアーティストなんです。

「そうですね。聞いたことを吸収するのは昔から得意だったんですけど、それを上手く表現することが全然できなくて。でも、今はTHE ORAL CIGARETTESがどういうバンドであるかとか、自分がどういうヴォーカリストであるかっていうことは百も承知だから、フィルターを通してどう発信していくかってことを考えてて。そのフィルター自体が捻くれてるから、他のバンドとやることが変わってくるし、提示したいものが変わってくるんだなって思ってます」

■今話してくれた「自分達らしくあればいいんだ」「自分の歌い方はこういうものなんだ」って思った確信って、THE ORAL CIGARETTESっていうバンドが捻くれてるバンドだっていうこと以外に、俺達はどうだからこのままでいいんだって思ったんですか?

「………単純にバンドを通して学ぶこともあるんですけど、最近は個人の動き方を通して学ぶことが多くて。たとえば先輩とか、一緒に頑張ってきた同期のバンドから話を聞く中で、『ここは乗ろうとしてるな』とか『ここは譲れないんだな』とか、喋ってる相手を勝手に分析しちゃうんですよ(笑)。昔から人間観察が凄い好きだったから。そうやって人を見る中で、自分も見えてくるなって思ったんですよね。だから、オーラルを通してステージ上で得るものも凄く多いし、『山中拓也はこういう人間でいなきゃいけない』とか『オーラルはこういうバンドでいなきゃいけない』って思うことはあるけど、でもプライヴェートのほうが学ぶことが多いなって思ってて。ステージ上とプライヴェートの人格を分けてる人もいるし、そこが一緒の人もいるじゃないですか。じゃあ俺ってどっちなんだろう?って思った時に――前回のMUSICAのインタヴューでも話したと思うんですけど、自分はバランス感覚みたいなところを意識してやってるなって思ったんですよね。言い方は悪いかもしれへんけど、『俺がこういうふうにバランス取って出したら、絶対伝わるはず』っていうのをステージ上で試して、それをステージ以外でも試していったんです。だから、頭使ってるっちゃ使ってるけど、実際に一番自分らしくあれる道を選んでやってるし、今は周りの反応を見てこれでよかったんだなって思ってて」

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text by鹿野 淳

『MUSICA8月号 Vol.112』