Posted on 2016.07.17 by MUSICA編集部

the HIATUS、様々な挑戦の果てに掴んだ『Hands Of Gravity』。
細美武士の音楽家の本質に向かい合う

この旅をしなかったら、
同じコード進行で俺はなんぼでもメロディが書けるなんて
思えなかったはずなのね。あのまま行ってたら、
もうこの進行でのメロディは作り尽くしたみたいな気分で
延々と曲を書いて、過去曲の強さを求めたまま
成長できないっていう状況になってたと思う

『MUSICA 8月号 Vol.112』P.92より掲載

 

■間にMONOEYESを挟んだことでどんなアルバムになるのか興味深く待ってたんですが、いい意味で自分が予想していたものとは違っていて。

「あ、そうですか?」

■はい。私は勝手に、MONOEYESがあったことで逆にthe HIATUSはよりアートとしての側面が強い方向性というか、実験的であったり、先鋭性に振り切れる可能性も高いんじゃないかと思っていたんですけど、実際届いた作品は、相変わらず緻密さと深遠さを兼ね備えた音楽性ではあるんですが、でもストレートに開けた楽曲が多く並んでいて。特に後半は非常にエモーショナルな楽曲が多くて、そこからもたらされる感動が凄く大きいアルバムだと思いました。まずご自分ではどんな作品だと思いますか?

「the HIATUSは自分達でも毎回どんな作品になるかわかんない状態で作曲を始めるので、今回もそうだったんですけど。でも、大方の予想は今おっしゃってもらったものだったと思うんですよ。で、俺としてはそっちに向かっても全然構わないっていうか、どんなものができても構わないぜっていう気持ちで、凄くリラックスした状況で制作を始めました。基本的に柏倉隆史(Dr)と伊澤一葉(Key)と俺がスタジオに入って作曲を進めていったんだけど、その時も『音出してみないとわかんないよね』みたいな感じで始めてて。俺以外のふたりのモードがもの凄いアバンギャルドなものを作りたいっていうようなものであっても、俺はそこに乗っかっていくつもりだったし。でも、なんとなく5曲ぐらいアルバムに入れたい曲が出揃ってきた辺りで、意外とビッグソングが生まれてきてるなっていう印象があって」

■はい、まさにアルバムを聴いて感じたのはそこでした。つまりアンセム性の高い楽曲が多いという印象があったんですよね。

「別にそっちに行こうって決めて作ってたわけじゃないんだけど、俺達3人で曲のネタを作った時に、3人揃って行きたいと思う方向は今回そっちだったっていうことなんじゃないかな。………MONOEYESが生まれて、『the HIATUSで自分のすべてを表現しないといけない』みたいなしがみつき方がなくなった時点で、ようやくメンバー全員が対等になったっていうのかな。それによって本当に自由にthe HIATUSという場所で音楽を生み出すことができるようになったなっていう感覚はあって。the HIATUSはそもそも作品を出すぞって言って集まったメンバーだから、最初は5人のメンバーが一番活きる形を探るっていうか、それこそ『このバンドはどんなバンドなんだろう?』っていうのを探るようなところがあって。それが3作目ぐらいまでどうしてもかかったと思うんだけど、4作目ぐらいからは阿吽の呼吸みたいなものも含めて絆が太くなって、共同作業をすることに対してストレスがなくなった感じがあって。バンド内でのそれぞれのあり方というか、分業がどんどん明確になっていったのが『Keeper Of The Flame』の辺りだったんだけど。お互いに対するリスペクトもどんどん強くなって、『あいつがいいって言ってるんだから、いいんだろうな』みたいな割り切り方もできるようになった。で、今回はそこからもっと進んで、こいつがいいって言ってるからいいんだじゃなくて、全員が100点だと思うものになるまでみんなでひとつのものを作ることができたと思う。しかもそれに対してストレスをまったく感じずに、一緒に音楽を作り上げる楽しさの中でずっとやれたんですよね」

■the HIATUSはそもそも細美さんがご自分の新しいプロジェクトとして立ち上げたもので、言ってみれば、始まりの時点では細美さん自身が自分の新たな音楽世界というものをどういう形で表していくのか、自分なりの美学や信念をそれまでとは違う形でどう新しくアウトプットしていけるのか、それを探っていく旅でもあったんじゃないかと思うんです。そこからバンドへと進化して前作でそれぞれの特性や役割分担が明確になった時に、細美さん自身はthe HIATUSの中での自分の役割はどういうものだと捉え、そしてこのバンドで何を表したいと思うようになったんですか?

「the HIATUSの俺の役割という意味では、まずミュージシャンとしてはヴォーカルであり、素晴らしいリズムと音階の立体構造を作ってくれる仲間がいて、その仲間と作った曲に言語的な意味を与える――つまり詞を書くっていうのが俺の役割。で、いい歌を歌うこと。音楽性はみんなで作り合いたいので、ミュージシャンとしてはあくまで5人のうちのひとりで、上でもなければ下でもない。だけどそれ以外の部分では、バンドのリーダーだと思ってます。スケジュールを構成したりとか、今回のレコーディングの音的なテーマはこんな感じでどうか?とか、そういうことを考えるのも俺の役目。……俺、メジャーで音楽やるのはthe HIATUSが初めてだから、バンド内の体制を整えて絆が太くなっていくのと同時進行で、メジャーの中で自分達が音楽を作る環境も整えていかなきゃいけなかったんだけど。それが5~6年かかってようやく音楽を集中して作れる状況を作れたっていうのかな。DIYとは違うけど、誰かに指揮棒を振られてものを作るんじゃなくて、予算の管理も含めて全部をちゃんと自分達で割り振るっていうことができるようになった。そもそも俺は、メジャーでやってはいるんだけど、チャートの上位に行くっていうことを活動の目標から排除して、ただひたすら自分達で何度も聴きたくなる音楽とか、もしかしたらこういう音楽があったほうが朝飯が美味かったりすんじゃねえの?みたいなものを作りたいって思ってやってるので。そういうまっすぐさっていうか……まぁもう全員オヤジだから、ピュアさはないんだけど」

■でも、オヤジの純粋さはありますよね。

「ははははは、あるね。料理する時も味だけに向かう、みたいな(笑)」

■はい(笑)。売れるためにどうこうじゃなく、音楽家として純粋に音楽の旨味と美しさを追究する、そこは決して譲らないっていう。それはthe HIATUSというバンド/音楽の核になってると思うんですけど。

「うん、そういう感覚でメジャーレーベルと音楽を作って成立させるための状況をこの5~6年で整えてきて、なんとかここまで辿り着けた。それもバンドメンバーの中のストレスがなくなっていく要因だったのかな。そういうことが割と上手く行き始めたっていうのが、音にも表れてたりするかもしれない。あとやっぱり、俺にもう1個MONOEYESというバンドがあるっていうことが、今作に向かうモチヴェーションを大きく変えてくれたというか、整えてくれた感じがあるんで。逆に言えばthe HIATUSの外で音楽を作りたいと思ったのはそこを整えたかったからだし――」

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text by有泉智子

『MUSICA8月号 Vol.112』