Posted on 2016.08.16 by MUSICA編集部

スピッツ、2号連続企画・後編
草野マサムネによる『醒めない』全曲解説インタヴュー

前作までなら「こういう強い言葉はスピッツっぽくないな」ってカットしてた言葉も、
今回は自主規制レベルをちょい下げてて。
……今巷で流れてるポップな音楽の歌詞の
「あまりの当たり障りのなさ」に、一石投じたい気持ちもなくはないです

『MUSICA 8月号 Vol.112』P.30より掲載

 

1. 醒めない

 

■前号のメンバー全員での表紙巻頭に続いての取材をマサムネくんひとりでお願いするんですが。

「みんな帰っちゃったしね、寂しいです」

■あと2時間ほどおつき合いを。今回は8月16日発売の記事なので、『醒めない』をみんなが聴いた上で読むものになるんじゃないかな。

「あ、じゃあ、なんかこぼれ話的なことも話したほうがいいかな?」

■それは是非お願いしたい! というわけで早速1曲目の“醒めない”から。これは「1曲目を書こう」と思って書いた曲と話してくれましたが。

「そうですね。毎回ね、1曲目の曲って困るんですよね。なるべくシングル曲を1曲目にはしたくないっていうのもあるし」

■それはつまり、新しいアルバムを再生して最初に耳に飛び込んでくる曲は、すでにみんなが知ってる曲ではなく、まっさらな新曲でありたいと。

「そう。で、今回も、今年に入ってしばらく『まだ1曲目っぽい曲はないよなぁ』って思ってたんです。なんかね、これまではずっと『結果としてこの曲が1曲目』みたいな感じで来てたけど、もっとベタにアルバムの幕開け感がある曲を作ってみたいっていうのは実はずっと思ってたところもあったんだよね……で、そうしてるうちに『醒めない』っていうアルバムタイトルが決まったので、じゃあこれで作ろうって。『醒めない』っていう言葉はずっとあたためてた言葉でもあったんで」

■それはもうずいぶん前からってこと?

「ここ2年ぐらいかな? スマホを持つようになってから昔と比べてメモることが凄いラクになって(笑)、パッて浮かんだ『あ、これいいかも』っていう言葉をどんどんメモれるようになったんですよ。それこそ昔は『家に帰るまで忘れないようにしよう!』って思いながらも忘れてしまうこともあったんだけど(笑)。だから今はピンと来た言葉のストックがたくさんあるんですけど、その中のひとつに『醒めない』っていう言葉があって。これは今、自分達の創作におけるキーワードとしてぴったりだなっていうふうには思ってたし、実際に制作をしていくうちにこの言葉がどんどん自分の中で大きくなっていったんで、『これをタイトルにしたら凄く俺らの今っぽいかも』って思ったんですよね」

■このタイトルに込められてるのは「醒めたくない」という想いや「俺達はロックバンド家業から絶対に醒めないんだぞ」っていう意思表示ではなく、現実に俺達はこうやって生きてるんだっていう現実描写なんだね。

「うん、そう。(若い頃は)何十年後かは醒めてるんだろうなぁって思ってたんだけど、醒めてねぇじゃん!っていう(笑)。それは幸せなことだし、『まだまだ醒めないじゃん!』っていう気持ちは、この年齢だからこそ言えることでもあるし。なので、そういう想いを音とか歌詞に込めた曲が作れないかなっていうので取りかかりました。タイトルから曲を作るっていうのは今まで本当にやってなかったんだけど、でも意外と楽しい作業だなとは思いながら、作ってましたね」

■そういう曲を1曲目にしたいっていうのは、どういう気持ちだったんでしょうね?

「うーん……前回のアルバムが割としっとりと暗めな曲から始まっていたし、『とげまる』もどっしりした曲から始まっていたから、今回はもうちょっと軽快で明るい曲から始まってみたいっていうのは流れの上でもあったんですけど。………自分が今聴くんだったら軽快な曲から始まるアルバムを聴きたいなっていうのは強いのかも」

■そこは自分の中の時代に対する反射、もしくは時代に対する提示みたいなものもあるんですか。

「いや、間接的に影響を受けたりはしていると思いますけど、具体的にはないですね。今回は、『小さな生き物』ではまだ再生する前の不安と期待の中にいた主人公が、いよいよ再生しますっていう、そういうアルバムにしたかったので。だからオープニングを飾るファンファーレ的な曲にしたかったのもあったし。実際、ベルの音やラッパの音も入ってますしね」

■<カリスマの服真似た/忘れてしまいたい青い日々/でもね復活しようぜ/恥じらい燃やしてく>という一節があるんですけど、これは昔のご自分に対することですよね?

「ふふふふふ。ま、今思うと『それ違うだろ!』みたいな恥ずかしい格好してましたからね(笑)」

■足にバンダナ巻いてやったりしてたよね(笑)。

「ははははは、そう、あの頃はみんなね――みんなっつって自分を薄めようとしてますけど(笑)」

■僕は“醒めない”と最後の“こんにちは”の2曲は、両方ともロックの神様みたいなものに語りかけている歌なのかなとも思ったんですけど、マサムネくんの中ではそういうものではないのかな?

「………いや、でもそれは近いかもね。神様でもいいし、ロックっていう大陸でもいいし――『ロック大陸』って俺がよく使う言葉なんですけど、そこに対して語りかけてるところはあるかもしれない。……思春期の頃って、どこに掴まっていいのかわからなくてウロウロしているような時期だったんですけど、そこでロックに出会ったことでやっと上陸できる大陸見つけちゃったよ!みたいなワクワク感覚があったんですよ。その感覚が今でも続いているなっていうのはありますね」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA8月号 Vol.112』