Posted on 2016.08.17 by MUSICA編集部

クリープハイプ、本領発揮のアルバム『世界観』完成!
会心の名作を尾崎が存分に語り尽くす

僕は人を巻き込んで、人を背負って
やっていかないと納得できないんだなって。
今こうやってるのもバンドを続けてるのも
人に構ってもらいたかったんです、結局は

『MUSICA 8月号 Vol.112』P.40より掲載

 

■メジャーデビューアルバム以来、もしくは『踊り場から愛を込めて』以来の傑作が生まれたと思います。

「うわ、ありがとうございます。こういう瞬間に頑張ってよかったと思えるんですね。嬉しいです、本当に」

■おめでとう。いろんな意味で有言実行できている作品だし、込めた力が全部音楽になっていると思ったんですけど。ご自分ではどういうふうに感じてますか?

「今回は、前の2枚目、3枚目に比べると、作ってる時はそんなに細かく考えてなかったんですよね。全然時間もなかったし」

■2枚目(『吹き零れる程のI、哀、愛』)の時は、「売れる」っていうことに対してどれだけアルバムで餌を撒けるか、戦略的なものが作れるかっていう時期だったよね。

「そうですね。ファースト(『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』)は元々あった曲が半分以上だったので、そういう意味では『作った』っていう感じはそこまでなかったんですよね。で、セカンドはアルバムをしっかり作るぞっていう気持ちで作ったんです」

■3枚目(『一つになれないなら、せめて二つだけでいよう』)は、現状に対して矢を射ちたいみたいな気持ちがあったよね。

「はい。そういう意味では、3枚目はアルバムを作るっていうことに関して一番成熟してたつもりだったんですよね。でも、真面目にやり過ぎたなって思ってて。それと比べると、今回のはそんなにアルバムを作るっていうモチヴェーションもなかったし(笑)。アルバムを出さなきゃいけないっていうことで曲は作ってたんですけど、その曲がいいか悪いか自分ではよくわからなかったんですよ。で、去年の年末に合宿をやった時に、代ゼミのタイアップで“破花”を作るタイミングがあって。だから、アルバムに気持ちが行ってない中で、今年の5月ぐらいからレコーディングが始まっていったんです。そこから“鬼”の話をもらって――元々、『境界のRINNE』のタイアップの“アイニー”だけがあって、それでアルバムを出すっていう感じだったので、ここからの流れはなんとなく想像できるなって思ってたんですよね。そこで“鬼”の話が来て、『こういうことやってみたいな』と思うことが繋がったというか、“鬼”があることによってちゃんと説得力が出たと思うんですよね。あと、小説(『祐介』)を書いてたことによって、より強い歌詞も完成して、ひとつ自分の中で落ち着いた感じがしてて。それでだいぶ変わっていきました。だから、このアルバムが完成する1ヵ月くらい前まではそんなに手応えないままやってたんですけど」

■前作のアルバムが出てからこの作品を出すまでに、いろんな心模様の変化があったと思うんですよ。僕は、それが全部この作品に出ているなと思ったんだけど、自分の頭の中ではこのアルバムはまとまってないんだ?

「あ、でもこの間聴いた時は凄いよかったですね。『こういうふうにできたんだな』っていう感想はありました。そういう意味では、鹿野さんの言う通りファーストに似てるかもしれないですね。『これでいいのかな?』っていう気持ちがあったんですよね、昔は」

■みんな“オレンジ”を「いい」って言うけど、尾崎自身は「そんなにいい曲かな?」って思ってたりね(笑)。

「そうですね(笑)、それに近かったです。ただ、そうやっていろんなことができたから、やってて楽しかったですけどね。楽しいだけで終わるんじゃないかって思ってたけど、現段階で聴いてもらった人達にも『いい』って言ってもらえてるので。………なんか不思議だなって思います。なんとかしたい時になんとかならなくて、『別にいいや』って思ってる時にそうなるっていうのは」

■そこは不思議ではなく必然だというインタヴューにここからなると思うんですけど、そもそもはどういうものを作りたいと思ってたの?

「とりあえず曲をいっぱい入れたいなって思ってたんですよ。曲は今までで一番入れようと思ってて」

■それは現実的な話として、このタームはシングルが割と多かったっていう理由があるよね。だからこそそれ以外の曲をたくさん入れようと。

「そうですね。前作は曲が少なかった印象があったので、そこだけは最初にこだわってました。単純に『シングルとか、こういう曲が多過ぎたらあれだな』っていうバランスを考えたりしてたんですけど、その結果逆にいろんなことやり過ぎてスタンダードな曲がなくなってたので(笑)、最後に1曲目の“手”っていう曲を作って。そういうのができたことによって、アルバム全体がまとまったかなって思います。でも、結局全部偶然なんですよね。最近の流れとしては、全部がタイミングとして上手くハマって、アルバムに辿り着いた感じがしますね。それは今年の頭から全部そうです。だから理由とか理屈とかが今回は全然ないんです。本当にそういうことを考えてなかったし。最初はなんとかアルバムを完成させないとっていう気持ちだけでやってたぐらいで」

■言ってみれば、『死ぬまで一生~』も理屈がない作品だったもんね。「とにかくやんなきゃ、出さなきゃ、この曲を入れとかなきゃ」ってだけ。

「そうですね。でもその後からは売れたから周りから言われたりして、しかも移籍のこととかもあったから、成功する為の曲ってことを凄く考えてたんですけどね。たぶんそれがよくも悪くも伝わってなくて、わかってもらえてなかったっていうか――」

■いや、伝わってたんだと思うし、僕も伝わってたつもりでした。ただ、悪しき例として位置づけるならば、ちょっと頭が固かったってことだよね。音楽がちゃんとタンスの中にしまわれ過ぎて、このバンド本来の面白さやいい意味での粗暴さが聴こえてこなかったというか。

「『こうして欲しい』っていう自分の理想が曲の中から透けて見え過ぎてたのかな。それが押しつけがましかったのかもしれないです。今回は『別に聴いて欲しいとも思ってねえし』ぐらいの感じで作ったんですけど、聴き返した時に強いものができたからよかったですね」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA8月号 Vol.112』