Posted on 2016.08.18 by MUSICA編集部

シングルが発売延期となったサカナクションの「今」――
その活動の意図と現状に正面から切り込む

今一番怖いのは、
自分がやりたいこととチームがやりたいことに温度差が出ることで。
その温度差を埋める方法を見つけなきゃとは思ってて、
そのために具体的に始めたのが僕の自宅をスタジオ化して、
メンバーが定期的に集まって話し、制作をするスタイルなんです

『MUSICA 8月号 Vol.112』P.88より掲載

 

■インタヴューするのは去年の10月に広島でツアー中にやって以来なので、実はかなりご無沙汰で。いろいろじっくり話したいんだけど、まずは一番近いところ、SAKANATRIBEから行きましょう。

「はい、よろしくお願いします」

■初の野外レイヴ主催、そして5,000人を動員して成功させたことに対して、まず何よりもおめでとう。EDM以外で今この国で5,000人規模のレイヴパーティをやるのはなかなか難しい中で、初回でこれだけ動員を果たしたのは大きな意味があると思いました。終わって10日ほど経過した今、自分の中ではどういう感じですか?

「実際にやってみて、自分が思ってたよりもストイックなパーティになったなと思ったんですよ。天候も雨だったし、フェス(JOIN ALIVE)からそのままオールナイトだったのでお客さん的にもタフな状況だったろうと思うし(JOIN ALIVEと両方参加した人が多数だった)、サウンド的にもバンドなしでDJだけのパーティだったし。たぶんあのパーティで楽しめたら日本全国どこのオールナイトパーティ行っても大丈夫じゃないかっていうぐらいストイックかつタフなパーティになったなと思うんだけど(笑)、5000人の参加者の大多数が最後までちゃんとついてきてくれてたんで、そこは凄く希望があったなと思いました。あと単純に1回やったことでいろんなノウハウもできたんで、来年以降また新しくパーティーをやる時に活かせるなと思いましたね」

■MUSICAの去年のインタヴューでは、2017年に2万人規模でレイヴをやりたいって言ってて。それでいくと1年前倒しで5000人規模のイベントになったわけだけど、これは将来やりたいことの前哨戦を地元でやったっていうふうに捉えればいいの?

「そうですね。僕がやりたいのは日本最大規模のレイヴパーティというか、キャンプと音楽が一緒になった、音楽はもちろん音楽以外のカルチャーにも触れられる空間を作るっていうことで。それがサカナクションの次の夢のひとつでもあるんだけど。それをやるためには勇気も準備も必要なんで、まずそこに向けた前哨戦としてNFというイベントをリキッドルームで始めたんです。で、名古屋、大阪でもやり、その流れで北海道でもやろうという話になって。そんな時にちょうどMount Aliveの山本さん(北海道のイベンターにしてJOIN ALIVEの主催者)から『上でやらない?』っていう話をいただいたんで(今回のSAKANATRIBEの会場は、JOIN ALIVEの会場に隣接するゲレンデの頂上に作られた)、野外イベントの経験を積みたいという部分も含め、今回あの場所で走らせてみたんです。実際やってみて夢があったのは、オールナイトパーティでも保護者と一緒なら未成年も参加できたんですよ。だから高校生や小学生も結構来ていて。たぶんその子らが普段聴く音楽はJ-ROCKやフェスに出る音楽、あるいはもっとエンターテイメントなポップスだったりすると思うんだけど、そういう子達がDJの中でも割とストイックなダンスミュージックを体験する、その楽しみ方をフラットに経験できた――そういうハイブリッド性に僕達が関与できたっていうのは、今の自分達がテーマとしている、『100万枚のセールスを上げてシーンに影響を与えるんじゃなく、未来を見据えてもっと直接的にシーンに影響を与える活動をする』っていうことに直結したかなって思いましたけどね」

■この1年、NFからSAKANATRIBEまでやり続けてきた中で見えてきたポジティヴとネガティヴは、どんなものがあるの?

「これはずっと言い続けてることだけど、音楽って音楽以外のカルチャーの影響も受けているし、かつ音楽以外の仕事の人達も関わっているものじゃないですか。それをリスナーが自覚したり、そこに面白さを覚えるようになると、音楽から他のカルチャーに興味を持ってもらえるようになると思うんですよ。80年代とかそうだったと思うんですけど、それがこれからの音楽の未来でもあると思っていて。プラス、近年音楽の楽しみ方が一方向的になっているけど、そうじゃない形の楽しみ方――浴びるんじゃなくて『探す』音楽の遊び方を提案することを自分の表現の一部にしたいという想いが僕には強くあるから。主にそのふたつの想いの下にNFをやってるわけですけど、それがちょっとずつ実を結びかけてはいるなって感じられてるのがポジティヴな部分。でも、マネタイズ含めて本当に続けていくためのスタミナをどうやってつけるのかは、現実的にまだ手探り状態で。やっぱりビジネス的なメリットがないとシーンは動かないから、それをどう動かしていくか、そのためにどういう人達と組むのかがキーになっていくかなと思ってて。だから今はそのためのチーム作りをやってるんだけど」

■SAKANATRIBEをあの規模でできたのは、サカナクションというブランドが大きいのは言うまでもないことで。それは自分達がちゃんと実績と信頼を培ってきたことの素晴らしい証明であるんだけど、ただ一方では、現実的にやはりサカナクションのメンバー以外のアクトでは、みんな疲れて休んでしまっている様子も多く見受けられて。それは一郎自身も自覚してるよね?

「そうですね」

■そこも含め、自分達が今やってることをどこに着地させていきたいのか、そのためにどれくらい時間がかかると思ってるのか、その辺りはどう?

「………時間はかかるかもしれないけど、今は早くその基盤を作りたいっていう感じですね。僕らはみんなが知らない遊び方を知ってるんで、それをみんなに体験してもらって、より音楽を楽しいと思ってもらいたいし、音楽を探す活力をサカナクションの音楽、表現の中から得て欲しいなって思ってて。かつ、自分達ももっと音楽で遊びたい。それが“新宝島”で歌った自分達が連れて行きたい先だと思ってるから」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA8月号 Vol.112』