Posted on 2016.09.15 by MUSICA編集部

星野源、本年最強の一手となる
シングル『恋』リリース!
「『YELLOW DANCER』以降」とそのすべてを振り返る

「J-POPが更新されたから何だ」って思う自分もいて。
世の中は変わったかもしれないけど、それで俺が何か変わるのか?っていうと、
あまり変わらなくて。元々のニーズが「俺」なので。
で、その「俺」が結構厳しいので(笑)

『MUSICA 10月号 Vol.112』P.10より掲載

 

(前半略)

■まずは、何はともあれ、ご自分では今回のシングルに対してどんな手応えを持っているのか?というところから始めたいんですけど。

「なんて言ったらいいかな………………『次のシングルはこういうものになる』っていう自分の予想を、遥かに超えたものができたなぁという実感があって。だから凄く嬉しいです」

■その超えたものっていうのは、音楽的な部分で?

「なんか、『密度』みたいな感じかな。音楽の密度、アイディアの密度、フレッシュさの密度。いろんなものを含めて、凄く密度が高いものができたと思います。もちろんそういうものになったらいいなと思って頑張ってたんだけど、“恋”に関しては特に、自分の予想を超えたレベルで達成できて。この中では“Continues”が一番最初にできた曲なんですけど」

■そうなんだ。“Continues”もめちゃくちゃ素晴らしい曲だよね。これがA面になってもおかしくないくらいの楽曲だし、もしかしたら『YELLOW DANCER』の発展系という意味では“Continues”のほうがしっくりくるというか、『YELLOW DANCER』と“恋”を繋ぐ楽曲でもあるよね。

「うん、そうです。これは『YELLOW DANCER』の次っていう意味では一番キーになる曲なんです。実際、最初からそういうものを作りたいと思って作ったのが“Continues”で。ひとつの方向性として、『YELLOW DANCER』で作ったものをよりイエローミュージックにしていきたいっていう想いがあって。それをやるんだ!っていうふうに思って作った曲なんだけど。この“Continues”には細野(晴臣)さんへの想いっていうのが凄く入っていて。僕の目の前を照らしてもらった細野さんへの感謝の気持ちと、それを自分の音楽に受け継いで、そしてここからさらにまた次の音楽に繋がっていったらいいなぁっていう想いが、歌詞の内容にしても、楽曲のアレンジに関しても、凄く入ってる曲なんです。まぁそもそも楽曲の一番大元にあったアイディアは、ジョージ・デュークなんですけど(笑)」

■なるほど、そうなんだ。

「ジョージ・デュークは凄く好きで、ライヴの客入れと客出しの時にずっと流してて。その影響もありつつ、そうやって続けていく、音楽はや人間は続いていくんだっていう想いが自分の中では一番強くある」

■だから<胸に浮かんだ はらいそは/笑えるほど 鈍く輝いてるんだ>という、「はらいそ」(細野晴臣&イエロー・マジック・バンドのアルバムタイトル)という言葉も出てくるし、タイトルも“Continues”なんだ。

「そう。もちろん、『YELLOW DANCER』からその先に続いていくものっていう意味も含めてのタイトルではあるんだけど。だから、そういうのを全部含めてまず最初にこの曲がドンッ!とできたので、逆に“Drinking Dance”は超力抜いてめっちゃ遊んでるっていう感じになった(笑)」

■確かに“Drinking Dance”は、これ作ってる時めちゃくちゃ楽しかったんだろうなぁという雰囲気が滲み出まくったディスコチューンだよね(笑)。

「遊びまくったアレンジだし、アナログシンセの入れ方とかもめちゃくちゃだし(笑)。しかも、ずっとファルセットだしね(笑)」

■そう、これ全編ファルセットで歌っててびっくりした。「ウコンの力」のCMでも流れてるけど、まさか全編そうなるとは思ってなかったので。

「凄く楽しかった(笑)。で、こういう曲達ができた後、一番最後にできたのが“恋”で。やっぱり一番気合い入れて作りました。『YELLOW DANCER』で作ったものとこのカップリングの曲達、その全部を引っ張っていくような、もの凄い力のある曲を作りたい!って思って取り組んだのが“恋”です」

■この“恋”という曲は、『YELLOW DANCER』で成し遂げた「ブラックミュージックとJ-POPの融合」っていうのを完全に血肉化した後、その次の段階として生まれたポップスであるっていう印象が凄く強くて。

「嬉しい。やっぱり今回もダンスミュージックはどうしてもやりたくって。身体が動きたくってウズウズするみたいな、そういうダンスビートの曲にしたいなとは思ってたの。それで、いわゆるクラシックなダンスビートみたいなものも作ったし、ジャズっぽい方向のものも作ったし、ジャンプ・ブルース的な方向のものも作ったし、いろいろ試してみたんです。でも、なんていうか、どれも引っ張っていってくれる感じがなかった。なんか安全な感じというか」

■想定の範囲内、みたいな感覚?

「そう。『YELLOW DANCER』をリリースした後、凄く嬉しかったのは………ほら、“SUN”みたいな曲がすっごく増えたでしょう?」

■増えた(笑)。それはもう、ポップスの世界でもバンドミュージックの世界でも、あからさまに増えたよね。

「そのこと自体、嬉しくってやったぜって感じだし、非常に誇らしいことではあるんだけど、でも、どこかでああいうダンスビートっていうものが記号化してきているなということも感じて。だからそうじゃない、記号として受け取るものじゃないダンスミュージックっていうものを作りたいなという方向にどんどんなっていって……というか、そうじゃないと自分が満足できないっていうか(笑)。で、『満足できない! 満足できない!』って、いろいろ試しながらずーっとやってきて」

■今って、ディスコビートとかファンクなビートって「これやっておけば今っぽいでしょ」みたいに聴こえるところがある、つまりこの日本でも完全にトレンドになっているわけですけど。そういう感覚とは一線を画した、トレンド云々を越えてワクワクするような、かつ新鮮な驚きのあるダンスミュージックを求めてたっていうことだよね。で、そのためにはただ単にダンスクラシックとかジャンプ・ブルースとか、そういうふうに分類できちゃうダンスビートでは満足できなかったってことだよね。

「うん。それで結構悩んで、いろいろやってみて一番しっくりきたのが、このテンポのこのビート感だったの。その中で思いついたコンセプトが、いわゆるダンスクラシックの33回転のLPを間違って45回転で再生した、みたいな曲にしよう!っていうもので(*33回転、45回転というのはレコード再生時の1分間あたりの回転数のこと。33回転のLPを45回転で再生すると1音が通常よりも速く再生される。ちなみにテンポが速くなるだけじゃなくピッチも高くなるなどの変化が起こります)」

■ほー! その発想は凄く面白い!

「でも実際、そういうこと(33回転のレコードを45回転で再生しちゃうこと)って割とあるんだよね(笑)。で、その早回しみたくなったヤツがカッコいいな!って思うことは今までも凄くあったから」

■それこそ90年代にDJが33回転のレゲエのレコードを間違えて45回転で再生しちゃったことからジャングルっていうジャンルが生まれて、そこからドラムンベースに繋がっていったっていう話もあるんだけど、そのアイディアをコンセプトにして生演奏のダンスミュージックを作ったっていうのは面白いね。

「いろいろやっていくうちにダンスミュージックって一定量のBPMを越えると記号的なダンスじゃなくなって、しかもそれが実は凄くJ-POPに近づいていくっていうことがわかって――じゃあ、それをやったら面白いじゃないか!って。家の中でウンコしながら思いついて(笑)」

■ははははははははははは! 確かに考えを巡らせやすい時間ではあるけどさ、うんこしながら思いついたのが“恋”って!(笑)。

「うんこしながら、タンッタンッて手を叩いてリズムを変えていったら、『うぉー、キターッ!!』と思って。で、この速さで行こう!ってなった(笑)。だからね、実はこの曲って、BPMを落としてゆっくりにすると、クラシックなダンス曲になり得るんですよ。スネアとバスドラの関係とかも割とクラシックなダンスミュージックの作りになってるし。でも、それをこのテンポ感でやるっていうのを思いついた時にこれだ!と」

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text by有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.114』