Posted on 2016.09.16 by MUSICA編集部

TK from凛として時雨、傑作アルバム『white noise』完成。
新境地へと踏み込んだ深層を問う

巻き戻したり、練り直す作業を切り捨てた分、
一番温度感があると思いますし、
出したくない自分までを出してしまっている怖さもありました。
作品を作る以上、そういう怖さは持っていたいし、
何よりも温度感が欲しかった

『MUSICA 10月号 Vol.112』P.40より掲載

 

■フルアルバムとしては前作の『Fantastic Magic』が約2年前になるんですけど、この2年間、バンドとしてもソロとしても過去と比べるまでもなく非常にアクティヴですよね。

「意外かもしれないですけど、自分ではあんまりそう感じなくて」

■そうなんですか。凛として時雨はすべてを表さないことにバンドの美徳があるというイメージがだと思うし、現実的にリリースやライヴの間隔は空いているバンドだったと思うんです。でも、今は隙間がほぼない状態でソロとバンド、そしてライヴと音源制作がされていますよね。TKの中で何か変化があったのかなと思っていたんですけど。

「確かにそうなんですけど、時雨も昔からライヴ自体は結構やっていたので、スケジュールとしては常に何かをやっている−−−−生活の中心が『音を出す』ってことはずっと変わってないんです。リリースのタイミングやプロモーションも『出ないほうがカッコいいんで、これは敢えて出ないでいきませんか?』っていう意図はなくて………まぁ、取材は得意じゃないんですけどね(笑)」

■そこは長い間の中で何回も聞いているから承知してますよ。

「はい(笑)。でも、音源も出すべきタイミングで出していたら『3年も出してなかったんだな。そういえばテレビに出たことなかったな』って感じなんですよ。その時、その時の『目の前』を見て走った結果、自然と変化したのかなって思います。だから活動としては凄く健全で。自分の中でフラストレーションが溜まってアウトプットするまでの間隔が凄く短くなったけど、バンドとソロを並行して行っているので出しやすくもなっていますし」

■アウトプットの間隔が短くなったのって、何か具体的な理由があるんですか?

「それぞれの活動で自由なことをやっていると、違う部分の欲求がどんどん溜まっていくんですよね。ソロで自由にやることによって満たされた時『あ、時雨ではこういうことができないかな』っていう対極した欲求が生まれやすくなってて。そういうふうに一方に目を向けている時のほうがもうひとつの欲求が生まれやすかったりするっていうのはあるんですよ。……僕は、結構ひとつのことに入り込み過ぎるほうなんで」

■よくわかります。

「はははははは。そうやって自分が入り込み過ぎたせいで見えていない部分は凄く大きいし、どちらかひとつだけの活動になるとそこから抜け出せずにいることも多かったんですけど、今は前よりもそこから抜け出すタイミングがあるんです。……自分の中が空っぽで、何を生み出していいかわからないっていう音楽に対する空白の感覚は今もあるんですけど、その感覚以上にアウトプットをしたいっていう欲求が強くなったのは大きいかもしれませんね」

■「空っぽ」って言いましたけど、単純な話として、ソングライティングの数が増えていると思うんですよね。これは湯水のごとく曲が出てくる何かしらの理由があるのか。もしくは今話をしてくれたソロとバンドの往復の中でモチヴェーションとコンセプトが生まれやすくなっている感じなのか、どっちなんですか?

「うーん………今、凄くアイディアが湧いているかっていうとそうでもなく、湯水の様に溢れて来たことは今までないですね(笑)。でも、アウトプットの欲求が強いと枯れていたものを導けるし、その欲求で作品は出せるんですよ」

■自分の中にあった空白よりも、生み出したいっていう欲求が今は強いんだね。

「そうですね。だから前よりも引き出す力が強くなりましたし、視点を変えることによっての自分の隙間を見つけるのが上手くできるようになりました。……昔みたいに3年に1枚書いているほうがクオリティが高かったのかって言われれば、そうではないと思いますし、その時に鳴っている音はその瞬間にしかないので」

■本当にその通りだと思う。短いスパンの中で作られた本作(『white noise』)も非常に素晴らしい作品です。

「ありがとうございます」

■ここに来るまでに、『Fantastic Magic』の際のインタヴューを読み返したんですけど、ソロだけじゃなく時雨も含めた全キャリアの中で、僕はあの作品を最高傑作と位置付けていて。……「あぁ、また同じことをTKに言うんだなぁ」と思いつつも、言わせてもらいます。間違いなくこのアルバムは、全キャリアを通しての前作以上に最高傑作です。

「あはははは、何度言われても嬉しいですよ。ありがとうございます」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA10月号 Vol.114』