Posted on 2016.09.17 by MUSICA編集部

plenty、才気煥発のアルバム『life』リリース。
自身の音楽宇宙を拡張する江沼の脳内を解く

今回、「俺は果たして変わったんだろうか?」
みたいなことを考えて作ってたところがあって。
「俺はどこから来てどこへ行くのか」じゃないけど、
そういうことをふと思ったんだよね。
それで過去の歌詞ノートを引っ張り出してきて、
自分を確認する作業から始まったんです

『MUSICA 10月号 Vol.114』P.78より掲載

 

■なんと前作『いのちのかたち』から11ヵ月という短いインターバルでいきなりフルアルバムが届いてしまうという。

「ふふ、事件ですね」

■まぁ事件とまでは言わないけど、でも2月にツアー終わってまだ半年だし、かなり早いペースですよね。これは何が起こったんでしょうか。

「でも、大それた理由はなくて。やっぱり、常にいろんなことがやりたいじゃないですか。俺、やりたいことがいっぱいあるんですよ」

■はい、知ってます。

「ひとりで作ってるわけじゃないから、周りのみんなのスピード感とかもあるんだけど。でも、俺自身は常にやりたいことがあるし、常に曲を作っていて。だから今も、『life』のプロモーションはやってるけど――」

■もしや、もう作ってるの?

「作ってる(笑)」

■クリエイティヴィティの塊だね。

「だから別に、このアルバムも急いで作ろう!みたいなことは全然なかったんだけど。ただ、今回は俺の自宅作業が長かったというか、俺がデモをちゃんと作り込んだ上で、それに沿ってバンドで録るっていう感じだったから。単純に、それによってスピードアップしたんだと思う。もちろん俺がデモを作る時間はかかるんだけど、でも曲自体は結構、もう『いのちのかたち』が完成した直後からずっと作ってたから」

■それこそ、“嘘さえもつけない距離で”という素晴らしいメロディの楽曲が収められてるんですけど、これは1月くらいにデモを聴かせてもらって感動した曲で。その時はまだ弾き語りのデモだったけど。

「そうそう、それも早くからあったし」

■郁弥くんのデモに沿って録ったと話してくれたけど、一太くんが加入して3ピースに戻ってからの2作、ミニアルバム『空から降る一億の星』からアルバム『いのちのかたち』は、3人でスタジオに入ってアレンジしていくっていう方法論を採ってたじゃないですか。でも今回は、またそれ以前のやり方――郁弥くんがトータルのアレンジまで作り込んだ上でバンドでレコーディングするっていうやり方に戻したっていうことだよね? そうしたのは何故だったんですか?

「俺が作るデモの雰囲気からあまり離れないようにしたいっていう話が、メンバー間であって。それは一太からの提案がきっかけだったんだけど。一太が『俺は江沼のデモが好きだ』っと。でも、バンドでアレンジしてくと、その俺のデモの感じがなくなっちゃう。アレンジは変わってもその雰囲気だけはちゃんと抽出したいのに、そこもなくなってしまうのは何故だ!?みたいな会議になって」

■その自分のデモの雰囲気がなくなっていくということに関しては、郁弥くんはどう感じてたの?

「変わってるなとは思ってた。でも俺、そういう意味ではそこに関して無責任だったというか、それを楽しんでたから」

■そうだよね。自分の中だけでは生まれない、バンドで起こる化学反応やそこで生まれるアイディアを楽しんでたよね。

「そうそう。その前の『this』と『r e ( construction )』はひとりで作り込んで自分のデモから離れないように離れないようにって形で作ってて、それを経てやっぱりバンドでやりたいと思って、一太が入って3人でバーッとやって2枚作って。その一太からそういう言葉が出るっていうのもまた面白いなと思うんだけど(笑)。だから今回は、総監督みたいな感じでやりましたね。もちろん相談はしたけど、アレンジはもちろん音作りにしても、基本的に俺がこういうふうにしたいっていうのをガッチリやった感じ。だからレコーディングも、リズム隊はせーので一緒に録ってるけど、俺は一緒に録ってないんですよ。コントロールルームにいてふたりの演奏聴きながら、『ここはこういうふうにしよう』とか『イメージと音が違うからマイク替えまーす』みたいなことをやって」

■要はプロデューサー的なこともやったんだ?

「うん。だから割と全部担った」

■この『life』というアルバムは、私は「plentyの集大成にしてネクストレベル」と言うべきアルバムだと思ってるんです。音楽的な部分では、plentyの出発点であるギターロックを進化&洗練させたものから、ネオソウルや近年のインディR&Bの文脈を組んだ“born tonight”や“誰も知らない”のような新たな試みまでが入っているし、歌詞の面でも、初期の頃からテーマにしてきた「生きていくとはどういうことなのか?」ということに改めて向かい合い、その中にある葛藤も不安も疑念も悲しみも全部引っくるめて、確信や自分自身の生き様を綴っていて。進化も強く感じるんだけど、一方で原点確認のような印象もある作品になっていますよね。

「そうなんですよね。……別に取り戻したいみたいなことじゃないんだけど、今回、『俺は果たして変わったんだろうか?』みたいなことを考えて作ってたところがあって。『俺はどこから来てどこへ行くのか』じゃないけど、そういうことを、ここに来てふと思ったんだよね。だから歌詞も、前回は『愛』っていう、自分が今まで掘り下げたことのないテーマに挑戦しようっていう明確な意図があったりしたんだけど、今回は新しいことに挑むっていうよりも、ちょっと自分の表現を振り返るというか。それこそ、過去の歌詞ノートを引っ張り出してきて思い出すような、自分を確認するような作業から始まったんですよね。……俺、やっぱり『確かめ癖』があるんだよね。保守的なんだよ」

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text by有泉智子

『MUSICA10月号 Vol.114』