Posted on 2016.10.16 by MUSICA編集部

My Hair is Bad、
僕らのロックたる傑作アルバム『woman’s』完成!
その誕生までの軌跡を、椎木知仁の言葉から辿る

 

50年後は同じような歌を歌えないだろうから、今のうちに歌っておきたい。
「まぁ大丈夫っしょ!」とか「やりたいことやろうぜ!」みたいな、
後先考えずに突っ走ることをライヴで歌えるのって今しかないから

『MUSICA 11月号 Vol.115』P.58より掲載

 

(前半略)

■今回は何よりメロディが素晴らしいし、どの曲においてもメロディの強さが凄く出ている作品だと思うんですよね。メロディの宝庫というか、仮にメロディだけでもずっと聴いていられてしまうくらい素晴らしくて。で、さらに、そんなメロディにバンドの音やリズム、椎木くんの声が見事に一体している、その一体感も今までの作品で一番のものになっていて。

「まさにおっしゃる通りで、そこが俺らの強みだと思っています。さっきの話と似てるんですけど、やっぱり『どんなバンドやってるの?』って訊かれたら、これを渡せばきっとわかってくれるアルバムになったと思います。20代前半の集大成でもあるし、My Hair is Badっていうバンドの名刺として、先輩達にもちゃんと渡せるアルバムというか。俺はメロも含め、歌詞も含め、アレンジも含め、曲のよさだと思ってるんですよ。だから、今回新しく録った10曲も全部いいと思うんですけど――俺、生意気ながら作品としてのバランス感を凄く大事にしているんですよね。逆に、そのバランスがあまり上手く取れなかったのが『時代をあつめて』なんですけど」

■椎木くんの音楽観の中で、メロディってどういう役割を果たしているものなんですか?

「僕はずっと、自分のことを歌詞に重きを置いている人間だと思っていたので、メロディってどういうものかわからなかったんですよね。で、社長に『今回のアルバムはキラーチューンを頼むね』って言われた時に、キラーチューンって何だろう?って自分なりに考えて。その答えが『メロのよさ』だったんですよ。自分の中ではあまり意識していないものだったんですけど、このアルバムを作って、メロディは歌詞を何倍も届かせる役割があることがわかったんです。ポエトリーだけじゃ伝え切れない部分もメロのおかげで届いたりするんですよね」

■特に1曲目の“告白”は言葉とメロがお互いを呼び合っているようなハモリとリズムですもんね。

「伝わってよかった、本当にそうなんすよ。これ作るの大変だった………今までで一番書くのが大変だったと思います」

■ちなみに、いつもはどうやって曲を作っていくんですか?

「いつもはコード進行を決めて、メロをなんとなく決めて曲を作っていきますね。で、歌詞を最後に書くんですけど、今回はコードよりもメロディ先行の曲が多くて。今まで自分の中であったキラーチューンは“ドラマみたいだ”だったり“優しさの行方”だったんですけど、今思い返すとどっちもメロから作ってたんですよね。シャワー浴びながら、ふと思いついたメロにコードを乗せていったんです。そしたら、意外とハマった曲が多かくて。いろんなバンドの曲を聴いてても思うんですけど、絶対にハッとする曲はメロがいいんですよ。今さら何気づいてんだよ!って思われるかもしれないですけど(笑)」

■はははははははははは。

「もちろんメロが大事なのはわかっているつもりだったんですけど、結果的にそういうところが特に表れたアルバムになりましたね」

■椎木くんの音楽って、昔から好きでブログを書いていたり、歌詞を字面としても美しいものにしていったところから始まっていったじゃないですか。そこからメロディへと意識が傾いてから、音楽を作る上で何か今までとは違う感覚みたいなものは生まれました? 

「うーん……今回は結構淡白に作っていたので、感情を乗せていくことをそこまで考えていなかったんですよね。むしろ感覚的にこっちのほうがいいなって思ったメロをそのまま書いていて。単純にものづくりの感覚に似ているというか」

■逆に、今までは「作る」というより「吐き出す」という感覚だった、と。

「はい。バンドで鳴らしている時にメロを歌って、気合いが入っていったら叫んでみたりしていたので(笑)。以前はそれがいいと思ってやっていたし、今もそれはそれでいいと思うんですけど。ひとつ新しいやり方を覚えたっていう感じに近いですかね」

■ただ、実際にでき上がった楽曲群からは淡白な感じは受けないんですよ。それはきっと、それだけ自分の中の感覚や感情を音楽的に昇華することができるようになったからなんだと思うんです。今のMy Hair is Badの凄さは、音楽的な表現力とこのバンドならではの感情だったりエモさの爆発がきっちり結びついていることなんじゃないかと思うんです。

「そう言ってくれると凄く嬉しいです」

■ちなみに、ご自分のメロディの根底にある原風景ってなんなんですか?

「…………でも、やっぱりメロディック(・パンク)に影響を受けてきたんだと思います。近場で言ったら04 Limited Sazabysもメロがいいし。最近、ようやく『このメロディは気持ちいい』とか、『このメロディは気持ち悪い』とかがちょっとずつわかってきたんですよね。たとえば、あるメロディでリズムを刻んでみても、刻まないほうがいいなとか。ELLEGARDENとかからもそういうことは学んできたけど」

■繰り返しになっちゃうけど、このアルバムの素晴らしさのひとつとして、メロディメイカーとしての椎木知仁の覚醒があると思うんですよ。だからこそ、椎木くんにとってメロディっていうのはどんなものなのか?を知りたいなと思うんです。

「………メロに歌詞が乗ったらどうとか、ギターのアルペジオが乗ったら情景が浮かぶのはあるんですけど、メロだけだったらちょっと難しいな……もっと淡白なものだと考えているというか……ただの音符の集まりくらいしか考えていないというか。普通に『好きだ』って言うより、メロに乗って『好きだ』って言ったほうがグッとくるし」

■ということは、やっぱりメロディというのは自分の想いを伝えるための最高の手段みたいなものなんだ。

「ああ、そんな感じかもしれないです」

■今回は特に歌詞がわかりやすくなってると思うんですよ。それはただ単に平易という意味ではなくて、伝わりやすい言葉と情景が浮かびやすい言葉になってるって意味なんですけど。

「凄い嬉しい。生意気な話なんですけど、『語尾はこっちのほうがいい』とか、『ここの部分は何回も繰り返したほうがいい』とか、そういう今まで自分の中で培ってきた部分をちゃんと出せたと思います。たとえば、強い単語と耳に引っかからない単語の量のバランスを自分の中のルールをちゃんと守って書いたんですよ。赤裸々のままいこうとしないというか、強い単語の量とタイミングとかバランスを考えるっていうか……誰から見ても『感心しちゃうなぁ』と思われるようなものを書こうと気をつけてましたね。もちろん今までもやってきたことだったし、“戦争を知らない大人たち”もそうなんですけど――たとえば、“真赤”も最初だけしか<ブラジャー>って言わないから、全体のバランスを考えて作ってたし。だから、今回は自分が今までやってきたことの集大成になっている気がしますね」

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text by矢島大地

『MUSICA11月号 Vol.115』