Posted on 2016.10.16 by MUSICA編集部

サカナクション、シングル『多分、風。』が遂に完成。
今確かに吹き始めた彼らの新たな風を捉える

この曲を作って凄く変わったのは、音や歌でデザインしようとしてること。
今までは自分の塊がどうしたら音楽になるのかって気持ちだったけど、
音でデザインすると曲がどう聴こえるのか?を考えるようになりました

『MUSICA 11月号 Vol.115』P.66より掲載

 

■おめでとうございます。

「ありがとうございます(笑)。ようやくって感じですね。『サカナクション史上、最もポップな曲を作りたい!』みたいな気持ちがあったけど、そこにどう自分達らしさみたいなものをバランス取っていくかっていう。そのいつも通りの悩みがバンドの活動以外、NFであったり、裾野が広がっていった部分も影響してきて、より難易度が上がった制作になったかなぁと思います」

■今日は楽曲の話を丁寧に紐解いていきたいと思うんですけど。まず、自分が初めてこのタイアップの話を聞いたのは去年の灼熱の夏の釣り連載の時で。つまりは去年の夏前ぐらいからこういう話があったんだよね。

「そうですね」

■その時は具体的にはどういう曲にしようと思っていたんですか?

「結構楽観的に考えていて。カルチャー感っていうところをひとつテーマにおいて……」

■あ、そこは史上最強ポップじゃなかったんだ。

「テクノポップだったんですよ。テクノポップだけど、もうちょっと違うカルチャー感? 90年代の雰囲気をしっかり込めた日本の歌謡曲と、当時のポップミュージック……」

■当時からこの仕事をしていた感覚で言うと、それをやれていたのってピチカート・ファイヴと電気グルーヴだったと思うんですけど。

「いや、もっと古いかも。CCBとか“ハイスクールララバイ”(イモ欽トリオ)とか、中山美穂とか、荻野目洋子とか。そっちのほうの歌謡曲と……まぁ80年代だね。80年代の感じかなぁ。あとはグーニーズ(1985年のアメリカ映画)の主題歌って誰でしたっけ?」

■シンディ・ローパー。

「そうだ! シンディ・ローパーとか、あの辺の感覚を、現代の日本の歌謡曲と上手くミックスした今のサウンドを作りたいなっていう」

■今例に出てきたのって全部、底抜けに明るい曲だよね。

「“新宝島”が『バクマン。』で成功して、ミュージックビデオも含めてあの曲でサカナクションを知ったっていう人が、長いスパンであったから。“グッドバイ”であったり、“さよならはエモーション”であったり、リリースはしてたけど、内面に向かって作っていた歌が続いていた分、“新宝島”からグッと若者に知られたっていう気持ちがあったんですよね。そこの層をちゃんとリカバリーしながら、歴代のファンに対して、『外に向かってアピールしていながら楽曲の中で面白さがある』っていうバランスを取るっていうのが、今回のメインテーマで。“新宝島”までは、次のアルバムのテーマになるであろう『東京』とか『郷愁』っていうテーマの根底を作るまでの楽曲だったけど、“新宝島”以降はそれを補強していく楽曲になるし、もうちょっとそれを客観的に見てる楽曲にしていかなきゃいけないなっていう気持ちだったんですよ。特に今回のシングルは、一番客観視していないと遊びも出ないし、いい意味で浮ついた感じにならないだろうなと思って。そこをどう補強しようかなってうのが、凄く難しかったところはありましたね」

■それは過去の例で“セントレイ”でスイッチを入れた時とか、“アイデンティティ”でお祭り騒ぎだ!って、打ち上げ花火を上げた時と同じくらい、自分の中でスイッチを入れようと思って作った曲なの?

「あの時ほどエモーショナルではなかったけど。もうある種、達観しているところがあるから。変な意味ではないけど、自分達の中では、『貫禄』みたいなものがあって。それをどう表現するか?っていう部分が強かったかなって思います。今回は時間もかかったし、いろいろやって、気持ちの揺れがそのままアレンジに反映するのは当たり前で。ここまでやったらダメじゃん、なんかしっくりこないから次トライしよう、次トライしようって、5パターンぐらいのアレンジがあって。でも結果的に、一番最初のパターンに戻って、今までやってきたアレンジのものとガッチャンコしたりして、最終的に落ち着いたのがこの仕上がったアレンジだったんですけど」

■シンプルに問いますが、ここまで時間がかかったのは。終わってみると何をもってしてだったんですか?

「(草刈)愛美ちゃんが完全に子育てで抜けて、アレンジにほぼ入らず、コアな部分に入らず進めていったっていうのが、今回初めてといえば初めてだから。どうなるか?って予想はしてたけど、実際に始めてみると、新しいシステムの中でやっていくっていうのは結構大変で。メンバーも人間だから、今までと違う新しい人間関係を築きながらやっていかなきゃいけなくて。甘く見てたというわけじゃないけど、思ったより難しかったなっていうところがある。あとは、選ぶ要素が、今までと違うジャンル感覚のセレクトになっていくっていうか。今まではこうだったけど、これはやったしな、もっと新しいことやりたいな、新しいことってどういうことだろうな、みたいな。で、やってみて、新しいけどこれは伝わらないだろうな、みたいな。その繰り返しというか。その現象が起きるとは思ってなかった」

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text by鹿野 淳

『MUSICA11月号 Vol.115』