Posted on 2016.11.18 by MUSICA編集部

OGRE YOU ASSHOLE、待望の新作『ハンドルを放す前に』。
孤高のロックバンドが描いた新境地に迫る

何か起こる寸前って、本来は感情が一番昂ってる
状態だと思うんですよ。ほんとはそこがピークなんです。
で、そのピークをちゃんと対象化して表現するっていうか。
………俺、感情とかはどうでもいいんですよね

『MUSICA 12月号 Vol.116』P.84より掲載

 

■『homely』、『100年後』、『ペーパークラフト』の3部作以前と以降でOGREの音楽的なアイデンティティはガラリと変わったわけですけど、それを経て今回はファーストアルバム以来となるセルフプロデュースということで。

出戸学(G&Vo)「まぁでも、ファーストは『CD作る?』『あ、作りたいです』みたいな感じでスタジオ連れてかれて、ほんとに何が何だかわからない状態でやってたから。しかも連れて行かれた先が小室哲哉のスタジオだったんで」

■え、マジで? そうだったんだ?

出戸「そうなんですよ(笑)。だから、僕らとしてはロックをやってるつもりなのに、録ってみたら飼い慣らされた感じのポップスの音色になっちゃって。その頃はUSインディみたいな音が好きだったんで、なんでこうなるんだろう?と思って。エンジニアさんもポップスの人だったから今考えれば当然なんですけど、当時はなんでそんな音になってるのかワケがわからなくて(笑)。そういう状態だったから、言ってみたら今回が初めてのセルフプロデュース・アルバムなんです」

■凄い面白い話をありがとう(笑)。では初プロデュースにあたり、自分達ではどういうイメージでこのアルバムに向かってきたんですか。

出戸「その3部作はそれぞれ最初に割とコンセプトをはっきり立てて、そこに向かって行く作り方をやってたんですけど、今回は逆にコンセプトは立てず、1曲1曲好きに作ろうっていうことになって。下手したら完全にバラバラで、アルバム1枚としてまとまらなくてもいいやぐらいの気持ちで、とりあえず自分がいいと思う質感のものを並べていこうっていうところから始まったんですよね。で、俺と馬渕がそれぞれ作って」

■ふたりも各々勝手に作っていく感じ?

馬渕啓(G)「勝手に。ほんとバラバラですね」

出戸「特に言葉もなく、好きに作ったよね。で、できた順に音を渡し合っていって」

■なんでそういう作り方をしたかったの?

出戸「コンセプトを立ててやるってやり方をもう一回するよりも、なんか違った感じでやりたかったっていうのが一番ですかね」

■逆に言うと、3部作をやりたかったのはどうしてだったの? そもそもこのバンドって、その「なんか違った感じ」を常に開拓していきたい気持ちがあるバンドだと思うんだけど。

出戸「3部作の最初の『homely』がそれまでの作品からあまりにも変わり過ぎて、そこでまたすぐ次で変わったら意味わかんないなと思って」

馬渕「1枚だけだと、ただ単に『やってみました』みたいな感じになっちゃうから、説得力ないじゃないですか。そういうバンドって多いと思うんですけど、そうはなりたくないっていうのはあって」

出戸「うん。あと、自分達でも捉え切れてない部分もあったしね。そこはもう2枚ぐらいやらないと周りもわかんないだろうし、自分達の中にももっと取り入れたい要素があったから、それをするためには3枚作る必要があったって感じですね」

■ということは、今回そのやり方を変えたのは、3部作を作ってる間にライヴの形態も変わったこと含め、自分達の新しい音楽の肉体みたいなものをちゃんとビルドアップできたっていう実感があったからこそでもあるんだ?

出戸「そうですね。3部作で学んだことは結構あったんで、それを踏まえてまた新たにっていう。でも、今回はほんとに全部自分達で決めて作った、今までよりも自分に近いものだから。だから今まで以上に評判が気になります(笑)。みんなに『どうだった?』とか訊きたくなる」

■いや、ほんとに素晴らしいよ。

馬渕「ああよかった」

■OGREの作品は毎回素晴らしいけど、『homely』から『ペーパークラフト』まででやってきたものが、ちゃんと血肉化されて、オリジナルな形で昇華されたなってことが凄く感じられるアルバムだと思う。オリジナリティっていう意味では、一番強く出てるアルバムなんじゃないかと思います。

出戸「それは嬉しいですね」

馬渕「正直、やる前は不安な部分もありましたからね。石原さんがいなくなって、やっぱOGREはプロデューサーの力だったんだって言われるのも嫌だったから。かなり緊張はしてたよね」

■コンセプトに縛られないで曲を作っていこうってなった時に、それぞれどんなことを思いながら曲を作っていったの?

出戸「俺は完全に自分の好きな質感とか、そういうのだけですね。言葉とかじゃなくて、手触りとか。でも、最初はちょっと身動きができない感じがあった。コンセプトがあるってことは拠りどころがあるってことだから、迷った時にそれを基本に考えると発想もしやすかったりするんですけど、今回はそれがないから逆に難しくて。やっぱり発想って、何か制限があったほうがどんどん出てくるんですよね」

■確かにそうだよね。完全な更地に立ってフリーハンドでやるってなると、逆に難しいよね。

出戸「そうそう。でも曲数が増えてくると、なんとなく後は何が必要かっていうのが見えてきて、制限が出てくるから。だから後半はどんどん出てきたんですけど、エンジンかかるの遅かったですね。馬渕のほうが先にいろんな曲持ってきて」

馬渕「俺は割といつもそんな感じで作ってるからね。いいアイディアが浮かんだら、それを試してみるっていう感じだから。僕はメロディは作ってなくて、最後に出戸がメロディを乗せるんですけど、出戸が歌うであろうということを想定してどんな感じがいいかなって考えながらやってて――」

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text by有泉智子

『MUSICA12月号 Vol.116』