Posted on 2017.01.15 by MUSICA編集部

THE ORAL CIGARETTES、
渾身の新作『UNOFFICIAL』完成!
そのすべてを全曲解説で徹底的に紐解く

意志を反映できない行為に可処分時間を費やして、
最終的には外的なレールに乗っけられてるだけみたいな人って、
僕からすると本当になんのために生きてるのかわからない

『MUSICA 2月号 Vol.118』P.40より掲載

 

■前作『FIXION』から約1年、バンドとしては大切な3枚目のフルアルバム。今日はこれを読んでいる人達に、このアルバムの魅力をよりわかってもらいたくて、『UNOFFICIAL』の全曲解説をさせていただきます。既発曲である“5150”、“DIP-BAP”は前回、前々回のインタヴューでじっくりと掘り下げているので、僕のレヴューでまとめさせてもらい、インタヴューとしては新録の8曲を徹底的に掘り下げましょう。

「はい、よろしくお願いします!」

■まず僕は今作、『UNOFFICIAL』と書いて『ロック大河絵巻』と読みます。

「おぉ、その心は?」

■非常に壮大かつ包容力のあるロックアルバムだと思いました。

「なるほど! 最初っから鹿野さんらしい(笑)。嬉しいです、ありがとうございます。『FIXION』を出した後に次はどんなアルバムを作ろうかなっていうのは考えていて。でも、ホンマに想像がつかなかったんですね。“DIP-BAP”は自分の中でも挑戦で。……周りの人達は受け入れてくれるのかなっていう不安もあったし。でも、思っていた以上の反応を得ることができて」

■それは具体的にはどんな手応えだったの?

「『あ、これがオーラルだよね』っていうより『オーラル、次はどんな音楽聴かせてくれるんやろうな』っていうのを期待してくれてるのかもしれへんなって思って。でも、だからこそ『5150』では、その期待をどうやって裏切ればいいのかっていうのがホンマにしんどくて」

■『DIP-BAP』で新しいことに挑戦したからこそ、さらに新しいことをやらないといけないし、その上で人を楽しませたいし、その中に裏切りも入れないといけない。そういういろんなことが頭の中をノイジーに駆け巡ったってことだよね?

「そうですね……自分達が何を提示すべきなのかっていうのも全然見えてこなかったし。だから凄く苦しくて……でも今回のアルバムの糸口が見えたのは『DIP-BAP』から『5150』を作るまでの間だったんです。『5150』にたどり着くまでに凄くいろんなことを考えたからこそ、『5150』を出した時にはアルバムはこういうものを作るべきだっていうことは明確に見えていて。……『5150』でやったことって、今までやってきてもよかったけど、避けてきた部分でもあって。(歌詞の中で)自分をさらけ出して、自分のことを書くっていうのをストレートに挑戦した楽曲だったし。プラス、『規模感』っていうのを凄く意識した曲で。今回は聴いてくれてる人達を意識するより、自分達が表現すべきことや立つべき場所を意識するほうが大事だなって感じることができて。だからこそバラードも入れたりして、それが俺らの中では正解やったんです」

■そういう作品が『UNOFFICIAL』ってタイトルになったのは何故なの?

「ステージに立ってる俺が『オフィシャル』だとしたら、それ以外の部分————家にいる時、恋愛している時、そういう『アンオフィシャル』なところから生まれた歌詞が多かったってところからタイトル候補に挙げていたんです。でも、それとは別に『DINING』っていうタイトル案もあって。アルバムを作る時にもう一度『俺達ってこのアルバムで何を言いたいんだろう』っていうのを考えて。そうしたら、言い回しは変わってるけど昔から伝えたいこと−−−−自分の目や耳で感じて判断をして、良いと思ったらついて来て欲しいっていうスタンスはブレてないなって。それを上手くタイトルに落とし込めないかなって考えた時に、食事をする時ってそうなのかもしれないなぁって。……元々、食欲って凄くシンプルな欲求だったと思うけど、今は食事の時には右手にナイフ、左手にフォークってマナーが決まってて。食欲を満たすための行為なのにルールがあるのもおかしなことだよなって感じてて」

■しかも最近は食べログの点数が。店を探す座標軸にすっかりなっている。

「そうそう(笑)。最近はそうやって本来の意味とは違うものが積み重なって文化ってものが生まれて、それが俺には『文化』ってものが歪んでいっているように見えたんです。だから、その危機感を提示しないといけないなって感じて」

■ジャケットのアートワークにもそういう想いが表現されているよね? 真っ白な皿の上に、初回特典は真っ赤な脳みそが、通常盤には真っ赤な心臓が乗っかっている。

「そう、実際ギリギリまで『DINING』で進んでたんで、そういうデザインで進行していて(笑)。でも『DINING』って言葉より『UNOFFICIAL』って言葉のほうが広く説明できるし、伝えたかったことは変わらないんで、これにしたんです。音楽に限らずいろんなことをもっと自分の心の深い部分、UNOFFICIAL(私的)な部分で判断して欲しいなって」

 

(中略)

 

1. リコリス

 

■まずは1曲目“リコリス”。この“リコリス”って言葉にはいろんな意味があるよね。

「元々は“彼岸花”ってタイトルだったんですけど、“彼岸花”だと意味が特定されるし、世界が縮こまっちゃう気がしたんです。だから、総称している“リコリス”って言葉のほうがいいかなって思って」

■1曲目から影のある言葉をタイトルに選んだのはどういう意味合いがあるんですか?

「この曲を作った時、サウンドの広がり的にも絶対にアルバムのリード曲になるから、この曲の歌詞にアルバムで伝えたかったメッセージをガツンと乗せようって思って。人を彼岸花に例えて、暗いところから広がっていく世界観を作ろうと思って書きましたね」

■拓也の中で何か世の中で起こってるとか、何かがあった上でこういう詞を書いたんですか?

「………正直に話をすると、去年にツアーを回っていた時にSNSってものがしんどくなった時期があって。自分が言ったことに対して『違う』っていう人がたくさんいたんです。それは当然のことなんだけど、最初は『それでいい』って言ってた人達が、その大きな流れに簡単に便乗していく姿がハッキリ見えて。だんだんと言いたいことが言えなくなる人が増えていってて。そんなふうに『周りがこう言ってるから、これは言っちゃいけないよね』っていうのって、俺だけじゃなく、いろんな人にも言えることなのかなって。それって、意思を持ってない『死人(『しびと』と読みます)』みたいだなって思ったし、『意志を持ってないなら、いっそのこともっと振り切ったほうがいいんじゃないって俺は言うよ?ステージからでも。ムカつくけどさ』ってMCで言ってたんですよ。……ずっと『自分の目で見て、思ったことを言え』って言ってるくせに、自分がそういう立場になった時に凄く縮こまってしまっているっていうのが凄く引っかかってて、敢えて自分にも向けてステージの上で言ったんです。その自分が言ってることを体現していくっていう想いを、このリード曲に綴ろうと思いました。『彼岸花』には『死人』って花言葉もあるし」

■サビから始まるのに相応しい素晴らしいメロディですけど、そもそも作曲ってどうやってるの?

「曲によってまちまちですけど、“リコリス”に関しては部屋でアコギを鳴らしながら1番まで一気に作りました。リフもある程度は作っちゃって、形になったものをスタジオに持って行って『みんなで久しぶりにこの感じやってみいひん?』って言って作りましたね。『FIXION』ではあんまり変拍子を使わないようにしていたんで。この曲はホンマにありのままに作ってきたから、そのまんまやりたいって話をして――」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA2月号 Vol.118』