Posted on 2017.08.17 by MUSICA編集部

星野源、待望の新作にして敬愛する往年のソウルを
アップデートするシングル『Family Song』が到着!
彼の現在地をディープに解き明かす保存版大特集!

不安な要素は常にあるっていうのが僕達の生活であり、人生だなと思う。
幸せなだけの人生っていうのはないんだって、
ちゃんと日常を生きてる人はみんなわかってる。
だからこそ幸せを祈るんだよっていう

MUSICA 9月号 Vol.125P.12より掲載

 

■先日はツアー「Continues」を観せてもらって、本当に素晴らしいし、しかもとても意義深いライヴになっていて凄く感動したんですけど。

「本番後にそう言ってもらって嬉しかったです。遠くまで来てくれてありがとう」

■こちらこそ。で、インタヴューは今年の1月、「YELLOW PACIFIC」の公演後に行って以来になります。今回の『Family Song』は昨年の『恋』以来の新作になるわけですが、作品全体を通してとてもソウル色が強いシングルになったなと感じました。今日はじっくりお話を伺っていきたいなと楽しみにしてきました。

「よろしくお願いします!」

■まず、特に表題曲である“Family Song”はめちゃくちゃ名曲だなと思ってるんですけど、これまた素晴らしい曲である“肌”も含め、今回は『SUN』以降に放ってきたリード曲とは趣きがかなり違っていて。星野さんの中には、それこそ“桜の森”くらいからずっと、「踊る」っていうことと「日本語のポップス」を両立させるっていうテーマがあったと思うんですけど、今回はブラックフィーリングのリズムを意識しつつも、ここ最近の中では最も歌を聴かせることに重点を置いた作品になったなと感じたんです。ご自分ではどんな気持ちで制作に取り掛かったんですか?

「この感じは『YELLOW DANCER』の頃から凄くやりたかったことなんです。でも、『YELLOW DANCER』の時はできなかったんですよね。それは時間的に詰められなかったっていうこともあったんだけど、それ以上に技術だったり、自分のポテンシャルも含めてまだやれなくて。で、次のシングルの『恋』の時には、どちらかというとイエローミュージックの感覚をもっと肌で感じてもらうほうに重点を置いていたこともあって、“恋”は『YELLOW DANCER』でやった『自分の好きなブラックミュージックのエッセンスを、自分のフィルターで昇華する』っていうところをあんまり通ってなかったんですよ。カップリングはそこを通ってるんだけど。なので、そこをもう一度やりたいなという想いがありました。その中で今回のドラマのお話があったんだけど、『アップテンポではないものでお願いします』って言われたので、『よし、これは来た!』と思って(笑)。ちょうど自分がやりたいことがやれそうだなって思ったんです」

■そのやりたいことっていうのは、具体的に言うと?

「バラードではないんだけどメロディアスで、だけどしっかりビートとグルーヴがあるミドルテンポの曲。音楽が詳しくない人が聴くとメロディアスなJ-POPに聴こえるんだけど、音楽に詳しい人が聴くとニヤニヤしちゃう、みたいな。だから歌に重点を置いてる気持ちはそんなになくて、どちらかというと“Family Song”も“肌”も、リズムを聴いて欲しいっていう気持ち。リズムに凄くこだわって作ったという感じですかね」

■おーっと、これはもしや、いきなり推論を外してしまいました?(笑)。

「はははははは。でも、僕のやりたいこのリズムでイエローミュージックと名乗るためには、歌はしっかりメロディアスじゃないといけないよなっていう想いがあって。だからそこは意識しました。ミドルテンポの曲をやろうとする時に、日本のブラックミュージック・テイストの音楽の傾向としてメロディアスじゃなくなっていくところがあるなと思ってて。遅めの曲で海外のニュアンスを追求しようとすると、どうしても歌がメロディアスでなくなっていくものが多いなと思うんだけど、そうじゃないものをちゃんと作っていかないと自分のフィルターを通ったことにならないなと思うから。もしかしたら、それによって歌に重きを置いたように聴こえてるのかもしれないですね」

■ということはつまり、ご自分としては、今回はアップテンポではない、ミドルテンポの楽曲でブラックミュージックを通過したイエローミュージックというものを目指した、と。要は“SUN”や“恋”、あるいは“Week End”とはまた別のアプローチからその方向性を追求したという意識ですか?

「そうです。ただ、ひとつの見方としては別のアプローチなんだけど、一番大きいのは『テレビからこれが流れてきたら、めちゃくちゃワクワクするな!』っていうのは全部に共通してて。たとえば“SUN”だったらあの頭のアナログシンセのビーッて音も、あとイントロのギターのカッティングとかも、これがテレビから流れてきたら楽しいだろうなっていうのがあったし。“恋”もそうだった。テレビからこのテンポで二胡の音が流れてきたらヤバくない?みたいな(笑)。で、この“Family Song”も、テレビでこのイントロ流れてきたらヤバいよね?っていう気持ちで作りました。現代の日本にこの音がなったら面白い、そこに自分のモチベーションとか楽しみがある、みたいなところは共通してましたね」

■“Family Song”はイントロが鳴った瞬間に、もうモータウンというかマーヴィン・ゲイというか、60年代から70年代のモータウン~ニューソウルな感覚がバリバリに響いてきて。でもちゃんとモダン、今、みたいな。あのイントロ鳴った瞬間のインパクトはもの凄いよね。

「おー、それはよかった!(パチパチパチパチ)。そう感じてもらえたのは凄く嬉しい! この感じを出すのってすごく難しいだろうなと思ってて。なんでかっていうと、その感じって当時の録音環境とかに左右されていると、みんな思ってるんですよ。特に今あの当時の感じを出そうとした時にそうなりがちというか」

■あれをやるにはあのヴィンテージサウンドを使えばいい、みたいな?

「そう。だからヴィンテージ・エフェクトを使ったり、あるいは24(拍)でウッドブロックみたいな音がコッて鳴ってるみたいなことを取り入れたり、そういう特徴を真似することで表現しようとしてしまうんだけど、そうじゃない、そういう記号的なことじゃない形であの時代のあの音楽の感じを表現できないかなと前から思っていて。たとえば“Week End”っていう曲だったら、ディスコがやりたいんだけど、でもヴォコーダーは入れない!とかもそうだったし。そういう表層的なニュアンスを真似したいわけではなく、聴いた時のあのワクワクする感じ、パッと音が鳴った時にワーッと高揚する、その根本的な感じを表現したいんです!っていうことをちゃんとやりたかった。でもそれはきっと簡単な道のりじゃないだろうなあと」

■スタイルを真似したいわけじゃない、あの音像から呼び覚まされるこのフィーリングを鳴らしたいんだっていうことだよね。

「そうそうそう。それを見つけるには時間がかかるだろうなと思ってたから、『YELLOW DANCER』の時はできなかったんですよ。まぁ今回もツアー中だったし時間はなかったんだけど(笑)」

■ですよね。というか、むしろ今回のほうが時間がなかったのでは(笑)。

「うん、凄くなかった(笑)。どれくらい時間がなかったかというと、プリプロ(本番のレコーディング前にバンドなどで合わせ、アレンジを詰めたりしていく作業)の日も取れなくて、いきなり録音だったんです(笑)」

■え! この曲をそのやり方で作ったの!?

「そう(笑)。下地と言われるドラム、ベース、ギター、ピアノのみんなに来てもらって、集まったその日に本番の録音をしなくちゃならないっていう。本当だったらちゃんとプリプロ期間を設けてリハーサルもしたかったんですけど、そういう状況だったので、アレンジして演奏して録音したものをその場で聴いて確認して、さらに別のアイディアをみんなに伝えて、それでまた録音して、また聴いて確認して……っていうのをずっと繰り返しながら、ちょっとずつちょっとずつニュアンスを追究していくっていうやり方をしました。そうやって『どうやったら記号的じゃない形であの感じが出るのか?』って、朝までみんなで探究して――」

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text by有泉智子

『MUSICA9月号 Vol.125』