Posted on 2017.08.17 by MUSICA編集部

原点にして根幹にある切迫感とユーモアを、
新たな音像に同居させたシングル『DIE meets HARD』。
凛として時雨の現在を3人取材で解き明かす!

聴いてくれる人には、自分が作ってる音楽は
世界の末端にあるように聴こえるかもしれないけど、
僕は一貫して世界の中心で鳴ってるものとして音楽を作ってます(TK)

MUSICA 9月号 Vol.125P.46より掲載

 

■リリースが2年ぶりになりました。空きましたね。

TKVoG)「そっか、2年ぶりでしたっけ」

■はい。それぞれのソロ活動があったのは承知していますが、やはり久しぶりだなぁとは思います。その中で、今回このシングルを作ったのはタイアップきっかけだったのか、そうじゃないのかっていう辺りから教えてもらえますか。

TK「リリースは空きましたけど、元々ずっと時雨で長い期間曲作りをしていて、曲は何曲もあるんです。その中で何かしらの作品と共にコラボレートできるチャンスがあればっていうところで常にリリースを狙ってはいたんですよね。で、今回たまたまいいお話をいただいたので、偶然このタイミングでシングルが出ることになったっていう、そういう感じで」

■それは『es or s』を出してから、方向の転換とかいろんなことがソングライティングの中にもあって、だから割と時間がかかったっていう感覚に近いのか、それともそういうことも無自覚な感じですか?

TK「凛として時雨に関しては、割ともう無自覚にやってることが多いですね。3人で何を作るかっていうところに集約されてしまっているので、『今3人の音を作るとしたらどんな音になるのか』っていうところを自分の中で繰り返し考えて、出てきたものをスタジオで録るっていう感じなんです、今も。だから前作に対してどうとか、今自分のモードが変わってしまったからどうとかっていうのもあんまり関係ないですし、自分のソロプロジェクトで感じたものとも時雨はまた別っていうところがあるので。ちょっと自分の中では、ある種、違う人が曲を作ってるような感じはありますね」

■前作はベルリンでの、初めての海外レコーディングだったじゃないですか。この作品はまた違うやり方をしてるんですか?

TK「そうですね。ずっと日本で…………残念ながら(笑)」

■前のインタヴューの時に、マネージャーの顔をチラチラ見ながら「できることならずっとベルリンで作りたいんですよね」って言ってたもんね。

TK「実はもう1回くらいはいいよって言われてるんです(笑)。隙あらば行こうとは思ってるんですけど、ずっとレコーディングしているので、この感じでベルリンへ行くともう日本に帰ってこれない感じになるので(笑)」

■ははは。表題曲の“DIE meets HARD”はタイトルからしても歌詞の内容からしても、ドラマ『下北沢ダイハード』主題歌というタイアップありきで作ったように思うんですが、この創作の原点から話をお願いします。

TK「元々ある程度デモは録り溜めてはいたんですけど、でもお話をいただいた時に、元々作ってあった曲で決まるというよりは、どういう作品にしたいかっていうお話を聞いてから作り出すことのほうがウチの場合多くて。で、ドラマの関監督は今までの時雨の活動だったり音楽を好きでいてくれてた方なんですけど、リリースのスパンが開いた作品ということもあって、関さんからは今までとはちょっと違う時雨を出して欲しいっていうオファーがあって。僕らもこういった遅めのテンポの曲ってそんなに出してこなかったし、そういうリクエストに対して自分達をどこまで作品に寄せていけるかっていうところで作ってみたんですよね。だからこの曲に関しては完全にゼロから作り始めた感じでしたね」

■凛として時雨の中での凛として時雨的じゃないものって言われて、その言語ってそもそも成立するものなんですか?

TK「僕なんかが一番それがわからないタイプじゃないですか?(笑)。でも今までにないものっていうところで、少しわかりやすいものというか……ロック感よりもディスコを思わせるグルーヴと印象的なギターのフレーズが欲しいとのことでいろいろBPMを試しながら、ちょっと重めの四つ打ちでやってみて。そういった切り口から進んでいくと、また違った観点から自分達の音を作れたんですよね」

■それを聴いた時に345さんはどういうふうに思いましたか?

345VoB)「カッコいいなと思いました。全貌を聴く前にこんな感じのものを作ろうと思ってる、みたいな話もちょっとはしてくれるので、こうなったかあ、カッコいいなって思いました」

■ピエールは?

ピエール中野(Dr)「まず、ドラム、こんなシンプルで大丈夫かな?って」

TK「不安だった?(笑)」

ピエール「うん。でも実際に曲に仕上がったらがっちりカッコよかったんで、やっぱすげぇなって思いました。あと、『ピエールフェス 2017』っていう自分のイベントの時に初めてDJでプレイしたんですけど、その時に“DISCO FLIGHT”以来初めてこんなにDJ映えする曲ができたぞって思って。凄い嬉しかったですね」

■まさにそういう曲ですよね。さらにこの曲に対して思ったのは、重く、遅く、そして摩擦が多い曲っていう。言ってみれば凛として時雨へのファースト・インスピレーションで感じた感覚みたいなものを覚えたんですね。だからこれは新しいモードとしての原点回帰的なものなのか、もしくは全然違うのか、どういうものなのかなって思ったんです。

TK「明確に原点回帰っていうモードではないんですけど、やっぱりタイアップではいかにその作品と自分達が融合するかっていうところを考えて、それこそ言葉(歌詞)も寄せていくんです。まずドラマで使用されるのが60秒っていう尺だったんですけど、僕らはその尺で作品を作ったことがなかったんですよ。これまではテレビとかでも1分半っていう尺が多くて、1分半だと割とある程度の曲の全貌を聴かせることができるんですけど、60秒で、しかもあのテンポ感になってくると、なかなか曲の表情を出せないところもあったりして。その中でちゃんとギターの印象とドラムの四つ打ちの印象とメロディと、引っかかる言葉をどう入れ込むのかっていうことが必要だったし、さらに、そこからいかにフルでもう一度聴いてみたいなっていうところまで引っ張れるかっていう難しさは結構ありましたね。けど、そういう難しさってタイアップの時にしかないんで。そうやって作品から縛られている中で自分達をどう表現するかっていうのは、凄く楽しいは楽しいんですよ。この曲では異様な言葉が散りばめられていたりしてるんですけど(笑)、そういう面は前からこのバンドにあったと思うので、今回は元々やっていた時雨のちょっとユニークな感じが、上手く作品の意図しているところと合わさっちゃった感じがありますね。なので、最近の時雨しか知らない人はもしかしたらびっくりするかもしれないですけど、元々知ってる人は『あ、またやってるな』っていう感じはあるのかもしれない」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA9月号 Vol.125』