Posted on 2017.08.21 by MUSICA編集部

最高に粋で異色なシングルで
メジャー進出を果たすCreepy Nutsの信念を、
R-指定とDJ松永が歯に衣着せず語り尽くす!

ツッコまれないようにしてきた人間と、
ツッコまれて失敗してきた人間だったら、
たぶん俺はいっぱいツッコまれて失敗してきた側で。
そっちのほうが幸せだと思うんです。ツッコんできた側より
ツッコまれてきた側の人間のほうが厚みがあると思うから(R-指定)

MUSICA 8月号 Vol.125P.78より掲載

 

(前半略)

■この1時間7分のラジオを挟んで、前後に曲が入っていて。今回、この2曲でダブルA面的な形だと聞いているんですけど。1曲目の“メジャーデビュー指南”という曲は――ラジオでも自虐的に言ってるんですけど、これは音楽というより「喋り」の曲になってるわけですよね。だから、一貫して自虐的な攻撃心に溢れている曲だなと思ったんですけど。

松永「これ、トラックだけは昔からあって――」

■そう、喋りとはいえ、トラックが凄くカッコいいんですよ。ジャジーだしファンキーだし、プログレのようにも聴こえるし、BECKの“Loser”的なオルタナ感もあるし。

R-指定「そう。それにどうラップ乗せるか?っていうのをずっと悩んでたんですよね。トラック自体がカッコいいから、いつか使いたいとは思ってたんですけど、『これ、ラップ乗せれるか?』って思ってて。結果として全然違うものにはなったんですけど、ウルフルズさんの“大阪ストラット”っていう曲あるじゃないですか。ずっと関西弁で喋ってる曲。SHINGO★西成さんっていうラッパーの先輩の曲でも、語りだけの曲があるんですよ。そういう関西弁のリズムって、細かくラップの譜割を考えるよりも、関西弁自体にリズムと独特の音程があるから、このトラックはそれが合ってるかもなと思って。こんだけトラック自体がカッコいいんで、それに負けないラップってなったら、もしかしたらただ関西人が喋ってるだけじゃないとトラックに勝たれへんかもなっていう思いもあったんで。で、このタイミングでメジャーデビューの曲もう1個作ろうってなった時に、じゃあこのトラックで喋る曲をやってみたいっていう提案をして、作り始めたんですけど」

松永「僕も元々喋りの曲が聴きたかったんですよね。喋りの中にもリズムがあって、途中で何ヵ所も韻踏んでたりしますし、落語のサゲみたいな感じで、話も綺麗にオチがつけられてるし。最初はメジャーのタイミングで“合法的トビ方ノススメ”みたいな曲を出そうかっていう話もあったんですけど、このタイミングでこのぐらい変なことするのもアリかなと思って」

■メジャーに至るまでの2枚(『たりないふたり』、『助演男優賞』)って、Creepy Nutsは非常に音楽的なユニットであるっていうことがひとつの魅力として伝わっていた作品だったと思うし、『フリースタイルダンジョン』のラップ人気が先行していたところに対して、自分達の中での確信とプライドがあったと思うんですよね。逆に言うと、「自分達はただのヒップホップカテゴリーの中で音楽を消化してる人にはできない音楽をやってるんだ」っていう自負もあったと思うんですよ。で、今回メジャーのタイミングでこういう作品を出してくるっていうのが凄いなと思うし、敢えて攻めてるなと思ったんだよね。

松永「完成前のラフの段階で、Rと『ただのあるあるネタにするのは違うね』っていう話をしたんですよ。最初は、『メジャーに行って、俺らがこうなったら止めてくれ』っていう羅列のラップを形にする方向で行こうかなっていう話をしてたんですけど、もしかしたら今ってあるあるは食傷気味かもねっていう話になって」

R-指定「そう。その最初やろうとしてたあるあるっていうのは、アーティストにありがちな『こういうことをし出したら止めてくれ』っていうテーマで。『胸に手を当てて、ラヴソング歌い出したら止めてくれ』とか『女性シンガーをフィーチャリングし出したら止めてくれ』みたいなことを面白おかしく書くのも面白いなと思ったんですけど、むしろそれって自分らがこれからやろうとしてることを狭めることになるなと思って。今って、当たり前にあるある視点から見る時代になっちゃってるなと思うんですよ。みんなが主観で陶酔するカッコよさみたいなんがメインだった時は、カウンターとして俯瞰の目線で粗を探すのが面白かったんですけど、今はそれを全員ができるようになってて。それを今、俺達がやっても面白くないかなって。だからこそ業界を知り尽くしてる人間の目線じゃなく、もっとざっくりした認識のメジャー観を持ってる地元の友達と、そっちに今から飛び込むんだけど業界のことをあんまりよくわかってない俺、っていう目線の歌詞のほうがいいかなと。だから、ただのアホ同士の会話なんですよ。『俺、今度ソニーからデビューすんねん』ってことを自慢げに言っちゃうアホの俺と、『メジャー行くんやったら、印税もらって港区に住むんちゃうん?』っていうテレビで観た認識しかないぐらいの友達との会話というか。もちろんその『アホ』っていう言い方は関西人的な褒め言葉なんですけど、より一般的というか、卑近な会話がいいなと思ったんですよね。ドン・キホーテ的な会話というか」

■コンビニのパーキングの駐車止め板の上にふたりでうんこ座りしながら語ってる感満載っていうかね。

R-指定「あ、ほんまそうです(笑)。『お前、メジャー行ったらめっちゃ金稼げるんちゃう?』『いや、んなことないよ』みたいな。でも、一般的な感覚やからこそ、たまにドキッとするようなことを言うんですよ。『お前、メジャーデビューしたら女優と不倫できるんちゃうん?』っていう会話が1番のサビに使われてるみたいな。メジャーデビューするっていうことは、そういうライトな層にも聴かれるっていうことやから、それをこの曲で表現してみたっていう感じなんですけど。だからこそ、いろんな業界を見てきた人として『業界はこういうふうになってて……』っていう暴き方をする曲じゃなく、地元に帰った時の友達とのゆるい会話を曲にしてみたっていう。今までは、世の中に対して俯瞰の視点で断罪していくっていう闘い方の曲が多かったんですけど、一旦断罪するっていう立場じゃなく、もっとフラットな立場でそういうものについて語ってみたかったんですよね」

■松永くんはトラックメイカーとしてのプライドももの凄く高い人だと思うし、とにかくもの凄く面倒くさい方だと思うんですよ。

松永「えっ! はははははははははははは」

R-指定「間違いないな(笑)」

■でも、ラップによって自分のトラックを汚すのもお好きじゃないですか。

松永「あー、好きっすね。まぁRさんに限ってっていうところもありますけど(笑)。あるあるがちょっと食傷気味になってるのは、あまり言葉にされていないけど、そう感じてる人は多いと思うんですよね。やり方によっては凄く面白いのは確かなんですが、意外と結構簡単にその界隈をマウンティングできる気がするし、このタイミングでまた俺らがその小賢しい感じをやるのも違うかなと。俺は田舎出身だから、この地元の友達と喋ってる感みたいなのもわかる」

R-指定「地元の友達とか家族にとってのメジャーデビューって、これぐらいの認識やもんな。そのノリが尊い。今は情報が溢れ過ぎてるから、これぐらい知り過ぎてない強さみたいなのってあるよなって思ったんですよね。だし、情報に踊らされまくってる奴より、このぐらいなんとなくでわかってる奴のほうが、実際の人生もタフやったりするじゃないですか。だから、特に今回の曲は2曲とも、マウンティング取ってあぶり出して、『わかったか!』みたいな感じにはしたくなかったんですよね。逆にメジャー行くタイミングやから、我々史上なかなか優しい曲になってると思いますね」

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text by鹿野 淳

『MUSICA9月号 Vol.125』