Posted on 2017.10.16 by MUSICA編集部

My Hair is Bad、
アルバム『mothers』最速インタヴューにして、
椎木知仁の本質に迫る初の表紙巻頭特集!

誰にもわかんなくていいからっていう感覚では、
僕はもう曲を書けなくなっていて。間違いなく歌ってるのは自分のためだし、
書いてるのも自分のためなんですけど、でも、それが誰かのためになる瞬間も
あるんじゃないかって思うようになってるし、そうやっていきたいんですよね。
やっぱり僕は、愛されたいしわかってもらいたいし、
でもカッコ悪くなりたくないし、自分のことを愛せなくなりたくない

MUSICA 11月号 Vol.127P.12より掲載

 

(前半略)

■今回は初めての表紙巻頭特集です。よろしくお願いします。

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

■まずは何はともあれ、『mothers』という素晴らしいアルバムが完成しました。前作の『woman’s』もロックバンドとしての衝動と熱量が結実した素晴らしいロックアルバムだったと思うんですけど、今回は表現者としてひと皮剥けた感のある作品だなという印象があって。特に“永遠の夏休み”、“幻”、“シャトルに乗って”という最後の3曲に真価が発揮されているなと感じたんですけど。自分ではどんな印象ですか?

「『woman’s』から『mothers』に関しては、変化というよりは進化だったなっていう感覚があって。厚みが増したような感覚はあるんですけど」

■厚みが増したっていうのは?

「歌もそうですし、あと機材もほとんど総入れ替えしたので、そういう意味での厚みみたいなものは増したんじゃないかと思うんですけど、ただ、曲自体に関しては、やってることは『woman’s』の時とそんなに変わってないんじゃないかと思ってて」

■でも作品性は増してるよね。それは特に作詞の面で感じるんですけど、前作までのとにかく言いたいことを赤裸々に吐き出して、それが曲になっていっているような感覚から一歩進んで、表現として、作品として描きたいものをちゃんと描けるようになってきている手応えがあって。

「ああ、そうですね。それはあったと思います。ステージで歌いたいことっていうよりは、作詞・作曲家として作りたいものを作っていったっていう感覚は今回は凄くあって」

■前のアルバムは全曲シングルカットできるような作品を作るつもりで作ったっていう話をしてたと思うんですけど、今回のアルバムはどういうイメージだったり感覚だったりで作っていったんですか?

「というか、制作の前半に関しては、どの曲をシングルにしようか本当に迷ってたんですよ。だから『全曲シングルカットするつもりで』というよりは、もうマジでシングルを作るつもりで作ってた曲がほとんどだったんですよね。そうやって考えてたおかげなのか、今回は歌い出しから始まる曲が凄く多いんですけど。そういう意味でも層が厚いというか、主役が多いアルバムになってるんじゃないかという感覚はあって」

■そもそも椎木くんって、常にシングルを作るような意識だったり、ヒット曲を作るんだっていう意識で曲を作る人なんですか?

「というか、僕が曲を作る時の一番の感覚は、シングルを作るっていうよりかは、試聴機でパッと聴いてもらった時にどういう印象を残せるか?っていうことで。そこが一番の物差しだなと思ってるんですけど」

■ちなみに、6月にリリースされたMONOEYESの『Dim The Lights』のインタヴューをした時に細美さんが、今はYouTubeにしても配信の試聴にしても、基本的に頭1分しか聴かれない時代になっていて、だから昨今のミュージシャンは頭の1分ぐらいで「これはこういう曲です」っていう紹介を終えるのが当たり前になってきた。そうなると必然的に曲の構造が変わってソングライティングのやり方が変わるから、今回はそこに挑戦したっていう話をしてくれたんですけど。

「ああ、なるほど! それは勉強になります。確かに僕にもそういう意識はありますね。僕の場合は1分も余裕がなくて、最初の10秒でどういう印象を残せるか、そこで掴まなきゃっていう感じなんですけど」

■最初の10秒か! それはまた極端だね。

「自分がそういう人間なんですよね。頭聴いてピンと来なかったらすぐ飛ばしちゃう人間なので。だからそこの意識は昔から強いです。<ブラジャー>っていう書き出しにした時(“真赤”)から、それは変わってないですね」

■でも今回、先に挙げた“永遠の夏休み”、“幻”、そして“シャトルに乗って”という3曲はどれも曲の後半にいくに従って威力を発揮する曲だと思うし、このアルバム自体も、後半に行けば行くほど引き込まれるし名曲度が増していくアルバムだと思いました。

「それはよかったですか?」

■うん、とても。

「僕の感覚では、この曲順ってズブズブになっていっちゃうなと思ってて。だからもしかしたら最初のほうを好きで聴いてた人が後半でガッカリするんじゃないかなと思うくらい、結構な曲順にしてしまったかなっていう不安はあるんですよね……」

■そうなんだ。確かに頭はいわゆるマイヘアのライヴの勢いや爆発力が炸裂していくような曲調でかっ飛ばしていくけど、中盤以降、どんどん深いところに引き摺り込まれていく展開になっていて。これは、こういうアルバムにしたかったんじゃないの?

「そんなつもりもなかったんですけど。もう1曲あればその後半のイメージも変わったのかなと思ったりして……だからこのアルバム作り終えてすぐに、もう次のアルバムのことを考え始めてるんですけど。なんか、もっと行けるはずだと思うんですよ。というか、もっと行きたいんですよ」

■でも、この後半は凄くいいけどね。特にラストに置かれている“シャトルに乗って”という曲は、本当に素晴らしい名曲だと思います。

「おお、ありがとうございます! これは僕も書き終わった時に『これは名曲が書けてしまった!』と思ったんですよ!」

■実際、これはめちゃくちゃ心を掴まれる曲だし、このバンドの本質を突いてると思うし、何よりマイヘアの音楽と表現を今までよりも一段階上のステージへと上げる楽曲だと思います。

「けど、なんか、作り終えた時にはもう完全に飽きちゃっていて……」

■おい(笑)。

「だから僕、“シャトルに乗って”はあんまり再生しないんです」

■なんで? 書いた時は自分でも名曲だと思ってたんでしょ?

「思いました。書き終えた時はいい曲書けたなっていうか、『こんなにも自分の作詞がステップアップしているとは!』って思ったんですけど。だからそこに気づいてもらえたことが凄く嬉しいんですけど、でも作り終えた後に、みんなにはわからないんじゃないかみたいな感覚になっちゃったんですよね。いい曲だけどこれじゃ伝わらないんじゃないかって思って。素晴らしい曲を作ってる感覚だったんですけど、頭の中のものを超えなかった感覚はありますね」

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA11月号 Vol.127』