Posted on 2017.11.17 by MUSICA編集部

1年8ヵ月ぶりとなるフィジカルでのシングル
『A/The Sound Of Breath』を発表するSiM。
MAHが抱えるその人知れぬ苦悶

今まで歌ってきたのはきっと、「こう闘うべきなんだ」っていう
理想だったと思う。……でも、ここでは「実際の自分はこうだけど」っていう
言葉が出ちゃってる。カッコつけたい自分もいたけど……
今はもっと正直になってきたんだろうね

『MUSICA 12月号 Vol.128』P.92より掲載

(冒頭略)

■新しいスタートの一撃目が今回の『A/The Sound Of Breath』だと思うんですが。今話していただいたことを経た上で、どういうものをイメージして作っていった作品なんですか。

「この2曲を作ったのは、夏前……5月か6月だったかな。ひとりで一週間くらいスタジオにこもって、まとめて曲作りする期間を設けて。そういう作り方は初めてだったんだよね、今までは何かの合間に曲を作る感じだったから。で、具体的に今までと変えたのは、歌を歌いながら曲を作るようにしたっていうことで。今までは、先に楽器を作ってたんだけど。でも今回は、歌を決めながら曲の展開を変えていくっていう作り方にして。そうしてみたことで、いろんなパターンの曲を自由に作れたんだよね。で、その時考えたのが……いやらしい話に聞こえるかもしれないけど、CMなのか映画なのか、映像作品に合う曲があってもいいよなっていうことで。それをイメージして作った曲のひとつが、“The Sound Of Breath”。それをみんなに聴かせたら、『合うんじゃないか?』っていう話をもらったのが『龍が如く 極2』のタイアップの話だったんだよね。だから逆に言えば、『今後のタームがこうだから、こういう曲を作ろう』ってことはむしろ考えず、SiMが持っているいろんな切り口で自由に曲を作ってみようっていう感じなんだよね。それが何かに繋がっていくんじゃないかなと思って……だから言ってみれば、結構フワッとしている時期かも(笑)」

■じゃあ、メロディを歌いながら曲の展開を変えていく作り方に変えてみたのはどうしてだったんですか。

「『THE BEAUTiFUL PEOPLE』もメロディにこだわった作品だったし、満足はいっていたんだけど、それによって、もっと歌ってみたい空気感や歌い方も思い浮かぶようになってきて。歌が後乗せだと、なかなかそのイメージを生かすことが難しいし、『こういう歌を歌いたいから作った曲』っていうやり方のほうが歌の味を出しやすくて。とはいえ、新しい作り方でもオケは大幅に変わらないようにしたつもりかな。入り口は違うけど結局できたオケは一緒で、中身を見てみれば何かが違う、みたいなイメージ」

■でも思うのは、たとえば“A”なら、ビートダウンしてブルータルになるパートまで、超スムーズに狂っていく感覚があって(笑)。

「ははははは。スムーズに狂ってる、か(笑)」

■“The Sound Of Breath”で言えば、ここまで大合唱を盛り込んで雄大に聴かせるバラードはなかったわけで。音楽の繋ぎ目が、歌によって凄く滑らかなものになってきてる感じがするんですよ。

「確かに、そう言われてみたらそうだと思うわ。“Blah Blah Blah”とか“WHO’S NEXT”を作っていた頃は、楽曲自体がパズルになってる感覚だったからね。1回完成した後にAメロとCメロを入れ替えるとかさ。『最終的には歌でなんとかなるっしょ!』みたいな(笑)」

■(笑)その力技感とカオティックさが、SiMの精神性やMAHさんの脳内の混沌をそのまま音楽化していたっていう言い方もできるとは思うけど。そこで違う見方をしてみると、歌やメロディから作る方法をとったのは、歌のステップアップがSiMの成長の鍵になるという意識でもあったんですか。

「それはもの凄くあった。たぶん、ここ数年のSiMで一番変わった部分は歌だと思ってて。『これキツいな』と思ってた歌も歌えるようになってきたことで、作る段階で『こういう歌ならライヴで映えるんじゃないか』っていうことも考えられるようになったし。自然と歌も曲も幅が広がっていって。やっぱり、アリーナまで行く目標を具現化していく時に今までと一番違ってくるのは、歌を聴く人が多くなるっていうことで。轟音や激しい動きでなんとかなってきたものも、今は歌で伝えることが必要で。……たとえば、ライヴハウスのお客さんで言えば『“KiLLiNG ME”やって欲しい!』って言う人が多かったんだよ。でも大きい場所でのお客さんっていうのは、『“KiLLiNG ME”が流れた』って表現するんだよね」

■あー。面白い話ですね。パフォーマンスとしてではなく、流れる歌・音楽として捉えるお客さんが増えるという。

「そうそう。『2曲目に“KiLLiNG ME”が流れた瞬間ヤバかった!』みたいな(笑)。それで俺も『そうか、CDクオリティじゃねえとダメか!』って思うようになってね。今までは、CDとライヴは違って当たり前だと思ってたけど、感情を込めてしっかり歌うっていう意識が、この2年くらいでどんどん強まってると思う。やっぱり、感情に対してナチュラルに歌っても安定していれば、表現できたり注ぎ込めたりする感情の幅が広がると思うし、メッセージを大事にするならなおさら、歌が大事なんだよね。そこは、だんだんできてきている実感があって。それこそ“The Sound Of Breath”も、そういう気持ちで歌いながら作ったからこそ、一番気持ちいいメロディが書けた実感があるし、ライヴで歌うのが楽しみで。やっぱり俺の周りには上手いヴォーカリストがたくさんいるし、その中で感じてた劣等感みたいなものはずっとあったから。歌いたいと思える曲が書けた時に、そこにだんだん追いつけてきたんじゃないかなって思えるんだよね。この曲は特に、サビのメロディを思いついた時点で凄くスケールの大きな光景が思い浮かんでいて。だから、最後のコーラスの部分は、そこをさらにエモく締めるっていうイメージで出てきたし、俺が歌いたいと思えるメロディだからこそ、エモに近い合唱のアレンジも出てきたんだと思う」

■この曲は、エモいアレンジになってしまう必然を歌詞にも感じてしまうんですね。先ほど「今は耐える時なんだと思う」という話もあったけど、大ラスの<今を耐えて/変えて/前へ>という一節に、そのまま現状への心持ちや切実さが表れている気がしたんですけど。

「確かに。そうだと思う。書き出しは、ゲームのエンディング曲っていうのを踏まえてその世界観を反映して書いたんだけど。でも矢島くんが言う通り、後半に進むにつれて一つひとつの言葉選びに自分の気持ちが出てしまっている、滲み出てしまっている……自覚はあります(笑)。特にラスサビの部分は言葉数も少ないから、その中で歌える強い言葉をたくさん考えたんだけど……そうして考えた強い言葉がそうなったっていうのはきっと、自分が歌っていて『そうだよな』って感じられることを歌いたかったんだろうし、俺自身が言って欲しい言葉だったんだろうね。……やっぱり、このレベルになってくると精神的にきちゃってる友達も周りにいてね。それこそSHOW-HATEも精神的なストレスを抱え続けた結果体調を悪くしたわけで。だけど、俺自身はプレッシャーに押し潰されることもない人間だと思ってきたんだよ。でもやっぱり心の中では悩んでるんだなって、自分が書いた歌詞によって実感することも多い(笑)。こうして吐き出せてるからこそ、壊れないでいられるとも思うんだけど」

(続きは本誌をチェック!)

 

text by矢島大地

『MUSICA12月号 Vol.128』