Posted on 2017.11.18 by MUSICA編集部

Ivy to Fraudurent Game、
メジャーデビューとなるアルバム『回転する』。
原点とこの先への決意を映す本作に秘めた想いとは

自分が抱えてる不安を音楽にすれば
実は有益なんじゃないかって気づけた時に、
もう無理して笑ったり、無理して明るく振る舞ったり
しなくてもいいような気がして。
それが音楽と自分の本性が繋がった瞬間であり、
僕が音楽を鳴らす意味ですね(福島)

『MUSICA 12月号 Vol.128』P.106より掲載

 

(冒頭略)

■今回のアルバムは、初のフルアルバムという意味でもメジャーデビューという意味でも自分達の名詞になる作品なわけですが、新曲に4曲の過去曲を加えた9曲で構成されていて。まず、そういう性格のアルバムに過去曲の中から“青写真”、“アイドル”、“dulcet”、“+”という4曲をピックアップしたのはどうしてだったんですか?

福島「“青写真”と“アイドル”に関してはライヴで欠かせない曲になってることも含め、自分達のライヴのイメージを作ってきた曲なのかなと改めて思って。しかも毎回ライヴでやってるのに音源が入手できないっていうのはどうなのかな?と思って、この2曲は絶対に入れよう決めたんですけど。他の2曲に関しては、ノブの提案だったかな?」

福島「そうだね。新曲3曲を聴いて『こういう感じなんだ』って思った時に、じゃあちょっとシューゲイザー的な“dulcet”と、10代の頃からやってる“+”を入れたらちょうどいいんじゃないかなっていう提案をしたら、すんなりみんないいね!って言ってくれて」

■『継ぐ』が顕著だったけど、作品を重ねる度に音楽性も音像やアプローチも拡張しているし、構造もより複雑になっていってるけど、“青写真”、“アイドル”、“dulcet”、“+”を聴いていると、このバンドの核というか原点はここにあるんだなって思う。自分達ではどうなんですか。

寺口「その通りですね。ギターロックとシューゲイザーやポストロックの両立というか、そういう部分が間違いなく俺達の原点だなと思う」

福島「俺が音楽を聴き始めた頃のすべてというか。この辺りの曲はあまり何も考えないで自然に作ってる曲なので、もしかしたら一番自分らしいのかもしれないです。特に“+”に関しては、本当に曲を最初に作り始めた時期に作った曲なので」

■ノブくんは、当時と今とを比較して、ヴォーカリストとして変わったものは何だと思います?

寺口「時間をかけて培ってきた熟成度、みたいなものはあると思いますね。単純に上手くなったっていうのもあるけど、それ以上に曲に対するアプローチの仕方が、他の人より上手いかなって思いますね」

■表現力が格段に上がってるよね。

寺口「そう思いますね。曲に対する自分なりの味つけの仕方がわかってきた。昔は味つけをしてるつもりでもできてなかったし、むしろそれが変な癖になってたんですけど、今は芯が太くなった気がしますね、声もメンタルの部分も。でも、“青写真”と“アイドル”に関しては歌というよりオケの段階が難しくて。ライヴでかなりやってる中で、かえって音源にした時のカッコよさを出すのが難しいなと思って。俺は基本はレコーディングでギターを弾かないで、バッキングは福ちゃんが弾いたりしてるんですけど。でもこの曲に関しては、俺が弾いてない段階の音を聴いた時に『これじゃちょっと残念だな。迫力がないし、綺麗にまとまり過ぎちゃった感じがする』と思って、後からギターで入ったんですよね」

■特に“青写真”みたいな曲は、ライヴだとダイナミクスもあるし、演奏の荒々しさが逆に快感になってくるわけだけど、そういう熱量をレコーディングで音源に閉じ込めるのって、結構難易度高いところだよね。

寺口「そうですね。ウチのメンバーはそれが下手なんだと思うんです。レコーディングはレコーディングの弾き方になるというか……それはそれで正しいんでしょうけど、でもこういう曲に関してはライヴのよさを何とかして音源でも出さなきゃなって俺は結構考えましたね」

福島「ライヴ感って難しいんだよね」

■このバンドって、音源は凄くテクニカルだし、この一音が少しでもズレたらダメ、みたいなところまで神経を使ってるような緻密な構築性を感じさせますけど、ライヴはエネルギッシュだし感情的で。その辺りはやっぱり、自分達でもまったく違う感覚でやってるんだ?

福島「俺の場合は完全に分けて考えてますね。曲を作る時はライヴのことなんて考えてないし、考える余裕もないんですけど。緻密にひとつずつ構築していくものが音源だと思ってるんですけど、ライヴに関しては初めてみんなで一斉に音を鳴らす瞬間でもあるから、そこにちゃんと落とし込みたいなっていう気持ちがあるし。あと、聴き手の環境とか心情も、ライヴと音源を聴く時では違うとも思っていて。だったらそのアプローチも異なっていて当然だなって思うんですけど」

寺口「でも俺ら、音源よりライヴのほうがいいねって言われるんですよ。ライヴバンドだねって。それはちょっと……嫌だよね(笑)」

福島「俺は嫌だけど、でも好みもあるしね。まぁ好みとか言い出したら終わりなんだけど(笑)」

寺口「もちろん曲調にもよるんだろうなとは思うんですけどね」

■メジャーデビューを発表したリキッドのライヴを観に行ったんですけど、あのライヴはノブくんの声が出にくい状況で、本人としては相当悔しい体験で。実際いつものライヴよりもピッチとか声量っていう意味では歌えてなかったんだけど、でも歌も演奏もエモーショナルで真に迫っていて、ライヴとしては凄くよかったんですよ。このバンドが音楽をやらなきゃいられない理由、ロックバンドとして真ん中に持ってる衝動と必然が露わになってた。それを観ることができて本当によかったなと思いました。

寺口「あの日は悔しさや情けなさと同じくらい……嬉しかったのかな。だからその後も全然下を向かなかったですね。自分の弱さを知って落ち込んでないと言えば嘘になりますけど、でも確実に光は見えてたというか。初めての経験だったかもしれないです。あれだけ自分の声が出なくてしんどくて、終わった後悔しかったけど、でも下を向かなかったっていうのは。自分にとっても凄く不思議な日でした」

(続きは本誌をチェック!)

 

text by有泉智子

『MUSICA12月号 Vol.128』