Posted on 2017.12.15 by MUSICA編集部

ヤバイTシャツ屋さん、戌年に放つセカンドアルバム
『Galaxy of the Tank-top』。新たなパンクロックの在り方
なのか、それとも得体の知れないただのタンクトップなのか

FM802の生放送に出た時に「週間2位、凄いね」って言われて。
僕らをバカにしてきたヤツらが急に思い浮かんで、生放送で号泣したんです。
横で全然関係ない運動会の話してるのに(笑)

『MUSICA 1月号 Vol.129』P.216より掲載

 

■セカンドアルバムだね。直近のシングル『パイナップルせんぱい』がチャートで2位まで行ったんだから、そして岡崎体育のアルバムが2位だったから、次は1位だ!っていう超越感も含めて宇宙(『Galaxy of the Tank-top』)を掲げてる作品なんですよね?

「いや、まったくそんなこともないんですけどね(笑)。やっぱり、1位獲ったらあかんなって思っちゃったんですよ。前回の『パイナップルせんぱい』の時に。あの作品は2位やって、『2位でよかった』って思ったんです。ホントに1位になってしまったら、ストーリー的なものも終わってしまうと思ったんで。理想を言ったら、1位を獲れる売上枚数で1位じゃないっていうのがいいです」

■往生際が悪いね(笑)。でも、どちらにせよ勝ちにいく作品だよね。そういう作品を作るにあたってはどういうイメージがあったの?

「言ったら、前のフルアルバムは既にライヴでやってる曲ばかりを入れたベストアルバムみたいなもので、新曲はほぼなかったんです。だけど今回は、アルバムのために作った新曲達で。新しいことにも挑戦したいし、だけど『らしさ』は残したいし、そやけど伸びしろもあるっていう――僕の持ってる『セカンドアルバム』のイメージそのままの作品にできたと思ってて。前のアルバムは、曲順に関してもガッチリ自分の理想があって、その曲順に合わせて曲を作っていく感じだったんです。だけど今回は、でき上がったものを納得いく形に並べていったらこうなった。だから、コンセプトも特になかったですね。その結果としてジャンルもぐちゃぐちゃで、うるさくて面白い作品になったと思うんですけど」

■そうだね。少し振り返ると、まず“ハッピーウェディング前ソング”が成功した要因は、どういうものだと解釈したの?

「これ、ライヴでのウケがいい曲なんですよね。叫ぶところもあるし、『パン、パパン、フー!』もあるし、サビは一緒に踊れるし」

■それに、サビのメロディが秀逸だった。

「ああ、嬉しいです。TAKUMAさん(10-FEET)にも褒められたんですよ。『メロディええな』って。よくこの曲があの苦しんでる時期に出てきたと思います(笑)。だからこの曲はアルバムの真ん中にも置いてて。この曲が好きで買ってくれる人もいてはると思うし」

■アルバム、相変わらず素晴らしいんですよ。前作を聴いた時にも「いいアルバムを作れるバンドだったんだ」っていうことに気づかされたけど、今回の作品は「いい作品だ」というより、いいロックバンドになったという感触を持ちました。いろんな曲が入っているけど、策にいろんなことを求めるというよりも、いいロックバンドとして、いいパンクバンドとしていい曲と音楽を作るんだっていう意志が作品全体から伝わってくる。

「嬉しいなあ、そういう気持ちは確かにありました。だからこそ、後半は結構エモい曲で固めちゃったんです。アルバム全体としてはそんなにトリッキーなこともしてへんし、ジャンルはいろいろあっても曲自体はかなりシンプルで――普通に、ボケ方を忘れてたっていうか(笑)。最後は肩幅のこと歌ってる曲ですけど、最後になんとなく聴いたら、凄くいい終わり方に聴こえると思うし」

■歌詞さえ追わなければ完璧なエンディングだよね(笑)。でも、「ボケを忘れた」と言ってくれたけど、そこはある程度意図的だったんじゃないのかなって思うんですが。

「そうですね。アルバムですし、そもそもボケだけで続くバンドじゃないと思ってるんで……そこに賛否両論があってもいいと思うんですよ。具体的に言えば“気をつけなはれや”と“サークルバンドに光を”は、今までのヤバTになかった完全ストレートな表現をしてる曲やと思ってるんですけど」

■完全に自叙伝ですよね。

「はい。それは(今までのヤバTが好きな人の間で)賛否両論あるかもしれへんけど、でも、だからこそ反応が楽しみですよね。否定的な人がいてもいいと思うし、こういう曲が好きな人もいると思うし。だからこそ、そこは攻めるところやと思ったし」

■ただ楽しいだけのバンドじゃないっていう意志や、ライヴで鍛え上げて、ソングライターとしても追究してきたここまでの落とし前をつけようっていう覚悟が、この作品の根底から聴こえてきて。その進化と変化は、バンドにとって人生の岐路を分けていく瞬間だと思うんです。その辺は、プロデューサー的な視点で言うとどういう想いがあったんですか。

「まさに考えたんですよね。ヤバイTシャツ屋さんって楽しいだけのほうがいいんかな?とか……それはライヴもなんですけど。ただ楽しいだけのライヴをする時もある一方、笑えるだけじゃなくて泣ける瞬間も作りたいと思うし、そういう瞬間は、活動の中で出るようになってきたと思います。ヘラヘラしたくない時だってやっぱりあるし、そういう時は無理してヘラヘラせず作っていったのが今回のアルバムやと思います。真面目になった瞬間に作った曲はやっぱり真面目になったし、だけどそれも今の自分やから入れておきたかったし……そしたら、自然とこういう作品になりましたね。まあ、リスクがあるとは思いましたけど、でも、このタイミングで『こんなにストレートなのもやるんや』って思ってもらえたら、それが今後の強みになると思ったんで。……正直な話、セカンドアルバムのうちにストレートなものをやっとかんとあかん!っていう気持ちもありました。そういう意味では、逆に今やっといたほうがええかなって」

■手札をちゃんと持ちたいし、持っている手札を隠すこともない状況を早めに作っておきたかったっていうことだよね。

「そうですね。今回はフォークソングもあるし。この感じって絶対メロコアバンドのアルバムではないじゃないですか。そうやって『何やっても許される状況を作る』っていう意味では前からやってきたことで、それが続いた結果の今作っていう感じだと思います。要は、何やっても許される状況作りです(笑)」

■でも、それを続けていくためには進化と自信と確信が必要なわけじゃない? こやま的には、ソングライティングのスキルとキレに対しての自信があった上でこうなっているのか、どういう感じなんですか。

「………後から自分の曲や歌詞を見返して『面白いな』と思うことはあるんですけど、作ってる最中はずっと『大丈夫かな』っていう感じですねえ。っていうかね、歌詞の分量がね、前作に比べて増えまくってるんですよ(笑)」

■そう、情報量が多いとも言えるし、言い切る潔さが少ないとも言えるけど。これは、何が表れてるものなんですか。

「……たぶん、いろいろ情報量を詰め込まないと不安なんやと思います。本当はね、前みたいにシンプルで言い逃げ感があるやつも作りたいんですよ。だから次は、そういうのを狙って作るとは思うんですけど」

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text by鹿野 淳

『MUSICA1月号 Vol.129』