Posted on 2017.12.15 by MUSICA編集部

BUMP OF CHICKEN、「PATHFINDER」完全密着第2弾。
久しぶりのライヴハウス編:Zepp Osaka Bayside 2デイズ
ここでしか読めない4人の姿を余すことなく綴る

久々のロングツアー「PATHFINDER」完全密着第2弾。
Zepp Osaka Bayside 2デイズに完全密着した、
ここでしか読めないし覗けない
ありのままの4人の愛しき時間、そして軌跡

『MUSICA 1月号 Vol.129』より引用

 

(冒頭略)

今回のPATHFINDERのライヴハウス編、僕はこの大阪のみならずZepp Nagoyaと新木場スタジオコーストも見せてもらい、その時からずっと思っていたが、今やBUMP OF CHICKENはアリーナ&スタジアムでライヴをするのが基本にあるバンドになったので、彼らのライヴにおける音楽的な環境はそこをベースに成立している。つまりライヴハウスに向けられた機材環境ではないし、スタッフ環境でもないということである。Zepp Nagoyaでも新木場スタジオコーストでも、とにかく今までのどのライヴハウスツアーよりもキラキラしてどっしりした、つまりは「凄い音」が今回のライヴハウスツアーでは鳴っているのだが、それは4人の成長だけではなく、スタッフの進化だけでもなく、アリーナでも最高の音響や映像を披露できる機材環境や、それにまつわるプロフェッショナルなスタッフが加わったからなのである。その技術や機材を、この2,000〜3,000人規模の場所でガーンと響かせたり灯したりすると、それはそれは必然的に凄い音や凄い演出になるのである。

 何故こういうことを長々と綴っているのかといえば、それは「リハーサルで神経尖らせて確認や試行しなければいけないことがたくさんある」ということを伝えたかったのだ。具体的に言うと、各々の楽器のワイヤレス環境。お互いのワイヤレス電波が干渉してしまうと、ノイズが出たり音が出なくなったり、様々なトラブルが起こる。それは実際に現場のライヴハウスで音を鳴らして曲を奏でないとわからないことも多く、その場その場で神経質にならなければいけない曲が複数あるのだ。それをスタッフ交えてリハーサルで丁寧に丁寧にやっている。

 さらに言えば、これだけの音声情報をこのクラスのホールでやると、必然的にモニター環境も変わってくる。いい音イコールいいモニター環境ではなく、その複雑な音の環境下ではプレイヤーとして演奏に集中するのが難しい局面も出てくる。この日のリハーサルでも、想定していたよりモニター音量を上げてくれだの、ドラムの下の音(キック音)をもっと欲しいだの、曲によって細かい要望や変更もあった。

 16時35分に一旦終了し、その後オープニングのリハーサルを行い、16時48分、終了。リハーサルを1時間20分浴びただけで、かなり心地よいエネルギーを放出した、そんな気持ちになるハードな時間だった。もちろん、僕の何十倍ものエネルギーを使って、自らの音楽をコントロールしたり、その音楽に振り回されているのは4人自身である。しかし彼らはむしろその葛藤を楽しみ、チャマとフジに至っては、Zepp Osaka Baysideという言葉を手拍子でリズムを取りながら、音頭にできないか、ステージ上で遊びながら試している。これ、本番どうなるんだろ?

 

(中略)

 

 本番用に着替えてきたチャマが、BFLYツアーの時のグッズのベースボールシャツを着て帰ってきたので突っ込んでみると、「最近はね、昔のツアーのグッズを着る気分なんだよ。音楽と同じように、時間が経っても自分で作ったグッズへの愛着は消えないんだよね。だからこうやって昔のグッズを着ることは、『大切に着てるよ、みんなはどう? 大切にしてくれてる?』って意味もどこか自分の中で含まれている気もするんだけど(笑)」と話しながら、鏡を見ている。

「ステージ上で、あ、爪切ってなかった!って自分の弾いている指を見て気づきたくないじゃん」と言いながら、フジが爪を切り、その発言にみんな「そうだよな、そんなことで一瞬でも気を散らせたくないよな」と真剣に受けている。その雰囲気に負けて「フジ、お前、割と楽屋に入ってすぐに爪切ってたよ、今日」とは言えずにいた18時40分、「5分押しで行きますよー」という舞台監督の声が廊下から響いてきた。その声を聞いてフジは最後の体ほぐしに動き、升はゴムパッドを均一に叩き始め、チャマがフジに続いて体のバランスを整え始める。

 そして18時52分、スタッフが4人のイヤモニを楽屋に持ってきて、装着し始めた。スタッフが「いい匂いがしますね」とメンバーに冗談混じりで言うと、大の大人がしっかりと恥じらんでいるのが面白い。兎にも角にもさあ、武器は揃った。

 19時02分、楽屋を出てステージ袖へ。ここでも今日の彼らは今までよりも若干「柔らかい」。これは緩いという意味ではなく、ほぐれていい塩梅ということ。緊張感を滲ませながらも、リラックスした空気が直前のステージ袖でも満ち溢れている。スタッフが「今日のライヴ、結構(フロアのお客さんの状況が)ギュウギュウなんで、かなり暑いと思います」と話す。チャマが「今日、2,800人いてくれてるんでしょ? 下北出身としては、その人数は最早ライヴハウスじゃない(笑)。ありがたいよね、ほんと」と話し、みんな微笑を浮かべながら頷いている。

 19時05分、オープニングのSEが流れる。2,800個の光る右手と、2,800個の誇り高き左手で、全力の手拍子が起こる中、升、ヒロ、チャマ、そしてフジが一人ひとりステージの光の中に吸い込まれていった。開演だ。

 オープニングSEは、アリーナ編と同じくフジが作った特製音源。ライヴハウス編はアリーナのように巨大LED画面を背負うことも左右に配置することもできないので、アリーナのように曲に合わせて作られたオープニング映像は出てこないのだが、逆にだからこそ、音の中から光の粒が弾けたり、絹のように綺麗で繊細な羽根のようなものが羽ばたく感触が目を瞑っているかのようにイメージできる。言うなれば、音楽という正解のない自由なイメージを楽しむオープニングだ。

 3曲終わり、リハーサルでチャマとフジが練習していた「手拍子つきの、Zepp Osaka Bayside音頭」でオーディエンスのみんなに合いの手を求めると、見事なコール・アンド・レスポンスが成立した。さすが上方大阪、リアクションの反射神経がハンパない。そこでチャマが「みんなギュウギュウ過ぎて、顔が肉まんみたいにパンパンになっているから(ちなみにここ、名古屋では『豚まん』ではなく『男梅』だった)、藤原さん、よろしく」と話すと、フジが「はいはい、ではみんな気持ち5cmでもいいから下がろうか、せーの」と促し、フロアを落ち着かせようとする。いつもはそれで如実に景色が変わって少しはスペースに余裕が生まれるのだが、この日は「あれ?」というほど景色が変わらない。その状況に不思議な顔をフジがすると、前線の複数のファンが「いや、横に! 横に!」と叫び出す。そこでフジが「みんなからの提案がありまして(笑)、後ろはいいんだと。ただ真ん中が詰まっているから、右に左に、横にズレてみようか」と言うと、今度は見事にスペースが生まれて割れんばかりの大拍手が湧き上がり、安堵の表情が宿る。冒頭から今日のライヴ、もうパーティー空間として完全にでき上がっている。

 リハーサルのパートで綴った通り、升のドラム台の前に3人が集まって輪になってイントロを奏で始めた“Ever lasting lie”が、やはりソウルフル極まりないというか、人生を一歩一歩慎重に、しかし力強く踏みしめる足取りそのもののようなグルーヴで奏でられ、心の奥をノックする。超初期の曲を久しぶりにこのツアーのために練習してやっているのだが、初期の頃と比べて随分と「育っている」。僕はこのツアーのZepp Nagoyaでのライヴ終演後、フジに「“とっておきの唄”や“宇宙飛行士への手紙”が、音やグルーヴの重量感が凄過ぎて、全盛期のGuns N’  RosesやBon Joviみたいだったよ」と話すと、「ありがとう。でもそれ、どういうリアクションなんだよ」と笑われたんだけど、でもこの日の“Ever lasting lie”も、そういう見事なソウルロックが地面に確かな証を打ちつけるように響いていた。

(続きは本誌をチェック!

 

text by鹿野 淳

『MUSICA1月号 Vol.129』