Posted on 2019.01.29 by MUSICA編集部

JQの心が解放された最高傑作が生まれた!
ストレートな自己表現、着飾ることないソウルフルな歌と、
ワールド・スタンダードなポップソングを収めた新作、
『Blank Envelope』完成! これが本物のNulbarichだ!

 

撮影=畑中清孝

たぶん僕達のライヴを観てもらったら、
どれだけ着飾ってないかがわかると思うんですよ。
俺達はどのアーティストよりもカッコつけてないと思う

『MUSICA2月号 Vol.142』より引用

(前略)

■これまでのアルバムのリリース・タイミングに敢えて意味づけをするとしたら、最初の『Guess Who?』は挨拶代わりの1枚だったと思うんです。そして2018年の『H.O.T』は凄く追い風の中で出したアルバムであり、当時はまだ公に発表していませんでしたが、武道館公演も決まっている中でリリースする作品ということもあって、勢いをどれだけモノにできるかっていう位置にあったアルバムだったのかなと。

「なるほど」

■それで言うと、この『Blank Envelope』は本当の意味で真価や実力を問われるアルバムになると思いますが、ご自身ではこの作品は何を一番意識して作っていった実感がありますか。

「何事も3代目とか3枚目って、一番ムズいって世間的には言われていると思うんですけど。僕としてはタイトル通りの1枚というか――タイトルの『Blank Envelope』って、直訳すると『空っぽの封筒』っていう意味なんですけど。これを『エンプティ』ではなく『ブランク』にしたのは、『中身がない』っていう意味ではなく、『タイトルに何もない状態』、つまり『宛名がない封筒』っていうイメージでつけたからで。宛先は考えず、とりあえず自分達のすべてを詰め込むことに集約したアルバムです。本当に、これまでで一番無心に作れたアルバムかもしれない。初期の“NEW ERA”もそうですけど、Nulbarichになってから作ったものは、『これから行くぞ』っていうようなことを歌っているものが多くて。今思うと、(自分のバンドを組むのは)初めてだったので認めてもらいたいっていう欲と、自分達のやりたいことをやりたいっていう気持ちのバランスを探すような意識が、どこかで働いていたのかなって思うんです。でも、今回は本当にそういう気持ちがゼロだった。『作りたい曲を作る』っていうマインド以外はなくしていたし、楽曲の宛先を決めなかったからこそ一番自由に書けました」

■節操のない言い方をすれば、日本の中で売れなきゃいけないっていう気持ちと、でも自分のフェチな部分も失っちゃいけないっていう、そこの天秤の図り方を凄く考えながら作ってきた方だと思うんですよね。

「日本で生まれて日本で育っているんで、普通に生きてれば自然と邦楽が耳に入ってくるじゃないですか。そういう自然と邦楽を取り込んできた自分と、好きで洋楽を聴いてきた自分っていうのがセパレートされていたんで、どっかで勝手に動くスイッチがあったのかもしれないですね。でも、自分が好きなメロディを作っていく中で、こっちのほうが気持ちいいなと思うものがJ-POPっぽいものも多かったのは事実で。その上2018年は本当にインプットが多かった1年で、ツアーも規模を上げてやらせてもらったり、単独で武道館公演をやらせてもらったり、ポッと思いつきで海外で制作させてもらったり、豊富な経験をさせてもらった1年だったので。自分の中の正解、不正解の判断が少しずつ進化している感じはしました。それで表現の幅も広がったのかなと思います。今回は音楽性の幅、ジャンル感の幅が広まって、いわゆるワールド・スタンダードの音をしっかりと取り入れていったアルバムにはなったかなと思います」

■まさに。“Toy Plane”をはじめ、トラップを取り入れたソングライティングが発揮された作品にもなっています。何故そういう制作に踏み込めたんだと思いますか。

「なんでだろうなぁ。まあトラップ要素に関しては、純粋に好きだからっていうことなんですけど。でも、敢えてやってこなかったものとかも、振り切ってちゃんとやろうよっていう気持ちはありました。それこそトラップで言うと、今まではバンドで再現する時に、これやっちゃうのはどうなんだろう?とか、懸念していた部分も結構あったんです。でも、もうバンドとトラックの表現はシームレスになってきているから。ここ避ける理由はまったくないなと」

■そういう時代ですよね。

「トラック・スタイルの人達がバンドを混ぜながらライヴをするんだから、バンドもトラップやっていいでしょ?っていう。作品としては今までよりもよりグッド・ミュージックが揃ったものになったし、みんながワーっとなっているものを想像できるものにフォーカスしていったものが多いかな」

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text by黒田隆太朗

『MUSICA2月号 Vol.142』

Posted on 2019.01.28 by MUSICA編集部

孤独に加速する焦燥と見知らぬ他者と分かち合う喜び、
見失う自分と夢を見る自分、世界への違和感と愛おしさ、
今を手放し踏み出す怖さとまだ見ぬ明日への好奇心――
新たな才能、Eve。『おとぎ』と彼の背景を解き明かす

 

居心地がいいと、そこから離れたくないじゃないですか。
だけど本当にそれでいいのか?っていうのは自分の中にあって
不安なことも多かったりするんですけど、でもこの夜を越えて明日を
迎えてみたら、自分の中に新しい感情が芽生えるかもしれないぞって

『MUSICA2月号 Vol.142』より引用

(前略)

■『文化』に収録されていた“ドラマツルギー”という曲で<ずっと僕は 何者にもなれないで>と歌っていたり、“会心劇”という曲では<“己の感情と向き合ってるのかい”/そうやって僕を取り戻すのだろう>という言葉も歌われていましたよね。そもそもの始まりとして、自分というものを取り戻したい、自分というものが何者であるのかを知りたい、あるいは何者かになりたいという気持ちが、歌い手から自分でこうやって詞曲を作って歌を歌っていくようになった大きな理由としてあったんでしょうか。

「一番最初は僕はずっとカヴァーを上げていて、そこから始まったんですけど。最初は趣味のような、友達に勧められて友達の家で機材を借りて歌って、それをネットに上げて反応がもらえるっていう、それが凄く面白くて楽しくてっていう、ほんとそれぐらいのきっかけで始まってて。それが気づいたらライヴをするようになって、気づいたら同人でCDを出すようになって………始めた頃は自分がそんなことするなんてまったく思ってもなかったことだったんですけど、でも、それはそれで凄く楽しかったんですよね。で、何人かで集まってライヴをするようになっていった中で、2年前かな(2016年)、ワンマンライヴをすることになって。当時はまだ曲とかあんまり作ってない頃だったので、ほとんどカヴァーでライヴをしたんですけど、その時に違和感みたいなものが凄くあったんです。お客さんが目の前にたくさんいて、しかもワンマンで、たくさんの人が自分のことを観にきていて、自分はステージで歌っていて………だけど、その時にお客さんの表情を見ながら、この人達はきっと僕の声だったり歌い方だったり、もしかしたら僕自身に対して何か興味を持ってくれて観にきてくれているけど、でもカヴァーって要は他人の曲なので、僕は他人の言葉を借りて自分の声に乗せて歌っているだけなわけで………それをステージで歌ってる時になんか凄く違和感があって、それがどんどん強くなって」

■その違和感の正体はなんだったんだと思いますか。

「この人達はきっと僕の声も含めて外側というか、そういう部分を好いてくれてるんだろうけど、でも僕のもっと内側の部分、僕の心の中にある、たとえばヒリヒリしたようなところは何も知らないんだよなって思って………そういう部分も知って欲しかったから(自身が作詞作曲した歌を歌うということを)始めたんだろうなって思います」

(中略)

■“僕らまだアンダーグラウンド”では<手放したんだっていいさ 最低な夜を越えようぜ/まだ見ぬ世界を潜っていける>と歌ってますけど、今いる場所を飛び出していこうという感覚がこのアルバムには強い。自分ではどうしてそういう心情になったんだろうなと思いますか?

「いろんな要素があると思うんですけど、自分の中に生まれてきている前に進もうっていうこの感覚は、一番は自分の好奇心から来ているものだなと思っていて。……今自分がいる場所って、凄く居心地がいいんですよ」

■はい。

「居心地がいいと、そこから離れたくないじゃないですか。だけど、ほんとにそれでいいのか?っていうのは自分の中にあって。……明日のことだったりもっと先のことだったりを考えてると、どうしても不安なことも多かったりするんですけど。どっちかっていうと過去のことを振り返っているほうがラク――思い出っていうのは美化されるものであるっていうことも含めて、過去を振り返るほうがきっとラクだし、きっと凄く居心地もいい。だけど、まだ明日っていうものもその先もどういうものか自分にはまったくわからないし、どういう方向に進んで行きたいかっていうことすらも自分でもわからないんですけど、ただ、この夜を越えて明日を迎えようぜって、迎えてみたら自分の中にまた新しい感情が芽生えるかもしれないぞって、それは凄く思ったし。………僕は曲を作って聴いてもらう度に、自分の中にいろんな新しい感情が生まれてるなって思うんです。曲を作ったりMVを作ったりすること、そしてそれを聴いたり観たりした人からの反応によって、自分の中にどんどんいろんな感情が入ってきて、いろんな新しい感情が生まれて……きっとそれによって、よくも悪くも自分が生まれ変わっていくんだなっていうのは強く感じてるし、そうなりたいと思う節があるんですよね」

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text by有泉智子

『MUSICA2月号 Vol.142』

Posted on 2019.01.28 by MUSICA編集部

カッティングエッジなセンスを持った巨大な才能と
メインストリームを撃ち抜く野心。
新たな世代による次代の音楽カルチャーが真の自由を
勝ち獲るための鍵を握る最重要バンド、King Gnu!

 

撮影=岡田貴之

世界の流れと日本が圧倒的に違うからだよ。
日本のメジャーレーベルが売ろうとしてるものに
そもそも相容れないというか、
そこに対して中指立てるのは極めて自然な流れだと思う

『MUSICA2月号 Vol.142』より引用

(前略)

■1年前とは状況が全然違うと思うし、そのスピード感も異常に速いわけですよ。そういう1年を過ごす中でその沸々としたものはどう変化してきてるの?

新井「あー……けど、言うてもまだまだじゃないですかね、っていうのは絶対的にあるんですけど、ただやっと追いついてき始めたなっていう実感はありますけど。対バンする相手も質のいいアーティストになってますし。好き嫌いは置いといて、伝わるものだったりコンセプトだったりスタイルだったりがわかる、そういう人達とやることが増えてきたから、それに対するストレスは少なくなってはきてますけど」

■逆に言うと、好き嫌いは置いておいて認めざるを得ないものが目の前に出てくるようになった時、自分達はどう勝っていきたい、あるいはどうひっくり返していきたいって思ってるんですか?

新井「でもそこは変わらずですね。ここまで上がってきて、前よりはいろんなバンドだったりシーンに対する理解が深まってきてる中で、最初に思ってたこのバンドの強みに勝ててるバンドっていないと思ってるんで」

■和輝くんが考えるこのバンドの強みってどこにあるの?

新井「みんなが思ってくれてることはもちろんですけど、King Gnu って矛盾点っていうのを内包できたまま成り立ってるんですよね。そもそも成り立ちも矛盾してるというか、セッション・シーンにいたけどオーヴァーグラウンドに行こうとしたわけで。しかも、俺と遊は同じサイドだったけど、大希はまたちょっと違うサイドにいたところからオーヴァーグラウンドに出ようとして、理もまた違うところから出てるし。その中でいろいろ混ざってて――だからサウンドとポップとの矛盾だったり、ツインヴォーカルにしてもある種の矛盾を孕んでるし、そういうの全部内包したまま成立してるっていう。しかも、それでいて歌詞がストレートだったり」

■サウンドにしても、黒い要素と現代音楽的なエクスペリメンタルなものと、他にもあらゆる角度のものが混ざってたり。

新井「そうそう。そういうカウンターというか、本来、相容れないものがいくつも入ってるバンドって、他のバンドにはほぼないと思うんですね。『こういうところにいてこれが好きだからこうなってます』みたいな、いわゆる順当なルーツの在り方のバンドがほとんどな中で、King Gnuはどこを切り取ってもいくつもの要素がある。この成り立ちでここまでなって、かつこういうスタンスでやってるバンドっていうところがもう他とは違うかな。そこは絶対的に自信あるというか、事実というか」

■そしてそこが決定的に新しいところだと思います。

新井「だと思います」

■常田くんはそういうカオス感は曲を作る時にどれくらい意識するの?

常田「そもそも自分が作る音楽に関して、矛盾がないものに面白みを感じないので。別にブラックミュージックをやろうって話でもないし」

■そもそも矛盾がないものに魅力を感じない、自分の音楽の中ではいろんなものがある種カオスにぶつかり合っていくし、それでいて美しく調和するみたいな、その美学っていつぐらいに生まれたんですか?

勢喜「大希見てると、それはもうずっとある気がする」

常田「うん、ほんと昔からそこは徹底して……たとえばすげえイカついビートでも、いわゆる西洋音楽の文脈のサウンドは入れてたり。やっぱ、そういうところでしか音楽とか芸術っていうものは発展していかないし。そこに関しては本当に初期から変わらず。調合とか出す面を変えてるだけ」

(中略)

■私はこの十数年で今が一番面白いと思ってて。もちろんその時々に面白いことはあったけど、今のKing Gnu世代や20代前半のバンドやアーティスト、ラッパーを見てると音楽的な部分におけるハングリー精神とカウンター精神が凄く強いし、実際届いてくる音も変わってきてる。日本ってもう長らくオルタナティヴな音楽、アンダーグラウンドな音楽とメジャーな音楽が混ざる瞬間が凄く少なかったし、その断絶が大きかったんだけど。

常田「いやー、ほんとそう。それが日本のメジャーレーベルの愚行というか、戦犯というか。俺らみたいなちょっと血の気の多い若者達は世界の音楽シーンではいろんな新しいことが起きてるのにって思ってると思う……だから日本のメジャーレーベルが売ろうとしてるものにそもそも相容れないというか、基本的にそこに対して中指立てるというのは極めて自然な流れだと思う。あまりに二極化してるんで。一方が規模が小さくて、一方はもう違う業界みたいな、いまだにそういう体質が残ってるわけで。だからアンダーグラウンドが栄えてるようで栄えてないからみんな頑張ってるって感じだと思いますよね」

新井「理がどっかのインタヴューで、“Slumberland”をリード曲にしてるこのアルバムが凄い売れた時に何か世界が変わるんじゃないかみたいなことを言ってたんですけど、それってそういう部分なのかなって思いますね。これが売れた時に何かが起こるっていうか」

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text by有泉智子

『MUSICA2月号 Vol.142』

Posted on 2019.01.28 by MUSICA編集部

大胆かつエキサイティングに未知なる挑戦へと踏み出し、
ジャンルでも時代性でもなく星野源の音楽を革新することで
そのすべてを更新した鮮烈な大傑作『POP VIRUS』。
その核と背景を、アルバム楽曲解説と共に深く紐解く!

 

撮影=佐藤航嗣

「この世はもうどうしようもないな」みたいな感じがどんどん強くなってきて。
でも、僕が星野源として世の中に残していきたいのはクソではなく、
クソみたいな世の中にある愛なんだなって

『MUSICA1月号 Vol.141』より引用

(前略)

■もちろん『YELLOW DANCER』というアルバムもご自分にとって凄く新しい挑戦だったと思うんですけど、今回の『POP VIRUS』で踏み込んだ新しさっていうのは、それとはまた違うレベルのものだという気がしていて。今回のアルバムには明確に近年のベースミュージックやトラップ以降のビートや構造が聴こえてくるんだけど、つまり今の世界で現在進行形でどんどん更新されていっているポップミュージックの革新、つまり誰にとっても未知の領域にある挑戦が行われているし、それが果たされていて。ご自分的にはそういう部分は意識したんですか。

「世界の流行みたいなものとか、日々更新していくトレンドみたいなものに挑戦しようとか追いつこうみたいな気持ちは、ほとんどないですね。ただ、この感覚は『今』なんだっていうのは凄くわかるし、その『今』をやるんだっていう気持ちは凄くあって。で、それは世界にとっての今の音楽っていうことではなく、日本にとっての今をやるんだっていうこと――日本の音楽シーンの今の流行をっていうことではなく、日本の今の空気をやるんだっていう意味なんです。その気持ちは凄く強くあって」

■はい。

「だからどちらかというと、ただ自分の好きなものをやる、そして今自分の好きなものは、今自分が表現したいものとの親和性が高いぞっていう、その一点っていう感じです。自分が今この音楽すげえ好きだなとか、こういう音すげえいいなとか、これヤベえなって思うものには共通するものがあって、その共通するものの中で、これは自分のフィルターをしっかり通せるだろうって思う音楽、これはちゃんと自分のモノとして表現できるのではないかって思う音楽をやっていった……っていう感じ。だから“恋”とか“肌”とか“Continues”とかを『YELLOW DANCER』の流れで考えてくれる人も多いとは思うんですけど、自分の中ではこのアルバムの根底にある共通項を持った曲としてここに選んでるんですよね」

■その共通項っていうのをあえて言葉にすると?

「もの凄く簡単に言っちゃうとブラックミュージックっていうことになってくるんですけど、ただ、たとえばソウルにしても、60年代末から70年代初めの頃の感じとか、ネオソウルの感じとか、2017年頃の感じとか、いろいろあるじゃないですか。ベースミュージックにしても、ひと口にベースミュージックって言ってもその中にはフューチャーベースもあればトラップもあればドラムンベースもあれば、みたいにいろんな種類があるし。しかもその周りにはさらに大きいヒップホップっていうものがあって、で、ヒップホップとソウルの周りにはもっと広くR&Bみたいなものがあって、さらにそこを辿ればジャズとかブルースがあって……みたいな」

■言ってみれば、単純なマトリョーシカじゃなくて、巨大なマトリョーシカの中に複数のマトリョーシカが入ってるみたいな感じだよね。カパッと開けたら単にひと回り小さな人形があるっていうんじゃなく、カパッと開けたところにもう2体も3体も入ってて、その2体、3体を開けたらまたそれぞれの中に複数入ってる、みたいな。大きな流れの中で様々なサブジャンルが入れ子構造で発展してきているというか。

「そうそうそう。で、そこには根底に何か共通項があるんですよね。だから今のトレンド云々ではなく、自分が好きなものの大きな流れの中に通底している自分が感じる共通項みたいなものを、ちゃんとアルバムとして表現したいなと思って」

(中略)

■お話を聞いていると、ご自分の心に合うということと共に、「日本の今の空気に合う」というのがポイントとしてあったということですけど。そうなった時に、ベースミュージックが今のこの国に合うと感じたのは、どんな根拠というか、どんなところにビビッと来たからなんですか。

「これはちょっと批判になっちゃうかもしれないんですけど、ほんとに日本って悪い意味でグチャグチャだと思うんですよね、音楽の聴かれ方とかリテラシーとかファン層が。音楽番組を観ててもそういう感じがあると思うんです。多様性があっていいねっていうことじゃなく、みんながその違いをあんまり受け取れていないままどんどん垂れ流されてる感じというか。観てる側が『このジャンルで来たな、いいな』って感じられてない、全部が同じように受け取られてるんだけど中身はグチャグチャ、みたいな。その感じが僕は凄く気持ち悪いなって思ってて」

■この号のKing Gnuの常田大希くんのインタヴューで、自分がどんな意図でどんな音楽的エッセンスを入れ込んでも結局みんな受け取られ方が一緒というか、やっぱりそこしか聴いてないんだっていう感覚の受け取られ方をしてしまうっていう話があったんだけど、その側面はありますよね。

「そう。音楽をそのままの音楽として受け取れる人ってこの国にいるのかな?って感じる。絶望的な気持ちになる。でも、そうなっていく要因のひとつとしては、海外の流行を日本の作り手側が表面的な引用しかしていないからっていうのがあると感じてて。たとえばフューチャーベース的な音って今の日本でも世間的に鳴ってると思うんだけど、やっぱり世界的に流行ってるものの後追いでしかないというか、表層的にしか取り入れてないものがあまりに多いなと思うし。海外のムーヴメントを日本でも起こすのだ!っていう気概はとても素敵だと思うけど、でも表面のジャンル感だけ真似るんじゃなくて日本人として発信しないとつまらないし、それって日本の空気じゃないよなって思う。でも、俺はフューチャーベース含め、海外のベースミュージック、ビートミュージックの本物達が大好きだし、しかもその感覚を自分の音楽、自分の心の感覚と絶対に合うはず!っていう確信があったから。その確信の下、どうやったら海外の真似ごとではない、これが今の日本の空気に絶対に合うんだっていうものにできるのかっていう挑戦をしていった感じかな。だから今回は、ビートはもちろん、ノイズをなるべく丁寧に出したいなっていう気持ちがあって。“Pop Virus”とかのビャーッていうノイズも含め、あとはヂリヂリヂリヂリって微かに聴こえるノイズとか、サーッていう音とか」

■グリッチノイズ的なものも多用されてますもんね。ローが鳴った時に発生する微かなノイズみたいなのも大事にされてるし。

「そうですね。そういうものが今の日本の空気感だと思ったんですよね。もちろん、自分が好きだっていうのが一番ではあるんだけど」

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA1月号 Vol.141』

Posted on 2019.01.28 by MUSICA編集部

新作『これからの麺カタコッテリの話をしよう』の
すべてを解き明かすスペシャル・コッテリ・ブック!
マキシマムザ亮君による新作こだわりインタヴューと、
4人全員での振り返りインタヴューの2本立て特集!

 

#1 これからの音楽とクリエイティヴの話を亮君としよう

(前略)

■現実的に亮君は『Deka Vs Deka』を作るために自分で1,000万出してるし、そしてお金以上に労力をかけてるわけじゃない? その上で今回のパッケージも、やっぱりまた音源以外にも激しく労力をかけてクリエイティヴをしてる。そこまでするのは何故なんですか。

「深い意味はそんなにないんですけど、僕の中では全部がロックなんですよ。『Deka Vs Deka』もゲームも含めて、全部ロックなんです。CD屋さんに行ってジャケ買いしたとか、試聴機で知って買ったとか、帰りの電車の中で封を開けて解説読んだとか、そういう行動も、紙の匂いとか、パッケージ開けた時の匂いとかすべての思い出全部含めてCDでありロックの一部なんです、僕の中では。たとえばホルモンのライヴでも、MCでライヴに関係ないことあのふたり喋るじゃないですか。けど、あの関係ないMCも含めてホルモンのライヴだし、ホルモンの音楽なんですよ。それと一緒で、パッケージも帯も漫画も全部がホルモンというロックのつもりでやってて。……ホルモンの音楽ってそもそもそう、自分がやりたいものが全部入ってるんですよね。音楽としてもこのスタイルでいろいろミックスされていて――太麺も入ってれば細麺も入ってれば、味噌味も入ってれば醤油味も入ってて。普通そういうのってお客さんが選ぶじゃないですか。自分は細麺がいいなとか、醤油が好き、トカ。でも僕は塩も豚骨も味噌も醤油も好きだから全部入れて出す!みたいな感じ。それがホルモンの音楽で。でも今回に関しては、そこプラス、割り箸も僕の中ではラーメンだし、座る椅子とかテーブルとかおしぼりとか、店に置かれて手垢や油で汚くなった『美味しんぼ』も含めてすべてがラーメンなんだ!みたいな気持ちと同じ考え方で作ってるというか。だからラーメンだけじゃなく、それらもすべて自分で全部作って味わってもらいたい!という。これからはラーメンだけでなく、それに関わるすべても麺カタコッテリなんだぜって、宣言でもある」

(略)

■話を戻すと、亮君は今回、やっぱり配信にもサブスクにも行かなかったし、行かなかったことを凄く強く主張してる。ここにはどれだけのどんな想いが込められてるんですか?

「まだ(ダウンロードやストリーミングで出すことに)魅力がないからかな。なんか薄まっちゃう気がしてて。僕がラーメン屋だとして『はいお待たせ!』ってでき立ての熱々をカウンターで食わせるのと変わらぬ、同じ美味いものがカップラーメンでも作れるのなら、全然コンビニで売るのもアリな考えなんです。でも今はまだ、どうしてもカップラーメンにした時に味が変わっちゃうじゃないですか。味が変わらないシステムがあるんだったら僕はバンバン自分の作品をカップラーメンにしたいです。そっちのほうがみんな買いやすいし、食いやすいし。ネット配信のほうが面白いことできるんだったら、確かにそっちのほうが便利なんですよ。だから別に懐古主義で固執してるわけではないんです。一番大事なのはどれだけ美味しいものを食わせるかってことなんで。けど、食わせる時に薄まっちゃうのが嫌なんですよね。薄まらずに直接食わせられるんだったら配信でも全然いいんですけど。……結局ほんとの夢を語ると、僕は『亮君フォン』を作りたいですもん。それでソフトバンクとかドコモとかを倒したいですよね。『ホルモンってバンドよく知らないけどこっちのスマホのほうが面白いしすげえ使い易い』みたいな感じで亮君フォンが番狂わせ起こして世界に普及して、しかも亮君フォンにすればホルモンの新曲もでき立てがすぐに最高の音で届けられ、直接僕が電話で解説する!みたいな(笑)。そんなのが夢だなぁ」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA1月号 Vol.141』

 

#2 これまでの麺カタコッテリの話を4人とタナケンでしよう

■内心どこまでメジャーに夢を持って飛び込んで行ったんですか?

ダイスケはん「ドリームの話ですか?」

上ちゃん「英語で言っただけ(笑)」

ダイスケはん「『ロック番狂わせ』出して、しばらくは八王子のライヴハウスでバイトしてましたよ。当時、凛として時雨とか、あとGOOD 4 NOTHINGとかLOST IN TIME とかがライヴしてました。その時に僕は受付でチケットもぎりとかしてましたから」

ナヲ「みんな働いてたよね。私も介護のバイトしてたもん」

上ちゃん「僕も介護」

■亮君は、みんなに働いてもらってしこたま曲作ってたんだ?

亮君「パチンコしてました、僕は」

全員「ははははははははははははははははは」

ナヲ「最低っ!! 」

亮君「パチプロでした」

ダイスケはん「それ夢! ドリーマー!」

亮君「夢追い人」

ナヲ「亮は、クレジットカードの審査の時に職業欄に書くことなくて『夢追い人』って書いてたからね(笑)」

ダイスケはん「審査通ったん、それ?」

全員「はははははははははははははははははは!」

ダイスケはん「でもVAP っていうてもメジャーじゃないですか。なのに周りの人には伝わらなかったんですよ。『どこからメジャー行くんやっけ?』って。ソニーとか東芝とかじゃなくてVAP って言うと、『ん?』って結構ありました。僕は個人的に子供の時に見てたテレビ番組の『魔神英雄伝ワタル』がVAPから発売されてたからVAP っていう名前は知ってましたけど。だからVAP入ってよかったなと思うのは、そういう映像系のものをサンプルでいただけるっていうことで。ガースー人形とかがVAPのビルに置いてあって、あれはワクワクしたなぁ」

ナヲ「でも、いわゆるキャンペーンで大阪とか北海道とか各地に行って、ラジオの番組出たりとか地方紙のインタヴュー受けたりとかっていうのは今までなかったからね、メジャーっぽかったかもね」

亮君「そういうプロモーションはインディよりも全然よくなったし、でもスタンスはインディーズのままだったから。友達のバンドがみんなソニーだったりして、ザ・メジャーでちょっと縛りが多かったり、歌詞も変えたりとかよく聞いてたんだけど、こっちは口出す大人がいなくて自由にインディーズのスタンスでやれるっていうのは当時から実はおっきくて」

■結局いいこと尽くしじゃないですか。

亮君「そうなんですよ。だから本当にVAP には感謝してて、この振り返りインタヴューを急に思いついたのも、VAPが大好きだからなんです。『そのスタンスだからこそ芽が出てきたのはタナケンのおかげ』って、本人自身がずっと言ってるけど」

タナケン「いや! とにかくホルモンに関しては、上にいろいろ報告をしなかったんですよ」

全員「ははははははは!」

(中略)

タナケン「あの時のことは今でも覚えてるんだけど『ロッキンポ殺し』の時――レコーディングって歌詞を確認するんですけど――指摘されたところが106ヵ所あって」

全員「はははははははははははははははははは!」

タナケン「104 ヵ所は撃退したんですけど、堅あげチップスと――」

亮君「あと川北サリン」

■あー、そりゃ無理だ。

亮君「サリンを猿員(“川北猿員”)に変えたり、あと<やらせろ 金玉プロ>っていう歌詞で『金玉』は、金玉だけならセーフだけど、<黙れヤンキー女ビッチ やらせろ金玉>って並ぶとアウトで、初めてホルモンで曲中にピーッ入ってるもんね。あの時はこれがメジャーなのかって思ってショックだったんですけど、今考えてもこりゃ確かにアウトだなと(笑)」

(略)

ダイスケはん「でも変にピーッを入れたり、×入れるのもそうやし、逆に目立つっていうことが、『包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ/霊霊霊霊霊霊霊霊魔魔魔魔魔魔魔魔』とかでわかって」

亮君「結果、バツマーク入れてよかったもんね」

上ちゃん「あれめちゃくちゃよかったね。あの包丁とかも当時の世相でどうしても――」

亮君「当時、包丁事件があってね。危険なワードだったから×をしようって言われたんですよ」

ナヲ「最初『は?? なにそれー!!(怒)』ってね」

亮君「×つけて言葉を少しでも隠せってことで。でも刃物なんか使うな!ってそういう曲の意図にも繋がって、結果、メッセージ性もあって見た目的にもインパクト出てよかった」

■そういう狂暴なバンド扱いされてるのは楽しかったんですか?

亮君「まぁ……ちょっと……楽しかった(笑)」

ナヲ「でも見てくださいよ! 1個も狂暴じゃないでしょ、我々」

■そうね(笑)。

亮君「愛情たっぷり育てられたいい子達♡」

ナヲ「こんな育ちのいい子いないですよ!」

■えーっと。タナケンにとって、デビュー直後のホルモンはおつき合いしやすいバンドだったんですか?

タナケン「まずデビューシングル的な『ロック番狂わせ』の時に、いきなり特典DVD4種類っていう」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA1月号 Vol.141』

Posted on 2019.01.28 by MUSICA編集部

遂にソロとしての本道を極めたアルバム『JAPRISON』。
海外動向含め、今こそラッパーとしての自我と自負、
ポップミュージックへの決着と挑戦を果たしにいった
SKY-HIの覚悟を徹底的に語り尽くすバックカバー特集!

 

撮影=浜崎昭匡

鎖国が終わるようなタイミングでちゃんと幕末の志士達がいるのを見たら、
なんのために俺は今まで刀を磨いてきたのかって思った。まさに
こういう時のために磨いて来たのかもしれない、そういう覚悟はあった

『MUSICA1月号 Vol.141』より引用

(前略)

「今のアジアのラップミュージックってほんと群雄割拠で、めちゃくちゃ面白いんですよね。ほんと戦国時代みたい。それに対して俺自身もワクワクしてるんだけど、じゃあ日本は?ってなった時に、KOHHが筆頭でありつつSALUとかJP THE WAVYの名前は聞いて。やっぱヨーロッパとかツアーに行くとKOHHのほうが俺より全然認知度高いし。そういうのとかを海外で体感しつつ日本に帰ってきた時に、今までのことが嘘かのように空気が全然違うっていうのを感じて。自分は日本で生まれ、日本で育ってるから居心地のいいものであるとも同時に、文化的とか精神的なものでのみ言えば、閉塞感とか息苦しさも凄く感じて。芸能人もそうだけど日本で音楽やってる人でやりづらさみたいなものを口にしない人がほぼいないというか。特に若い世代はそう。こういうこと言っちゃいけない、しちゃいけない、とかもそうだし………とかが全部混ざって今回タイトルを『JAPRISON』にしたんです。(2018年夏に出したミックステープ)『FREE TOKYO』の時はもっと閉塞感のほうが強かったんですよ。あの時はもっとFREE TOKYO!って感じだったんだけど、でもそれを踏まえて今回の『JAPRISON』では『Japanese rap is on!』っていう気持ちも込められた。いたたまれない気持ちもいっぱいあるんだけど、絶対前向きなものにしようと思ってタイトルから作りました。なのでサウンド的にも現行のスタイルを踏襲してるんだけど、日本のリスナーが聴いた時に、その閉塞感から救えるものは何かな?って考えたら、それってやっぱ何かしらの前向きなエネルギーだと思うんで。俺は今回、それを対社会、対多数にしないで、対個人への歌に終始したかったんですよね。ってことを考えて作り始めていく中で、何が大きな鍵かって言うと結局は自分自身だっていうことにアルバム制作の序盤で気づいて。だから歌詞に関して言えばそこをいかに闘うかっていう話なんだけど、サウンドに関しては今話したような流れでできてるから、今までで一番現行の音楽シーン(海外のラップシーン)と距離が近いんだと思います」

(中略)

■『FREE TOKYO』のタイトル曲のリリックにはKOHHやSALU、PUNPEEやBAD HOPといった日本の今のラッパーやクルーの名前が並んでたわけですけど、今は確実にそういう日本のラッパー達が新しく作っている状況があるし、かつ、自分自身もSKY-HIとしてキャリアを重ねてきた中で、音楽シーンに対してそう言える地点まで来れたっていう、その両方の気持ちがJapanese rap is on=『JAPARISON』という言葉に表れてるんじゃないかなと思ったんだけど。

「それはあると思います。僕、帰属意識が本当に嫌いで。というか、嫌いにならざるを得ない成り立ちだったっていうか。自分のキャリアは『何々だから』っていう偏見で嫌われることばかりをずっとしてきた歴史なので。『AAAだから』とか『ラッパーだから』とか、あるいはラッパーとしても『ポップなこともやってるから』とか―――最後に関しては自分が出したものに対するリアクションだからいいかもしんないけど。けど、ちゃんと聴かない人からの偏見みたいなのはずっとあったから、それは本当に嫌で。そういうのも含めて帰属意識っていうのが凄く嫌だったんだけど。自分自身も、ラップとかヒップホップ好きであればあるほど、ヒップホップの代表みたいな感覚もなんかしっくり来ないし、逆にAAAをずっとやってくる中でも、あの手のダンス&ヴォーカル・グループが長く続くのは結構大変で。調停役が必要だから、俺はある種の献身と自己犠牲じゃないけど、エゴを殺してずっとそれをやってきたっていう自負もプライドもあるんだけど。だからこそ、その延長のソロプロジェクトって言われるのも嫌だったし。Mummy-Dが<俺はどこにも馴染めない/借りてきたフンドシは締めない/ハミ出した部分は隠さない オレの仕事は本場モンの翻訳じゃない>(RHYMESTERの“グレイゾーン”)って言ってましたけど(笑)、ほんと、どこにも馴染めねぇなって感覚はずっとあるんですよね。どの場所も居心地は悪くないけど、俺の居場所っていうものではないなっていうのはずっと思ってた。けど、世代が近い人達にアテられたっていうのは正直あるかも。SALUとかKOHHとかにアテられたっていう言葉が近いのかな」

■触発されたってこと?

「うん。触発された、に近いですね。俺くらいの年齢で小学生の時って、日本で一番売れてる存在ってGLAYとかB’zとか小室哲哉とかだったんですよ。そういう人達がミュージックステーションに出てて。一方でニッチと言われるものは、たとえどんだけカッコよくてもそこにはエントリーされない……わかりやすいたとえを出すと、それこそエイベックスの人とかに悪気なく『日本だとこういうの売れないよ』って言われてし(笑)。それが通説としてあったんだけど、その時代が変わろうとしてるのを肌で感じている今、つまり鎖国が終わるようなタイミングでちゃんと幕末の志士達がいるのを見たら、なんのために俺は今まで刀を磨いてきたのかって思ったんですよ。まさにこういう時のために磨いて来たのかもしれないっていう、そういう覚悟はあったのかもしれない」

(続きは本誌をチェック!

text by鹿野 淳

『MUSICA1月号 Vol.141』

Posted on 2019.01.28 by MUSICA編集部

強い野心と覚悟、それを成し遂げ得るだけの巨大な才能。
この世代が、何より自分自身が真の自由を勝ち獲るために。
2020年代へのカギを握る最重要バンド、King Gnu。
彼らのアルバム『Sympa』が2019年の新たな扉を開く

 

撮影=岡田貴之

何か今とは違う仕組みを作らないと、自由でぶっ飛んだ発想のものが
日本から生まれていかない。そういう意味でもKing Gnuは、
俺にとって自由になるための最重要プロジェクトなんですよね

『MUSICA1月号 Vol.141』より引用

(前略)

「(“Slumberland”をリード曲にしたことに関して)俺達の持ち場のモノでデビューしようぜっていう男気はメンバーの男気というか。ただ、だからこれでドーンと浮上するかはわかんないですけどね。(略)だって音楽の歴史においてこれが絶対に意味がある、世界で見ても絶対面白いと思われるんじゃないか、みたいなこととJ-POPってちょっと違うじゃん」

■そうね、それはわかる。

「2000年から2010年のヒットチャートを見ても、ほぼ同じやん!っていう。メロディとかほぼ同じで、これをパクリとかパクリじゃないとかもしょうもないぐらい似てんのに……っていうのしかない業界だから、基本的に。そりゃ迷いますよ。ただ、そこにDragon Ashとかがそこにポンと入ってるのがめちゃめちゃカッケーな、みたいな」

■私もそう思うし、自分が信じるもので勝たなきゃ意味がないよ。

「だし、こいつら自分達で『ヤベえ、これカッケーじゃん!』って自信持ってやってるなっていう感じって、絶対にマスにカッコいい。そういうエネルギーをなくしちゃいけないなと、遊の言葉で俺は我に返った(笑)」

■でも自覚的だったからこそ“Slumberland”を作ったわけでしょ。

「そうね、たとえリードじゃなくても今回絶対入れようって思ってた。だし、同時に“The hole”という鬼のように暗いバラードをこういうバンドが出すのもめちゃめちゃ攻めてるなって思うし。だから売れるためにダサいものをやっていくことは絶対ない。今後もあくまで自分のいいと思うもの、許せるものであり続ける……っていう軸の強さは異常なほど強いとは思う。たださ、俺は他のバンドのコンポーザーより筆が異常に多いと思うから」

■そうだよね。DTMP含め、本当に幅広い音楽性を持ってますよね。

「だから余計コンフューズするっていうのもあるかもしれない。要はめちゃめちゃ現代的なのも知ってるし、そっちのヤツらが言ってることも知ってるし。俺は基本的にはめちゃめちゃコアな、J-POPと無縁のヤツらの中で育ってきたから、そいつらも納得させたいし、ナメられたくないし。けどKing GnuっていうのはJ-POPシーンに殴り込みをかけなきゃいけないと思ってやってるから。そういう意味では客も増やしてデカくなって勝たなきゃいけないっていうのもある。だから人より翻弄される要素が多い」

■J-POPシーンにちゃんと殴り込みをかけようって常田くんに決意させたものはなんだったの?

「そうしないと金が稼げない(笑)」

■ははははははははははは、リアルな発言来た!

「いやいや、めちゃめちゃ金がないから! 俺ら周りで音楽で稼いでるヤツなんて基本的にいないから。だからある意味、そいつらも背負ってる」

■そうだよね。

「うん。そういうのもあるから。だからほんと難しいことしてると自分で思ってるし。……俺はヒットメイクしようと思ったら、自分の名前を伏せて誰かを売ることに特化してやる、みたいなこともできると思うんだけど」

■職業作家とかプロデューサー的な話ね。だけどそこであえて自分の名前を出し、ツラも出し。

「そうそうそう」

■で、自分が元々育ってる場所のヤツらもちゃんと背負い。

「背負い。その上でデカく売れなきゃいけない」

■っていうふうに決意したのは何故なんだったんですか? そこにあるものはなんなの?

「自分を変えずに金を稼ぎたいっていうのが、前提としてはある。自分もカッコいいと思えるもので稼ぎたいっていうのは間違いなくある。(略)やっぱアイデアが凄くいろいろあるわけですよ、King Gnu以外にもね。で、有名になった時の動きやすさって絶対あるからね。たとえば日本でBrainfeederみたいなやつが生まれるかと言ったら、俺は生まれないと思う」

■現状のままではね。

「そう。たとえそのアーティストがほんとに時代を見て突けるヤツだったとしても、日本の業界はフックアップしてくんないし」

■Flying Lotusと同じだけの才能とアイデアを持った人が出てきても――。

「あの規模では動けないし、サポートしてくれる業界もない。だからやっぱり、俺はデカくならなきゃいけない、そういうアーティストだからこそ。……っていうのが基本的にありますよね。そのためにJ-POPファンも味方につけたい。っていうか味方につけないとデカくなんないし。だからほんと、俺が思い描いてるもののまだ10分の1というか。10年後、『だからああいうことを必死になってこいつらはやってたんだな』ってたぶんみんなが思うはず……そう思われるように動いていきたいとは思ってます。そのための俺の判断として、ここでKing Gnuみたいな方面でデカくなる必要がある。だし、こういうタイプのアーティストになれるヤツって俺は少ないと思うから、だからこそ自分がやらなきゃいけないとも思うし。……やっぱりフックアップしたいアーティストとか、見せ方がわかってないヤツも仲間内にもいっぱいいるんで。そういう意味で、業界全体を変えたいっていうのは根本として圧倒的にあるというか」

■そうだよね。常田くんはこの国の音楽シーンというもの、この国の音楽カルチャーを根っこから引っくり返そうとしてるように見える。

「そこはほんと、全部飲み込んで潰してやりたいと思ってますよ。そのためにKing Gnuがある。だから向き合うことももちろん山ほど増える。だからコンフューズして当然といえば当然(笑)。ま、10年後を楽しみにしててくださいっていう感じで。俺が有名になった時に何をするのかって」

■つまり野望はデカい、と。

「野望はたぶん、もう誰よりもデカいね」

(続きは本誌をチェック!

text by有泉智子

『MUSICA1月号 Vol.141』