強い野心と覚悟、それを成し遂げ得るだけの巨大な才能。
この世代が、何より自分自身が真の自由を勝ち獲るために。
2020年代へのカギを握る最重要バンド、King Gnu。
彼らのアルバム『Sympa』が2019年の新たな扉を開く
撮影=岡田貴之
何か今とは違う仕組みを作らないと、自由でぶっ飛んだ発想のものが
日本から生まれていかない。そういう意味でもKing Gnuは、
俺にとって自由になるための最重要プロジェクトなんですよね
(前略)
「(“Slumberland”をリード曲にしたことに関して)俺達の持ち場のモノでデビューしようぜっていう男気はメンバーの男気というか。ただ、だからこれでドーンと浮上するかはわかんないですけどね。(略)だって音楽の歴史においてこれが絶対に意味がある、世界で見ても絶対面白いと思われるんじゃないか、みたいなこととJ-POPってちょっと違うじゃん」
■そうね、それはわかる。
「2000年から2010年のヒットチャートを見ても、ほぼ同じやん!っていう。メロディとかほぼ同じで、これをパクリとかパクリじゃないとかもしょうもないぐらい似てんのに……っていうのしかない業界だから、基本的に。そりゃ迷いますよ。ただ、そこにDragon Ashとかがそこにポンと入ってるのがめちゃめちゃカッケーな、みたいな」
■私もそう思うし、自分が信じるもので勝たなきゃ意味がないよ。
「だし、こいつら自分達で『ヤベえ、これカッケーじゃん!』って自信持ってやってるなっていう感じって、絶対にマスにカッコいい。そういうエネルギーをなくしちゃいけないなと、遊の言葉で俺は我に返った(笑)」
■でも自覚的だったからこそ“Slumberland”を作ったわけでしょ。
「そうね、たとえリードじゃなくても今回絶対入れようって思ってた。だし、同時に“The hole”という鬼のように暗いバラードをこういうバンドが出すのもめちゃめちゃ攻めてるなって思うし。だから売れるためにダサいものをやっていくことは絶対ない。今後もあくまで自分のいいと思うもの、許せるものであり続ける……っていう軸の強さは異常なほど強いとは思う。たださ、俺は他のバンドのコンポーザーより筆が異常に多いと思うから」
■そうだよね。DTMP含め、本当に幅広い音楽性を持ってますよね。
「だから余計コンフューズするっていうのもあるかもしれない。要はめちゃめちゃ現代的なのも知ってるし、そっちのヤツらが言ってることも知ってるし。俺は基本的にはめちゃめちゃコアな、J-POPと無縁のヤツらの中で育ってきたから、そいつらも納得させたいし、ナメられたくないし。けどKing GnuっていうのはJ-POPシーンに殴り込みをかけなきゃいけないと思ってやってるから。そういう意味では客も増やしてデカくなって勝たなきゃいけないっていうのもある。だから人より翻弄される要素が多い」
■J-POPシーンにちゃんと殴り込みをかけようって常田くんに決意させたものはなんだったの?
「そうしないと金が稼げない(笑)」
■ははははははははははは、リアルな発言来た!
「いやいや、めちゃめちゃ金がないから! 俺ら周りで音楽で稼いでるヤツなんて基本的にいないから。だからある意味、そいつらも背負ってる」
■そうだよね。
「うん。そういうのもあるから。だからほんと難しいことしてると自分で思ってるし。……俺はヒットメイクしようと思ったら、自分の名前を伏せて誰かを売ることに特化してやる、みたいなこともできると思うんだけど」
■職業作家とかプロデューサー的な話ね。だけどそこであえて自分の名前を出し、ツラも出し。
「そうそうそう」
■で、自分が元々育ってる場所のヤツらもちゃんと背負い。
「背負い。その上でデカく売れなきゃいけない」
■っていうふうに決意したのは何故なんだったんですか? そこにあるものはなんなの?
「自分を変えずに金を稼ぎたいっていうのが、前提としてはある。自分もカッコいいと思えるもので稼ぎたいっていうのは間違いなくある。(略)やっぱアイデアが凄くいろいろあるわけですよ、King Gnu以外にもね。で、有名になった時の動きやすさって絶対あるからね。たとえば日本でBrainfeederみたいなやつが生まれるかと言ったら、俺は生まれないと思う」
■現状のままではね。
「そう。たとえそのアーティストがほんとに時代を見て突けるヤツだったとしても、日本の業界はフックアップしてくんないし」
■Flying Lotusと同じだけの才能とアイデアを持った人が出てきても――。
「あの規模では動けないし、サポートしてくれる業界もない。だからやっぱり、俺はデカくならなきゃいけない、そういうアーティストだからこそ。……っていうのが基本的にありますよね。そのためにJ-POPファンも味方につけたい。っていうか味方につけないとデカくなんないし。だからほんと、俺が思い描いてるもののまだ10分の1というか。10年後、『だからああいうことを必死になってこいつらはやってたんだな』ってたぶんみんなが思うはず……そう思われるように動いていきたいとは思ってます。そのための俺の判断として、ここでKing Gnuみたいな方面でデカくなる必要がある。だし、こういうタイプのアーティストになれるヤツって俺は少ないと思うから、だからこそ自分がやらなきゃいけないとも思うし。……やっぱりフックアップしたいアーティストとか、見せ方がわかってないヤツも仲間内にもいっぱいいるんで。そういう意味で、業界全体を変えたいっていうのは根本として圧倒的にあるというか」
■そうだよね。常田くんはこの国の音楽シーンというもの、この国の音楽カルチャーを根っこから引っくり返そうとしてるように見える。
「そこはほんと、全部飲み込んで潰してやりたいと思ってますよ。そのためにKing Gnuがある。だから向き合うことももちろん山ほど増える。だからコンフューズして当然といえば当然(笑)。ま、10年後を楽しみにしててくださいっていう感じで。俺が有名になった時に何をするのかって」
■つまり野望はデカい、と。
「野望はたぶん、もう誰よりもデカいね」
(続きは本誌をチェック!)
text by有泉智子