Posted on 2019.01.28 by MUSICA編集部

孤独に加速する焦燥と見知らぬ他者と分かち合う喜び、
見失う自分と夢を見る自分、世界への違和感と愛おしさ、
今を手放し踏み出す怖さとまだ見ぬ明日への好奇心――
新たな才能、Eve。『おとぎ』と彼の背景を解き明かす

 

居心地がいいと、そこから離れたくないじゃないですか。
だけど本当にそれでいいのか?っていうのは自分の中にあって
不安なことも多かったりするんですけど、でもこの夜を越えて明日を
迎えてみたら、自分の中に新しい感情が芽生えるかもしれないぞって

『MUSICA2月号 Vol.142』より引用

(前略)

■『文化』に収録されていた“ドラマツルギー”という曲で<ずっと僕は 何者にもなれないで>と歌っていたり、“会心劇”という曲では<“己の感情と向き合ってるのかい”/そうやって僕を取り戻すのだろう>という言葉も歌われていましたよね。そもそもの始まりとして、自分というものを取り戻したい、自分というものが何者であるのかを知りたい、あるいは何者かになりたいという気持ちが、歌い手から自分でこうやって詞曲を作って歌を歌っていくようになった大きな理由としてあったんでしょうか。

「一番最初は僕はずっとカヴァーを上げていて、そこから始まったんですけど。最初は趣味のような、友達に勧められて友達の家で機材を借りて歌って、それをネットに上げて反応がもらえるっていう、それが凄く面白くて楽しくてっていう、ほんとそれぐらいのきっかけで始まってて。それが気づいたらライヴをするようになって、気づいたら同人でCDを出すようになって………始めた頃は自分がそんなことするなんてまったく思ってもなかったことだったんですけど、でも、それはそれで凄く楽しかったんですよね。で、何人かで集まってライヴをするようになっていった中で、2年前かな(2016年)、ワンマンライヴをすることになって。当時はまだ曲とかあんまり作ってない頃だったので、ほとんどカヴァーでライヴをしたんですけど、その時に違和感みたいなものが凄くあったんです。お客さんが目の前にたくさんいて、しかもワンマンで、たくさんの人が自分のことを観にきていて、自分はステージで歌っていて………だけど、その時にお客さんの表情を見ながら、この人達はきっと僕の声だったり歌い方だったり、もしかしたら僕自身に対して何か興味を持ってくれて観にきてくれているけど、でもカヴァーって要は他人の曲なので、僕は他人の言葉を借りて自分の声に乗せて歌っているだけなわけで………それをステージで歌ってる時になんか凄く違和感があって、それがどんどん強くなって」

■その違和感の正体はなんだったんだと思いますか。

「この人達はきっと僕の声も含めて外側というか、そういう部分を好いてくれてるんだろうけど、でも僕のもっと内側の部分、僕の心の中にある、たとえばヒリヒリしたようなところは何も知らないんだよなって思って………そういう部分も知って欲しかったから(自身が作詞作曲した歌を歌うということを)始めたんだろうなって思います」

(中略)

■“僕らまだアンダーグラウンド”では<手放したんだっていいさ 最低な夜を越えようぜ/まだ見ぬ世界を潜っていける>と歌ってますけど、今いる場所を飛び出していこうという感覚がこのアルバムには強い。自分ではどうしてそういう心情になったんだろうなと思いますか?

「いろんな要素があると思うんですけど、自分の中に生まれてきている前に進もうっていうこの感覚は、一番は自分の好奇心から来ているものだなと思っていて。……今自分がいる場所って、凄く居心地がいいんですよ」

■はい。

「居心地がいいと、そこから離れたくないじゃないですか。だけど、ほんとにそれでいいのか?っていうのは自分の中にあって。……明日のことだったりもっと先のことだったりを考えてると、どうしても不安なことも多かったりするんですけど。どっちかっていうと過去のことを振り返っているほうがラク――思い出っていうのは美化されるものであるっていうことも含めて、過去を振り返るほうがきっとラクだし、きっと凄く居心地もいい。だけど、まだ明日っていうものもその先もどういうものか自分にはまったくわからないし、どういう方向に進んで行きたいかっていうことすらも自分でもわからないんですけど、ただ、この夜を越えて明日を迎えようぜって、迎えてみたら自分の中にまた新しい感情が芽生えるかもしれないぞって、それは凄く思ったし。………僕は曲を作って聴いてもらう度に、自分の中にいろんな新しい感情が生まれてるなって思うんです。曲を作ったりMVを作ったりすること、そしてそれを聴いたり観たりした人からの反応によって、自分の中にどんどんいろんな感情が入ってきて、いろんな新しい感情が生まれて……きっとそれによって、よくも悪くも自分が生まれ変わっていくんだなっていうのは強く感じてるし、そうなりたいと思う節があるんですよね」

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text by有泉智子

『MUSICA2月号 Vol.142』